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防御特化とオーブ防衛。

投稿が遅くなり申し訳ありません。

サリーはある程度逃げた時に、ギルドメンバーに一斉送信でメッセージを送った。

内容はオーブを掠め取ったので、入り口で受け取って欲しいというものである。

自軍奥まで入ると追手に入口を塞がれてしまう可能性があるためだ。

そうなっては、再びオーブを盗みに行くことが出来なくなってしまう。

最大のチャンスは一日目なのだ。

サリーにとって勝利のためにはみすみす見逃す訳にはいかない。


「よし、見えた!」

真っ直ぐに自軍に向かったサリーの目にクロムが手を振る姿が見えた。

サリーはクロムに近づくとオーブ二つを手渡す。


「すごいな……この短期間で……」


「……私が一日目のうちに稼ぐので、防衛はお願いします」


「おう、任せろ!」

【楓の木】によりオーブを失ったギルドは三つ。彼らのオーブはそれぞれのギルドメンバーのマップに表示されている。

そしてその場所は全て同じ位置。

即興で協力し合うか、それとも奪い返す前に潰し合うか、はたまたオーブの奪還を諦めて必要なくなった防衛戦力と共に他のギルドを攻めるか。


どう転んでも一日目から大荒れになることは避けられそうになかった。


「さて、行こう!」

サリーは休憩も入れずに再び戦場に舞い戻った。そうしなければ大規模ギルドに離されていくからだ。

まだ見つけたギルドが残っているため、次はそれらのオーブを掠め取りに向かったのである。





クロムはオーブを持ってメイプル達の元へ戻り、それらを自軍に置いた。


「やっぱりサリーすごいね!」


「ああ、掠め取ったと簡単に言ってるが……誰にでも出来ることじゃない」

サリーについて話しつつ防衛するメンバーを決める。

そしてメンバーはカナデ、ユイ、マイ、メイプルに決まった。


「俺達は取り敢えず奥にいるぞ」


「危なくなったら……ならないわね」


「ああ、凌いだら私達三人は偵察と削りに出るとしよう」

戦闘が可能になったイズも含めた三人で偵察部隊を屠る予定である。


「じゃあ、私は【水晶壁】を使えるように大盾を変えておこう」

メイプルは攻撃をしない予定なため、【水晶壁】での妨害に徹することに決まった。


「私達は大槌は一本にしておきますね」

切り札は隠しておくものである。


そうして待ち構えること十五分。

次から次へと殺気立ったプレイヤーが飛び込んできた。



中規模ギルドの面々が鬼の形相で雪崩れ込んだ先には四人の防衛戦力。

距離を詰められる前に魔法部隊による面攻撃で倒そうと考えた彼らは、予定通り面攻撃に成功した。


しかし、爆炎が消えた後に現れたのは無傷のまま歩いてくる四人と、一人のプレイヤーの背中の光り輝く天使の翼だった。

彼らが魔法攻撃を防いだと思えるそのプレイヤーを倒しに向かうのは当然であり、その際に大槌を装備している二人を後回しにすることもおかしくなかった。


「【水晶壁】!」

走り抜けようとしたプレイヤー達が、突然現れた水晶の壁に衝突してよろめく。

そして、それは致命的な隙となる。


「「【ダブルスタンプ】!」」

鎧を打つ轟音が響き渡り、一撃ごとにプレイヤーが葬られる。

鮮血のように飛び散るダメージエフェクトに、彼らは認識を改めた。

あの二人はもっとやばいと。

【ダブルスタンプ】は一般的なスキルであり、普通ならば耐えられるダメージなのだ。


魔法攻撃がさらに打ち込まれたが、相変わらずダメージは与えられていない。

その間にも避けきれなかったプレイヤーが儚く散っていく。

それでも圧倒的人数有利に変わりはなかった。

故にまだ退かない。


大槌の動きが遅いこと、羽持ちのスキルの範囲らしき光る地面から二人が出ないこと、さらにそれに部屋の広さを考慮すれば回りこむことが出来ると判断したのだ。


「全員!回りこめ!まずはあの羽持ちを倒す!」

その指令に重ねるようにしてもう一つ別の声の指令が四人の方向から飛ぶ。


「二人共!アレで!」


「「はい!」」

彼らにはアレというのが何か分からなかった。

そんな中、大槌を持つ二人が真っ直ぐ等間隔に並び走り出した。


「【カバームーブ】!……【カバームーブ】!」

効果範囲を示すフィールドが一瞬にして位置を変える。

それも、一度ではなく二度も。

するとどうだろう、後衛のいる場所まで光る地面が到達しているではないか。

それはつまり、あの二人がやってくるということである。


「これっ……は!ひ、退け!」

そう言って危険な二人との距離を確認しようとした彼は、我関せずとばかりに最奥にひっそりと佇んでいたプレイヤーの周りに、本棚が浮かんでいるのを見つけた。


「【影縫い】」

静かに呟かれたその言葉は敵である者達全てを三秒間その場に縫い付ける力を持っていた。


「な、っ……!?う、動けぇぇえっ!」

必死に足を動かす彼らの元に、ついに二つの絶望が飛び込んだ。

振るわれる大槌は【魔力障壁】を突き破ってなお止まらずにプレイヤーを粉砕していく。

永遠にも思われる三秒が終わった時には後衛は壊滅、指揮官は倒され、先行していた前衛は退路を塞がれてしまった。

僅か数分のうちにたった四名に壊滅させられたことで、彼らは理解した。

オーブは諦めて他のギルドを襲った方が何倍もマシだと。


こうして【楓の木】は結果的に他者を潰し合わせるように仕向けることとなり、自軍の安全を手に入れることと他軍を削ることの、二つの目標を一日目の開始早々にして達成したと言える。


そしてその状況を作るためにオーブを手に入れてきた張本人であるサリーは、崖下に見える小規模ギルドを眺めているところだった。




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