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防御特化とオーブ集め。

さらなる成長に繋がる体験をしたサリーはその後、名もなき小規模ギルドを一つ潰した。

崖下のギルドを潰した後しばらくしてドレッドに会ったサリーだが、その間にもう一つギルドからオーブを掠めていた。

つまりサリーは今オーブを三つ持っている。

三つというと、そろそろ一度【楓の木】に戻る頃合いとなる。


「そろそろ最初に奪ったオーブの得点が入る頃かな」

このイベントが始まってから過ぎた時間の内にいくつもの戦闘が起こった。

当然大型ギルドが最も戦果を上げているが、中規模ギルドも戦略を駆使することで対抗していた。

流石に小規模ギルドは一つを除いて劣勢だった。


時間加速するフィールド内の開始時間設定は正午。

もうしばらくすれば日も落ち始める。

夜は今ほど見通しが良くないため、各ギルドの攻撃は激しさを増すだろう。

当然、サリーの襲撃も闇に紛れることでより大胆になる。


「ささっと帰ろう」


サリーが急いで帰る中。

メイプル達は足を踏み入れてしまったプレイヤーを倒していた。

入ってきたプレイヤーが三人だったためユイとマイが鉄球投擲で倒すこととなった。


「「メイプルさん!新スキルが手に入りました!」」


「えっ!それはすごいね!」

ユイとマイは自分のスキルの能力をメイプルに隠すつもりがないようで、スキル名と取得条件、効果を教える。


スキル名は【飛撃】で、取得条件は【投擲】でとどめを刺すこと。

効果はその名の通り武器を振った際に攻撃が飛ぶのである。

つまり剣を振れば斬撃が、ハンマーを振れば円形の衝撃が真っ直ぐに飛んでいくのだ。

本来の攻撃より威力は落ちるものの、ユイとマイなら落ちてもなお即死圏内だ。


「次の戦闘で使ってみる?」


「止めておきます。切り札は隠しておく方がいいってサリーさんも言ってましたし。ちょっと奥で試して終わりにしておきます」


「じゃあ、行ってきていいよ」

ユイとマイはオーブの防衛から離れて新たなスキルの使い心地を確かめるとすぐに戻ってきた。

役に立ちたいという意志がはっきりと感じられる、やる気に満ち溢れた目だ。


「三人共、サリーとクロムがこっちに向かってるみたい」

カナデがマップを確認しつつ話す。

カナデは魔導書の消費を【影縫い】のみに抑えており、メイプルは【身捧ぐ慈愛】でのサポートがメインで夜に備えることが出来ている。

それもこれもユイとマイが頑張っているお陰だ。

ただ、二人もそろそろ疲れてきている頃だった。

プレイヤーを倒しきる度に座り込んで休んでいることも考えると限界だろう。


「サリーも戻ってくるし、クロムさんも帰ってくるし、二人は一回休んでおいて。疲れてるでしょ?」

メイプルがそう言うと二人は素直に従ってまた奥へと向かった。

やる気だけでは体は動かない。

時には休む必要がある。


「カナデは休まなくていいの?」


「僕はほとんど動いてないしね」

そうしてメイプルがしばらくカナデと話しているとクロムが帰ってきた。


「カスミとイズは小規模ギルドを攻略中だ」


「二人で大丈夫かな……」


「ああ、イズが延々と爆弾を作ってはカスミが洞窟内に転がしてる。しばらくすれば終わるだろ」

そんな戦略を取れるのはイズだけである。仮に他に出来るプレイヤーがいたとして、同じように洞窟に拠点があるメイプルが受けたとしても爆音がうるさいだけで無傷だろう。


「んで、防衛に戻ってきた訳だ」


「ユイとマイがかなり疲れてきているので…助かります」

ゲーム内でそれぞれ一位と二位の強さを持つ大盾が防衛するのだ。

たった二人でもその死ににくさは圧倒的である。




防衛を安心して任せられるからこそ、攻撃に専念出来るというものだ。

だからカスミとイズは時間をかけて確実にギルドを落とすという選択が出来る。


「はい、どんどん転がして」


「ああ。任せろ」

大型爆弾。

工房でのみ生産出来るそれを、イズならばどこでも作ることが出来る。

素材は金で生み出せるのだ。

資金は集められるだけ集めたため、大型爆弾を大量に作ったとしてもまだまだ余裕がある。


カスミは次々手渡される爆弾を坂になっている入り口に放り込む。

それは坂をころころと転がっていき、しばらくして爆音を発生させる。

そして、最初のうちは聞こえていた悲鳴も次第に小さくなっていった。


「……終わったかしら?」


「私が先頭で入ろう」

カスミはイズを守るようにして刀を構えて坂を下っていく。

その先にあるオーブの部屋は爆発によって焦げた跡が地面に点々と残っていた。

辛うじて生き残っていた一人のプレイヤーがふらふらと立ち上がり剣を構えたものの。


「【一ノ太刀・陽炎】」

走って近づき、さらにスキルで瞬間移動し目の前に現れたカスミによって斬り伏せられた。


「ふぅ……やはりサリーが異常なだけか」

サリーはこれをしゃがんで躱してきたが、何度試してもこの攻撃を躱してカウンターに繋げてきたのはサリーだけだった。

堅実に倒すことがクロムとカスミの持ち味だ。

【楓の木】の中では最も普通よりなカスミは奇策を用いないからこそひたすらに安定している。

勝てるものには必ず勝つ。

弱点を突かれるといったことがないためである。


イズやクロムの心臓に優しいプレイヤーである。

もっとも、敵から見れば全く優しくなく理不尽なまでに強いのだが。


「さて、オーブを奪って戻ろうか。復活されても面倒だ」


「そうね。そうしましょう」

カスミはオーブをしまうとギルドへと戻ることにした。

きっちり一つ一つ成果を持ち帰ることでアクシデントがないように努めたのである。



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