防御特化と探り合い。
サリーとの決闘が始まって一分。
フレデリカはサリーを観察しつつ魔法を連打していた。
「んー…確かに当たらないねー」
フレデリカはサリーに一発も当てることが出来ないでいた。
ただ、当てられないとも思わなかった。
サリーは派手な動きで回避しているもののその回避には所々危ない部分があり、攻めに転じることも出来ていないとフレデリカは判断した。
「……もう少し観察したら、倒しちゃおー」
宣言通りサリーの回避能力を観察し続けたフレデリカは、確かにすごい回避能力だと思った。
魔法やスキルで攻撃し続けたものの、一度も当たらなかったからだ。
しかし、フレデリカはまだ全力ではなかった。
「【多重炎弾】!」
フレデリカの声とともに彼女の周囲に大量の魔法陣が展開され、そこから炎の弾丸が次々に撃ち出されサリーを襲う。
フレデリカの予想ではこれでサリーは沈むはずだった。
「【攻撃誘導】!」
フレデリカの耳にもはっきりと聞こえたその言葉。
そして、言い終わった瞬間サリーの動きが完全に変わった。
炎弾がサリーを避けているかのような錯覚すら覚える光景。
まるでサリーを守る何かに導かれているかのように、サリーの数ミリ隣を炎弾が抜けていく。
先程までの危うさは消え去り、気づけばフレデリカの目の前まで来てダガーを振り抜こうとしていた。
「【多重障壁】!」
フレデリカの目の前に金の魔法陣が何重にも現れてサリーのダガーを受け止める。
一枚、二枚、次々と魔法陣が砕けていき、結果五枚の魔法陣が砕け散った。
サリーは反撃を貰わないように後退し、距離をとる。
「使わされちゃったけど……【多重障壁】が見れたからよしとしようか…」
フレデリカは間違いなく強者だ。
強さに自信を持っている。
そのために、経験と照らし合わせてサリーの言った【攻撃誘導】をスキルだと断定。
また、強力すぎるそのスキルに長いクールタイムがあるだろうことに思考が至るのも当然だった。
フレデリカは異常な攻撃力のダガーを警戒すべきだということを新たに得た。
しかしフレデリカは気づかない。
【攻撃誘導】などと言うスキルが存在しないことに。
それは嘘だということに。
サリーはただ見て、そして避けた。
それだけだった。
「【多重水弾】!」
フレデリカが次に撃ち込んだのは水の弾丸。
それをサリーは走り回り、【超加速】まで切ってギリギリで躱していく。
最後には地面を転がってまで何とか逃げ切ったサリーを見てフレデリカは確信した。
【攻撃誘導】にはクールタイムがありそれは少なくとも数分ではないと。
サリーがまいた嘘という種はフレデリカの中にじわじわと根を伸ばしていた。
「【多重石弾】!」
フレデリカはこれで止めを刺せたなら何かを聞いて帰ろうと考えた。
そして、息の上がってきたサリーがちょうどバランスを崩して石弾を避けれる体勢ではなくなってしまう。
「よし、勝ったねー」
フレデリカがふぅと力を抜いた所で、サリーの言った言葉がフレデリカの耳に届く。
「【流水】!」
フレデリカが凝視する中、サリーは全ての石弾を両手のダガーで弾いていく。
フレデリカは今回の行動と水弾の時の行動を比べて、このスキルは実体のあるものにしか使えないのだと理解した。
それもまた、無意味な理解ではあったが。
そうしている内に全ての石弾が弾かれてしまい、サリーがフレデリカに接近していく。
「はーい!私【降参】しまーす!」
「え?…あ、はい」
サリーの目の前に勝利の文字が現れて決闘は終わり、元の場所に戻された。
「じゃあねー」
フレデリカはサリーに手を振って去っていく。
そうして少し離れた所で独り言を言い始めた。
「あー【多重障壁】を使っちゃったのはやらかしたなー……でも、あれ以上戦闘してたら私の情報もいっぱい流出しちゃいそうだしー……うん、あそこで止めておいてよかったかな」
自分がサリーから情報を抜き取っていたと思っているフレデリカ。
優位に立っていたと思っている彼女は。
どちらが狩られるネズミだったのか、最後まで気づけなかった。
サリーは去っていくフレデリカの背中に向けて小さく呟く。
「自分が格上なら、格下を演じることなんて簡単なんだよ?」
サリーは最初の話でフレデリカが【集う聖剣】という単語にのみピクッと反応し少し警戒したのを見逃さなかった。
さらにフレデリカが考え、【炎帝ノ国】の情報を渡したということは、もうこれは彼女のギルドが【集う聖剣】であることはほぼ確定である。
そうすることで【集う聖剣】は利益を得られるのだから。
サリーも潰し合わせるという考えを持っていたため、フレデリカの考えていることは容易に想像出来た。
「間違った情報は何も知らないよりも怖い……」
サリーはフレデリカの魔法の特徴やMPが多いこと、防御能力が高いことを新たに知った。
フレデリカは【攻撃誘導】と【流水】という恐ろしいが対策が出来るスキルを知れた。
いや、植えつけられた。
そう、フレデリカは自分が強いと驕るあまり地を這う弱者を演じたサリーの本質を見誤り、何一つとして本当の情報を持ち帰ることが出来なかったのだ。
彼女は強い、しかしサリーはもっと強い。
「驕りは目を曇らせる……あー怖い怖いっ」
サリーはそう言うとメイプル達の元へ戻っていった。
攻撃逸らしを昔に書いていたことを忘れていたという酷すぎる失態により、スキル名を攻撃逸らしから攻撃誘導に変更します。
また、それに伴い描写を追加しました。