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第50話:努力する悪魔

 一騎当千。或いは化け物。


 名立たる魔物を魔法で薙ぎ払い、剣を投げたり分離させたり、様々な方法で倒していく。


 薄暗い通路を白い光が満たし、その度に魔物が倒されていく。


 あまりにも圧倒的。


 その姿を見たマイケル達のパーティーは、絶句する事しかできなかった。


 強いのは分かっていたが、自分達よりも幼い少女が、B級やA級の魔物をそこらのゴブリンの様に倒せるとは思わなかった。


 四人の中で一番ライラの異常さを理解しているのは、魔法使いであるベレスだ。


 双竜の乱唯一の女性であり、火と風の魔法が使え、自分が使える魔法以外もそこそこ覚えている。


 魔法とは通常、魔力を練り、詠唱をする事で発動する。


 ベレスが持っている杖の様に、魔法を発動する際の補助具があれば、詠唱を省略したり、発動の際に威力を上乗せしたりする事が出来る。

 補助具は性能の良いものほど高くなり、ベレスが持っているのも、村で師事していた人のお下がりだ。


 普通に買えば二十万ダリア程するので、新人が買うのは難しい。


 ライラの使っている武器が異常なのだと、嫌でも分かる。


 そして武器もだが、魔法に詳しいからこそ、ライラの異常性が分かる。


 それはフィリアもだが、補助として魔法を使うものと、魔法を主体として使うものでは、魔法に対する感覚が違う。


 魔法は簡単に分けて初級。中級。上級。最上級。戦術級。戦略級に分かれている。

 

 最上級以上を使えるのは殆ど貴族となるのだが、燃費も悪いため、ダンジョンなどで使われる事はない。


 だが、最上級以上の魔法を燃費よく使う方法がある。


 それは、属性を融合……複合させることだ。


 しかし多くても二属性、稀に三属性を使えるのが普通であり、更に言えば属性を融合させることは極めて難しい。


  ベレスも試した事があるが、発動する所までもっていく事が出来ず、暴発してしまった。


 しかも長々と詠唱をしてだ。


 なのにライラは魔法名だけで様々な魔法を使い、更に剣でも戦っている。


 高位の魔法使い……宮廷魔術師でも、ライラの様に戦うのは無理だろう。


 魔法は才能だけで使う事が出来ない。


 それはベレスが教わってきた事だ。


 使える属性は産まれに依存するが、その属性を使うには努力するしかない。


 下手に属性が多いよりも、一つの属性をコツコツと練習した方が強くなれたりする。


 するのだが……。

  

「ふふふ……」


 先程までは、マイケルの様に絶望していた。


 だが、これだけの魔法を見せられたベレスは、絶望よりも高揚感の方が勝ってしまった。


 魔法を探求をする者は、多かれ少なかれ変人なのだ。


 ライラを師にすれば、もっと色々知ることができ、強くなる事が出来る。


 ある地域では悪魔と呼ばれているライラは、ベレスから見れば賢者であった。





 



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「えい!」


 アーサーと共に後方に控えているシラキリは、地面から這い出てきたデビルゾンビの首を斬り飛ばした。


 自分も戦う事が出来る。なのに何故後方に回したのか?


 そんな不満はあるが、ライラの戦い様を知れば、その不満も四散した。


 だが、違う不満がシラキリの胸の中に宿る。


 これまでライラとミリーの三人でダンジョンに潜り、どちらも自分より強いのは分かっていた。


 今も進行方向からは白い光が輝き、魔物の呻き声が聞こえてくる。


 自分では、ライラの様に戦う事は、シラキリには不可能だ。


 保有してる魔力量や、使える属性。戦闘の経験。全てにおいて、シラキリが勝るものは無い。


 けれども、勝てないのは分かり切っているので、嫉妬や不満などない。


 シラキリが不満に思っている事はサレンに、頼りにされたことについてだ。

 

(むー)


 ミリーにより短期間で英才教育され、アーサーによって言葉遣いや、作法を教えられている。


 しかしまだ中身はお子様なのだ。


 自分では駄目だと分かっていても、やはり頼りにされたいのだ。

 

