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第52話:ツインドラゴンゾンビ

パソコンは無事返って来そうですので、投稿ペースは何とかなりそうです。


 ライラを先頭に階段を降り迷宮を進んでいると、先程と同じく魔物が寄ってきた。


 前方から来る強力な魔物は先程までと同じくライラが対応し、戦いに誘われてきた比較的弱いのは、シラキリとアーサーが対応をする。


 壁から現れる霊体系の魔物は問題ないが、地面から這い出てくるゾンビ系の魔物が厄介であある。


「うわ! またか!」 

「えいや!」


 シラキリはアルバートの足を掴んでいた、ゾンビの腕を右手の小刀で斬り裂き、左手の小刀でゾンビの首を斬り裂く。

 

 何の予兆も無く足元から生えてくるゾンビの腕は厄介であり、何度も足を止められる。


「その通路は右です!」

「承知!」


 別れ道に差し掛かるとシラキリが進む方向を選択し、ライラが呼応して進む。


「二十歩程先に罠があるので、右によって歩いて下さい」


 魔法系の罠はライラの撒き散らす白い炎が勝手に解除してくれるが、物理系はそうもいかない。


 元執事であるアーサーか、シラキリが目聡く発見してくれるので、全て避けられている。


 ライラの戦いぶりは、俺が想像していた様な、異世界らしい戦いだ。


 剣を振るい、魔法を唱え、迫りくる魔物を討伐する。


 少々剣が特殊過ぎるせいで戦いぶりが異次元となっているが、俺もあのように戦えればと考えてしまう。


 …………訂正、流石にこれは俺には無理だ。


 なんで空中で剣を分離させ、それを足場にして踏み込んで、更に剣をぶん投げながら二つの魔法を同時に発動させ、剣で斬り付ける事ができるんですかね?

 動きもかなり早く、一撃として攻撃を受けていない。


 迷宮なのに迫りくる魔物が多く、後ろへ通さないようにしているのもあるのだろうが、それにしても素晴らしい弾幕だ。


 歩いていると違和感を感じ、横に避けると足元から手が生えてくる。


 直ぐにシラキリが手を伸ばしてきたゾンビを倒し、再び後方に下がる。


 完全に散歩の気分になってきてしまったが、もしもライラが魔物を通してしまえば、一瞬で死んでしまうので、一定以上の緊張感は必要だろう。


 ライラが殲滅しながら進んでいると、通路の終わりが見え、魔物が急に湧かなくなった。


「ふぅ……どうやら、主の居る広場まで来たようだな」


 さっきの階層では運良くスキップできたが、迷宮のダンジョンが、ただ通路を進んでクリア……なんて事はない。

 

「シラキリ。雑魚が湧くようなら頼むぞ。アーサーはこいつ等を守ってやれ」


 迷宮のダンジョンでは、いま目の前にある広場の様なモノが迷宮には幾つか在り、そこには通路に湧くより強い魔物が待ち構えている。


 先程ライラが言ったように主と呼ばれ、かなり厄介となる。


 しかも倒すまで通路を進むことが出来ないので、必ず倒さならないといけない。


 ダンジョンによっては現れる魔物について詳細に調べられていたりするが、墓場の掟は殆ど情報がない。


 基本的に稼ぎ用のダンジョンなので、仕方ないのだろう。


 ライラを先頭に広場へ入ると、中央付近に魔法陣が現れ、そこから魔物が現れる。


「ッチ。外れだな。ヘイトだけ集めよ。こいつはシラキリでは倒せんからな」

「分かりました」


 魔法陣から現れたのは、二体のドラゴンゾンビだった。


 これまでは一体も現れなかったが、運の悪い事この上ない。


 ライラは分離させていた剣を一本にまとめ、ドラゴンゾンビの懐に接近するが、振るわれた尻尾を防御したことで足を止められる。


 流石に弾き返すのは無理らしく、地面に足後を残しながら尻尾を防いだ。


 その防いだ尻尾を地面へと叩き付け、その反動を利用して空へと跳んだ。


 口から吐き出された紫色のブレスに、白い炎を放ち相殺した。


 そこからは一歩攻めあぐねる様な戦いとなるが、徐々にドラゴンゾンビの身体を削っていく。


 強い魔法で一気に倒さないのは下手に強いのを使えば、俺達にも被害が出るからだろう。


 消耗を気にしているのもあるのかもしれないが、シラキリがもう一体のドラゴンゾンビを、引き付けるのを待っているのだろう。


 流石に二体を同時に相手するのは、ライラも分が悪いのだろうからな。


 シラキリを前に出したのは、シラキリの不満を取り除くのと、アーサーを守りとして使った方が、安定感があるからだな。


 音によって魔物の出現を察する事ができるが、見ていた感じアーサーの方が安定感がある。


 魔法では倒せていないが、使っている土の魔法で上手くサポートが出来ていた。


 俺達が壁端で戦いを眺める中、シラキリは危なげなくドラゴンゾンビの攻撃を避けながら、少しずつライラから距離を取っていく。


「コキュートスマキナ!」

 

 ライラが魔法を唱えると、ドラゴンゾンビを囲むように八本の氷の槍が地面へと刺さり、結界を形成した。


 結界の中では吹雪が巻き起こり、ドラゴンゾンビを白く染め上げる。あっという間に全身が凍り付き、動きを止めたドラゴンゾンビを脳天から剣でかち割ってバラバラにしてしまった。


