防御特化と情報収集。
イズがトカゲと戦っている頃、入れ違うようにしてメイプルがギルドホームに帰ってきた。
「んー……戻ってきたけど…やることもないし空中散歩でもしようかなー」
メイプルが次の行動を考えていると、入り口からサリーが、奥からユイとマイが現れた。
「あ!三人とも私と一緒に空中散歩に出かけない?どう?」
「そう…だね。うん、いいよ」
「「私達も行きますっ」」
三人とも快く承諾してくれたため四人で外へと向かう。
ユイとマイがシロップの背中に乗ることにしたため、サリーもそうすることにした。ユイとマイは機械よりシロップの方が好きなようだった。
極振りでもあるためメイプルと似た考えを持っているのだろうとサリーは一人納得する。
「皆乗ったー?いくよー!」
メイプルは三人が乗ったことを確認するとシロップを浮かせて空へと舞い上がった。
「メイプルは何処へ行ってたの?」
「んー…神様の所」
「「「えっ……?」」」
三人の予想を遥か飛び越えたその答えに思考がフリーズする。
そんな中最初に口を開いたのはサリーだった。
「ねぇ……何を手に入れたの?」
最早確信を持ってそう呟くサリーにメイプルは少し考えてから返事をする。
「んー完全に使うと目立っちゃうから、ちょっとだけ。【展開・左手】」
一度装備を壊せば一定回数はその装備により武装を生み出せるのだ。
メイプルの左手からは幾つもの銃が展開された。
「うっわ……えぇ?」
「撃てるよ!撃たないけどね」
「す、凄いですね…」
メイプルは他のプレイヤーに見られないうちに武装をしまう。
「ギルド対抗では頼りにしてるよ」
「任せて!第三回イベントの分も頑張るよ!ユイとマイも頑張ろうね!」
「「は、はい!」」
「まあ、二人はメイプルと一緒に行動だからね。流石に【身捧ぐ慈愛】が欲しいかな」
「二人はもう通常攻撃を掠らせるだけでモンスターが爆散するんだっけ?」
「はい!二つ持ちも練習中です!」
二人は互いに爽快だと言い合っていた。今までの中途半端な攻撃力を脱出し、文字通り当てれば相手は死ぬ状態である。
手数の増えた大槌を振り回しているだけで、その利点を生かしてモンスターくらいボコボコである。
レベリング後にはめっきりと死ななくなりプレイすることが楽しくなっていった。
「ん……メイプル。この下に湖があるよ」
「へぇー……行ってみようか?」
ユイとマイも賛成なようで、高度を落として湖の側に降りる。
四人は座り込んで湖の水をパチャパチャと触ったりする。現実ならば涼しくて気持ちがいいことだろう。
「対抗戦はどんな感じになるのかなぁ」
「時間加速があるってことは1日以上期間があるんだろうねっと……さて」
サリーがそう言ってゆっくりと立ち上がった。
「どうかしたんですか?」
「何かいました?」
「うん。ちょっと私達を尾行しているプレイヤーが一人」
そう言って歩いていったサリーが少し後ろの岩の陰を覗き込む。
そこには金髪ポニーテールのプレイヤーが一人いた。フレデリカである。
「あー…バレてた…」
「私達を尾行?何のために?」
メイプルが首をかしげる。
ユイとマイも理由が分かっていないようだった。
「まあ、ギルド対抗戦のための情報収集でしょ。私達はギルドメンバーが少ないからメンバーからの情報の流出も少ないし」
人数が増えれば当然情報を管理しにくくなる。大人数のギルドは誰かがぽろっと情報を流出させてしまうことが多くなることは間違いなかった。
「それで、尾行していたあなたに相談があるんだけど」
「な、なーに?」
サリーは顔を近づけて小声で呟く。
「【集う聖剣】か……【炎帝ノ国】の情報を持ってたら渡してくれない?」
【集う聖剣】はペインのギルド。つまりフレデリカが所属するギルドである。
フレデリカがじりっと後ずさる。
「な、何でそんなことしないといけないのかなー?」
「渡してくれたら、私と【決闘】させてあげる。私の情報も欲しいんじゃない?戦闘中に探るもよし、あとは…私に勝てば私のことなら何でも一つ答えてあげる」
サリーがそう言うとフレデリカは少し俯き考え始めた。
【決闘】とはルールを定めて行うPvPである。
サリーの言う通り、サリーについての情報は不確定で数が少ないものだった。
そんな中、直接戦闘能力を探ることが出来るのならこのチャンスを捨てるべきではないとフレデリカは結論づけた。
それに、フレデリカが【炎帝ノ国】の情報を流すことで【楓の木】と【炎帝ノ国】の削り合いになる可能性も高い。
そうなれば危険視している二つを一手で弱体化させられる。
取り敢えず情報だけ流しておけばその目的は達成出来る。
サリーが【決闘】を拒否して情報を持ち逃げしてきても問題なかった。
「うーん、受ける!私は【炎帝ノ国】の情報しか知らないから、それを話すねー」
フレデリカは知っている限りの【炎帝ノ国】の情報を嘘偽りなくサリーに話した。
そうすることできっちり潰しあって貰わなければならないからだ。
その中には貴重な情報も混じっていた。
「ふぅん……【トラッパー】ね。そのプレイヤーは知らなかったな」
「じゃあ、約束通りお願いしまーす」
フレデリカはどうせ受けないだろうと思いつつそう言った。
サリーにとってはここで持ち逃げがベストだろうと考えたのだ。
「はい、申請した」
「え?……あ、ああはい」
フレデリカは困惑しつつ申請を受ける。
ルールは別空間に転移して、HPがゼロになるまで戦うデスマッチ。
目の前に現れた魔法陣に乗った二人の姿が消える。
残されたメイプルは当然驚く。
「ど、どっかいっちゃったよ!?」
「メイプルさん!た、多分あれは決闘ですよ!そんなシステムがあったはずです」
「そ、そうなの?」
ユイ曰く、決着が着いたら戻ってくるとのことだったので三人で釣りでもして待つことにした。
と言っても、極振り三人組にとって釣りはこの上なく不得意なものだったのだが。
二人の転移先は真っ平らな闘技場だった。つくやいなやフレデリカが話し始める。
「勝ったら何でも一つ教えてくれるんだっけ?」
「勿論。嘘じゃないよ?」
フレデリカがじっとサリーの目を見つめる。どうにも嘘をついているような雰囲気はなかった。
意図を掴みきれないフレデリカは適当に力を隠しつつサリーのことを探ることにした。
その上で倒せそうなら倒そうと考えていた。
「十秒後、開始で」
「了解」
きっかり十秒後、二人の決闘が始まった。