 ライラへの不満……と言うよりはサレンへの不満なのかもしれない。


 普通なら微笑ましいかもしれないが、シラキリは不満を募らせながらも、C級のデビルゾンビを一太刀で倒している。


 サレンの加護があるとはいえ、戦う様になってまだ一ヶ月も経っていない少女が倒せるような魔物ではない。


 ライラの傍若無人ぶりに目を引かれてしまうが、後ろで戦っているシラキリとアーサーも大概だ。


 前方に現れるのはA級以上の魔物ばかりだが、戦いに釣られてB級やC級の魔物が地面や壁から現れていた。


 アンデッド系の魔物の嫌な所は、ダンジョン内を徘徊しているだけではなく、壁や地面からも現れる事だ。


 突如足元から現れ、そのままやられてしまうなんて事も起こる。


 歩くだけでも大変となるのだが、暗殺者であるアーサーと、兎の獣人であるシラキリからすれば、苦にはならない。


 真ん中に居るマイケルやオーレンの所に魔物が現れても、持ち前の脚力で一気に接近し、一太刀で倒していた。


 ライラが強力な魔物を引き付けているのもあるが、それでもランク詐欺と言えるだろう。


 そんな三人の頑張りもあり、遂に次の階層へと繋がる、階段まで来る事が出来た。


 階層を飛ばされるような罠はS級クラスのダンジョン位にしかなく、普通は知らないような事だが、階層を跨ぐ所には、現在の階層が表されている。

 少し前、ミリーに渡されたパンフレットを読んでいたライラはそのことを知っている。


「六十三層か。シスターサレンの読みは当たっていたようだな」


 階層の変わり目には魔物が湧かないため、ライラは一度武器を収めて一休みした。


 本来ならA級の冒険者が束になって進むダンジョンを、一人で戦っているのだ。


 その疲労は凄まじいものとなっている。


 額からは汗が吹き出し、息も荒くなっている。

 

「少し休憩しましょう。此処なら魔物も襲ってこない筈ですから」

 

 サレンはライラの様子を見て、休憩が必要だと判断した。


 休憩が必要なのはライラだけではないが、ライラが倒れるという事は、全員の死を意味する。


「……一時間だけ休ませてもらおう」


 壁へと寄りかかったライラは目を閉じ、少しでも身体を休めようと努める。


 そんなライラを見たサレンは、アーサーに荷物を渡した後に、ライラへと近づいて行く。


 少しの悪戯心と、労いの思いを持って。


「失礼しますね」

「うむ?」

 

 ライラの隣へと座ったサレンは、ライラの頭を抱え、自分の膝の上に乗せた。

 

 突然の事にライラは珍しく呆けてしまい、目を数度瞬かせた。


 サレンの手が優しく頭を撫で、何をされたかようやく理解したライラは疲れとは別の意味で顔を赤くさせる。


 サレンが行ったのは、俗に言う膝枕だ。


 頑張っているライラに、少しでもしっかりと休んでもらおうと思ったのだ。


 後はマイケルやオーレンから向けられている、視線を和らげようという魂胆もある。


 ライラは口元をもごもごと動かすが、何も発することなく、目を閉じた。

 

 この幸せな時間を、少しでも長く感じるために。

 

 そんな二人を、シラキリは頬を膨らませながら見ていた。


「頬を膨らませてないで、食事と飲み物を配りますよ。物資は使える時に使わないとですからね」

「……分かりました」


 アーサーに論されたシラキリは、サレンが持っていた大きなカバンから食べ物や飲み物を取り出して配り始めた。


 転移させられて直ぐの頃は散々文句を言っていたマイケルやオーレン達だったが、ライラやシラキリ達の戦いを見せられたせいか、今は意気消沈して静かなものである。


 二名程視線が怪しい者も居るが、生きて帰れるかもしれない希望が、全員の胸に湧き上がってきた。

 

 転移装置があるのは、六十五層の最奥。


 どれだけ強くても、個人の力には限界がある。


 犠牲が出るのが先か、ダンジョンから脱出するのが先か……全ては、今は安らかに眠っている、ライラに掛かっている。

マイケル「なあ。あの剣ってかっこ良くないか?」

アルバート「分かる。ただ、あれって補助具の役割もしてるんだろう?」

ミラン「百万じゃあ済まんだろうな……」

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