 これまでみたいにドラゴンゾンビの破片が消えない辺り、実体型のようだ。


 ドラゴンゾンビは確か素材としては全く使えないので、ここで実体の魔物が出てもうま味がない。


 凍らせてくれたからそうでもないが、ただ匂いが残って臭いだけである。


「シラキリ! 下がれ!」

「はい!」


 シラキリに下がるように命令したライラは、剣先をもう一体のドラゴンゾンビへと向ける。

 その先には巨大な魔法陣が現れ、徐々に色づいていく。

 

「虚無より這い出し怨嗟の炎よ。大いなる闇を呑み込み、灰塵とかせ! エンシェントカタストロフ!」


 詠唱的に本来は火と闇だと思うが、俺の祝福のせいか赤と白の炎が螺旋を描きながらドラゴンゾンビを飲み込む。


 低く洞窟全体を揺らすような咆哮が響き、突如として止んだ。


 炎の通り過ぎた後にドラゴンゾンビの姿はなく、拳大の魔石が一個ポツンと落ちていた。


「やっぱすげぇや……」

「あんな詠唱聞いたこと無いわ……一体どこで覚えたのかしら?」


 端っこでミランとベレスがぽつりと呟いた。


 巨大な魔物に一人で挑む様は、冒険者として目指すべきものだろう。


 しかも相手はゾンビとはいえドラゴンだ。

 

 煌びやかな髪を靡かせ、巨大な剣を振るい、様々な魔法を使う。


 最初は怖がられていたが、今のライラに向けられている視線は、尊敬や憧れと言った感じだ。


 吊り橋効果もあるのかもしれないが、祖国では酷い扱いを受けていたらしいので、俺の近くに居る間くらいは不当な扱いをされないようになってほしい。


「二人共お疲れ様です。体力は大丈夫ですか?」

「問題ない。このまま一気に進んでしまおう」

「私も大丈夫です」


 二人共息の乱れはなく、疲れの色も見えない。

 この様子なら問題ないか。


「そうですか。引き続きお願いしますね」


 先ずは一ヵ所目。


 広場の数はランダムとなるので、後幾つあるか分からないが、少ない事を祈るばかりだ。









1







 



「ふーむ。これはやっちゃったパターンかな?」


 ライラが二体のドラゴンゾンビを倒していた頃、墓場の掟にピンク髪の少女……女性が訪れていた。


 彼女の名はミリー。サレン達がダンジョンへと向かってから今回の件を再調査していた。

 思った以上に今回の件が複雑な状態になってしまったので、急遽墓場の掟へと来ていた。


「中層……いや、深層か。ダンジョンは私の管轄とは外れているし…………う-む」


 頭の後ろで腕を組み、上半身を右へ左へと、揺らしながら悩む。


 現在ミリーは騎士団の特権を使い、ギルドを通さずにダンジョンへ入っている。


 C級冒険者としてダンジョンに入ってれば、サレン達を助ける場合に大量のしがらみが出てくる。


 いくら一部の幹部クラスに伝手があるとしても、誤魔化せる事には限度がある。


 しかし今ならば、誰に憚ることなく、助けに向かう事が出来る。


 だがサレン達だけではなく、他の二つのパーティーがネックとなる。


 黒翼騎士団は特性上、一般市民に存在を知られるのは宜しくない。


「…………まあ、大丈夫か。最悪の場合、ダンジョンが一個無くなるだけだろうし」


 凄腕の暗殺者であるアーサーが居れば、物理的な罠は問題なく対処できる。

 

 奇襲についてはシラキリが瞬時に反応できるので、アンデッド特有の地面や壁からの嫌らしい攻撃で死ぬなんて事にはならない。


 そして何よりも……。


「サレンちゃん次第だろうけど、殆どライラちゃん一人で倒せるだろうなー」


 最低でも死に掛けていたシラキリを、治せるほどの治療が出来ると分かっている。


 その治療と同程度のターンアンデッドか、それに準ずる奇跡が使えるのなら、このダンジョンはただの狩場でしかない。


 自分が態々助けに行かなくても大丈夫だと判断した。


 念のため上層の調査を行い、問題ない事を確認してからダンジョンを出て行った。


 最近はシラキリやライラとよく一緒に居るミリーだが、これでも多忙な身である。


 罠に引っ掛かった事は心配だが、本分である騎士の仕事が残っている。


 三ヶ月後までに、一通り仕事を済ませておかなければならいのだ。

 

 ライラが心変わりするはずは――無いのだから。


「一応ネグロっちに、王国の件をもう少し教えとくか。全く、帝国にちょっかいを掛けるなんて、馬鹿だよねー」


 中央大陸最大の国家である、フェンダリム帝国。


 この帝国を治めている帝王は、民に対して一つの格言を言い放った。


『やられたらやり返せ。嘆く事は許さぬ』


 自ら攻める事を止めた帝国は、専守防衛を掲げているが、一度攻められたら止まる事はない。


 そして攻める事はしないが、白翼や黒翼のが暗躍している。


 芽が出る前に摘み取る事で、事態を早期に終息させる。


 それが、決して表に出る事はない、黒翼騎士団の仕事だ。

 

 

ネグロ「へっくしょん!」

マチルダ「風邪ですか? 酷くなるようなら治してくださいよ」

ネグロ「分かっている。妙な寒気もするし、これ以上忙しくならなければいいのだが……」


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