防御特化と敵二人。
今回のイベントは全編を通して三つのギルドを描くため、視点がころころ変わってしまって読みにくいかもしれないです。
時系列を遡ることは出来るだけ避けて、読みやすい文章を作るように心がけますのでご了承下さい。
カスミ達が偵察部隊をさくさく屠っている頃、【楓の木】から遥か遠くにある【集う聖剣】ではフレデリカとドラグが防衛担当となっていた。
「あー!私も攻めたーいー!」
「仕方ねーだろ。俺達は足おせぇからな」
ドラグの言うように、二人は【AGI】にはあまり振っていない。
その為【AGI】特化の偵察兼攻撃部隊に割り当てられなかったのである。
フレデリカは大きめの石に座って退屈そうに足をぶらぶらさせていた。
【集う聖剣】は大型のギルドなため、防衛には適さない地形にオーブがある。
場所は平地に囲まれた岩場で、岩場までくると見通しが良くない上に侵入経路が多い。
オーブのある場所に天井はなく、岩から飛び降りての奇襲も考えられる。
ただ洞窟が幾つも近くにあり、オーブは隠せないものの休める場所ではあった。
そうして暇を持て余していた二人の元にギルドメンバーから敵襲の知らせが届いた。
それを聞いた途端に二人の雰囲気が変わり、ビリビリと威圧感が出始める。
「数はー?」
「およそ四十です!こちらの防衛に匹敵する人数です!」
「それなら俺らが行った方がいいな。犠牲は減らせってペインに口うるさく言われたしな」
「だねー……さっさと潰そうー」
「行くか。ああ、そうだ……全員下がっとけ。俺らでやる」
「ふ、二人でですか?」
「ああ、問題ない」
強者故の慢心ではないかと報告した者は思ったが、二人の威圧感に負けて素直に下がった。
二人が最前線へと向かうと、報告の通り四十程が平地を真っ直ぐ向かって来ているところだった。
「うちの監視部隊は優秀だねー」
「だな」
ドラグは大斧を担ぎつつ四十人のプレイヤーを見据え、自分の範囲へと入ってきた瞬間に大斧を振り下ろした。
ただ、ドラグの範囲は普通の大斧使いとは大きく違っている。
「【地割り】!」
その範囲は前方二十メートル。
地面に50センチ程の深さの裂け目を無数に生み出し、動きを止めるのである。
真っ直ぐ進もうとしていたところに亀裂が入れば足をとられてバランスを崩してしまう。
そして、ドラグがフレデリカと共に戦う際にこの支援は最大限効果を発揮する。
「【多重炎弾】!」
フレデリカの周りに展開された魔法陣から次々と炎弾が撃ち出される。
それらは足を取られたプレイヤー達を次々に撃ち抜いていく。
フレデリカが持っている特殊な能力は【多重詠唱】である。
使用する魔法三発分のMPでそれよりも遥かに多い数の魔法を発動するという反則じみたスキルで、サリーと戦った時のように【多重障壁】によって防御能力も高水準である。
「【重突進】!」
フレデリカが魔法を放つ中をドラグが突進していく。
そして振り抜かれた凶悪な斧が裂け目から脱出したところのプレイヤーを地面に叩きつけるようにして斬り裂いた。
「オラァ!!【バーンアックス】!」
燃え盛る斧を振り回し防御を捨てたドラグは隙だらけだが、同時に高火力である。
近づいてくる者を倒し続ければ当然攻撃は受けにくくなる。
攻撃は最大の防御という訳だ。
ただ、今回の相手は四十人。
流石に囲まれて全方向から攻撃される。
ただ、相変わらずドラグが防御に意識を向けることはない。
そうなると当然スキル込みの攻撃がガンガン飛んでくることになる。
「【多重障壁】!【多重水壁】!」
しかしそれらはフレデリカが次々に繰り出す防御壁により威力を失っていき、ドラグのHPを削り切らせない。
フレデリカが守ってくれることを知っているドラグは防御に意識を向ける必要がないのだ。
「【グランドランス】!」
ドラグが地面を叩きつけると、ドラグを中心にして六本の岩の槍が地面から突き出る。
真下から貫かれたプレイヤーは脱出しようともがいた後にフレデリカの魔法のダメージも重なって次々と倒れていった。
「こんなもんか!?ハッ!」
「【カバー】!」
ドラグの斧を大盾使いが受け止めるものの、そのままに振り抜かれた斧に庇った味方ごと吹き飛び地面に倒れる。
これがドラグのもう一つの個性。
【ノックバック付与】である。
ドラグの攻撃を防御すれば吹き飛び、その身に受ければ大ダメージだ。
「【重突進】!」
追撃の斧が容赦なくHPを削り取る。
一度倒れてしまったならばドラグの追撃を受けて、さらなる衝撃に立ち上がれずに終わってしまう。
どんな時も攻撃力は正義だ。
しかし、それを振るえる環境がなければ意味がない。
その点において支援と攻撃を続けるフレデリカは超一流の後衛だろう。
「【多重光砲】」
フレデリカの周りに現れた四つの魔法陣。数秒後、そこから放たれたレーザーがプレイヤーを包む。
彼らもスキルで応戦するものの、フレデリカへに接近出来ないため有効打にならない。
彼らはドラグに背中を向けてフレデリカに向かうことが出来ないのだ。
それは死を意味するからだ。
たった一人、ドラグを無視出来ない理由の一つとしてドラグが有名なこともあるだろう。
多くの場合、自分より上だと明確に感じた相手に出せる力は100%になりえない。
「「「【ウォーターウォール】!」」」
彼らは脱出しようとして逃げ腰になったせいでさらに人数を減らし、残り十人程度になった所でようやく隙を見つけ全速力で逃げ出した。
ドラグは追いかけようとしたものの、自分より足が速いことを理解しフレデリカの元へ戻った。
「ふー……暴れた暴れた」
「相変わらず人使い荒いよねー!荒いよねー!?いつも前のめりなんだから!」
「悪りぃ悪りぃ。でも役に立ったろ?」
「まーね。ドラグは動きが分かりやすいから支援しやすいしー」
二人で撃退すると言い切った彼らの中には確かに強さ故の慢心もあっただろう。
だが、本物の強者は次元が違う。
彼らはその上で勝ちきる。
「フレデリカもアレだな。どうしてMPが切れない?なぁ?」
「ふふーん!秘密でー」
フレデリカはそう言うとオーブの元へと歩いていく。
ドラグもその後をついていく。
「あの人達も無謀だよねー。せめて私達の所以外にすればいいのに」
「俺達は少し前は洞窟にいた。だから見られなかったんだろ」
「あー……そうか。あの人達も運が悪いね」
「だな」
見事に防衛しきった二人はギルドメンバー達に尊敬と少しの嫉妬を与えた後、再びオーブの周りで話し始めた。