防御特化と偵察部隊。
「さて…ここは人数少なそうだね」
サリーが岩陰から見下ろすギルドは現状五人しかプレイヤーがいなかった。
メイプルのようなプレイヤーでない限り一人で防衛をこなせるような者などいない。
となると防衛には普通なら多めに戦力を割くことになるが、そうしていない以上【楓の木】と大して変わらない人数であることが予想出来た。
「よし……倒そう」
サリーは岩陰からスルリと抜け出て足場から足場へ隠れつつ移動する。
大人数でやってくればすぐにバレてしまう場所だが、一人なら注意深く移動すればそうそうバレない。
「朧、【瞬影】」
そしてついに隠れ場所がなくなったところでサリーは姿を消し、その一瞬でギルド周りの茂みに隠れた。
サリーがそっと聞き耳を立てると、プレイヤー達は気付いていないようだった。
上から観察していたサリーは、五人全員が常に上を見ている訳ではなく見ているのは一人だけで、残りは歩いての侵入が可能となる細道を見張っていることを知っていた。
「さて……やろう」
サリーは茂みから静かに姿を現し、一気に崖上を見張るプレイヤーに近づく。
サリーは声を上げる間もなく倒すことも出来たが、敢えて少しだけ攻撃を遅れさせた。
「て、敵襲!!」
プレイヤーはそう叫んだ直後にサリーに倒されてしまった。
そして、上を見張るプレイヤーが敵襲と叫んだため残りの四人が急いで近づいてきて上を見上げる。
サリーが隠れ直した茂みのそばで。
四人の注意は上方向に集中し、サリーが地面すれすれを走ってきて斬りつけてきていることに気づくのが遅れた。
四人のレベルや装備はサリーに遥か劣っていたようで、最後の一人が一度反撃の剣を繰り出した以外に出来ることはなかった。
「スキルも見せてないしいい感じ……このギルドに追われても大丈夫そうだし、もう一つ行こう」
サリーはオーブを奪うと細道の方から上へと戻っていった。
サリーはマップを確認すると少しの間だけ考えた。
奪ったオーブを持っているため先程のギルドに常に位置がバレているので長考は危険なのである。
「次も小規模……いや、あそこはちょっときついか。うーん……もっと遠くまで探索した方がいいかな?大規模ギルドの位置も掴んでおきたいし」
サリーは方針を決めるとまだ探索していない方向に向かって走り出した。
防衛を任されたメイプル達は見事にその役目を果たしていた。
メイプルが見せた重要なスキルは【身捧ぐ慈愛】だけであり、またそのスキルが貫通攻撃に弱いことを悟らせることもなかった。
全てのプレイヤーを粉砕したユイとマイはメイプルのそばで座り込んだ。
「はぁ……はぁ……疲れたぁ……」
「うん……ふぅ……そう、だね」
ユイとマイが攻撃を一手に受け持って動き回っていたためその疲労もかなりのものである。
「まあ、もう当分こないとおもうけどね。流石に僕達にあれだけやられてもう一回挑戦はないよ」
カナデの言う通り、やられた者達は既に奪還を完全に諦めていた。
一日目が始まったばかりで死亡回数が二回になるのは論外である。
「三人は偵察部隊を倒しに行ってるし、サリーは……かなり遠くにいるなぁ」
メイプルがマップを確認しながら呟く。
サリーのアイコンはギルドから離れるようにして移動し続けていた。
メイプルはマップを閉じるとふぅと一息ついた。
「うん、休憩しておこう。簡単に奇襲も出来ないしね。四人に攻撃は頑張ってもらっておこうっと」
メイプルからの期待を受ける四人のうち【楓の木】のブレーキ兼保護者担当の三人は予定通り偵察部隊を屠っていた。
「イズのこれ、便利だな」
「でしょう?【ドーピングシード】は本当強いわ」
【ドーピングシード】とは【新境地】により作ることが出来るアイテムで、一つのステータスを10%上昇させるかわりに一つのステータスが10%減少するというものである。
一度に五個まで使用出来て、効果時間は十分と長い。
ただしどのステータスに影響するかは製造後にしか分からないため、欲しいものを作るためには大量の素材を使わなければならない。
イズはその素材をゴールドと引き換えに大量生産し、ギルドメンバーに必要なシードを準備していた。
イズはサリーには【VIT】が減少し【AGI】が上昇するドーピングシードを十個渡してある。
クロムは【VIT】上昇と【STR】上昇で、減少は【DEX】だ。
カスミは【STR】上昇で【INT】減少のシードを持っている。
カナデは【INT】上昇で【STR】減少である。
メイプル、ユイ、マイのシードは減少が何でもいいため余り物で問題ないのでイズにとってありがたかった。
これらを全員分生産するためにイズが溶かしたゴールドはギルド二つくらい簡単に作れるレベルである。
「ふふっ……ゴールドの分、しっかり働いて欲しいわ」
「勿論。任せておけ」
カスミが【遠見】でプレイヤーを探し当てると、三人は先回りして集団を倒しに向かった。