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防御特化と攻撃的支援者。

「よっ……はいっ!」

イズはトカゲが突進してくるのを余裕を持って躱すとピッケルを振り下ろして再び距離をとる。

回避を完全に捨て去っているのはメイプルくらいであり、イズも生産職とはいえどなかなかの【AGI】を持っている。

そのため動きの遅いトカゲの突進を躱すのは容易だった。

イズがトカゲの方を向くとトカゲのHPが減っていることに気づくことが出来た。


「情報通りね……私のピッケルなら保つかしら?」

イズのピッケルは運と時間が作り上げた最高傑作。

イズは全ての結晶を破壊することも不可能ではないと計算し終えた。

ただ、トカゲの速度は結晶を削れば削るほど上がっていく。

それに対応出来るかどうかだ。


「サリーちゃんみたいに回避出来れば楽なんだけどねっ!」

突進するトカゲを躱しては結晶を採取してをひたすら繰り返す。

そうしているうちにトカゲの動きが変わり壁を走ったり、天井に張り付いてから落下して背中の水晶で攻撃したりしてくるようになった。


「あら…地面に刺さるのね?じゃあ遠慮なく…」

鋭い水晶を下にして天井から落ちたことにより床にぐっさり刺さったトカゲは復帰までに時間がかかる。

その間にピッケルを振るい、剥き出しの腹に向けて爆弾を投げる。

しかし、爆弾ではダメージを与えることが出来なかった。


「あら、やっぱり柔らかいところに投げてもダメージにならないのね」

攻撃は通らないとは情報にあったが、それがどこまで試してのことかは分からない。少しでも早く戦闘を終わらせられれば儲けものだったが、ことはそう都合よくはいかないようだった。


イズはピッケルをガンガン振るう。

品質の悪いピッケルならばもう壊れてしまう頃だがイズのピッケルはまだ四分の三は耐久値が残っている。

イズはトカゲの背中が地面に刺さるタイミングだけを狙い、距離をとって逃げ続ける。

これが一般的な回避である。

サリーのように紙一重で避けてカウンターを当て続けるのははっきり言って異常なのである。


「メイプルちゃんに自動HP回復の装備でも作れたらいいわねー…ふっ!」

パキンと音を立て結晶がまた一つ割れ、イズの手持ちに入る。

そうこうしているうちにトカゲの速度は上がり、イズは避けきれずに跳ね飛ばされてしまった。


「くっ……二回は耐えられないわね」

イズの装飾品枠は【アイテムポーチ】で全て埋まっている。

【アイテムポーチ】にはセットしたポーションなどの一部アイテムを二時間以上保管する機能があり、イズはそこにポーションを詰め込んでいる。

ただポーチと言うだけあって一つのポーチに入るアイテムは五つと多くはない。

それでも回復速度を上げられるという利点は大きかった。


「ふぅ…一回、いや…二回は【簡易修理】しないと駄目ね」

イズはピッケルの耐久値とトカゲのHPを確認してそう結論付けた。


【簡易修理】とは耐久値をほんの僅かに回復することが出来るスキルである。

ほんの僅かとはいえ、壊れにくいイズのピッケルほどに上質なものになれば普通のピッケルの大回復に匹敵する。


「刺さったタイミングで修理ね」

ダメージを受ける度に自前の最高級ポーションを使いしのいでいく。

また、ピッケルを使うチャンスがあれば叩き込んでいく。

そうして少しすると狙い通りトカゲが地面に刺さった。


「【簡易修理】」

ピッケルの耐久値を回復させ、トカゲを攻撃。

このサイクルをもう一度行い、その後はピッケルでの攻撃に専念してトカゲのHPを削っていく。


イズの計算は間違ってはいなかった。

トカゲのHPとピッケルの耐久値を比較すると、トカゲのHPが先に尽きることが明白な程にトカゲのHPは少なくなっていた。


「後数回ね…!油断はしないわ」

その宣言通りにイズは死なない立ち回りで戦った。

ポーションを惜しみなく使い、肉を切らせて骨を断つ。


そうしてついにトカゲは地に倒れ伏した。


「はぁ…はぁ…!一人でやったのは初めてね……私に戦闘は無理だわ…その辺りも含めて生産職にして正解ね……」

そう言ってイズはインベントリを確認する。自慢のピッケルのお陰でかなりの量の結晶が手に入っていた。

そのピッケルも耐久値はギリギリだったが計算通りなので問題ない。


「ふぅ…私達のギルドならこれだけあれば問題ないわ。帰りましょう…あら?」

魔法陣に乗ろうと振り返るとそこには一つの宝箱があった。

イズは恐る恐る近づくとしゃがみこんでその表面をちょんちょんとつつく。


「こんなの情報になかったと思うけど……取り敢えず開けてみようかしら」

イズがそっと宝箱を開けると中には古びてところどころ焦げ跡のある茶色のロングコートと大きめのゴーグル、そして焦げ茶色のブーツが入っていた。

イズはそれらをインベントリにしまい込むとどんなものかを確認する。


「なるほど…あの三人が修理に来ないのはこれのせいなのね」


『錬金術士のゴーグル』

【DEX+30】

【天邪鬼な錬金術】

【破壊不能】


『錬金術士のロングコート』

【DEX+20】

【AGI+20】

【魔法工房】

【破壊不能】


『錬金術士のブーツ』

【DEX+10】

【AGI+15】

【新境地】

【破壊不能】


【天邪鬼な錬金術】

ゴールドを一部の素材に変換することが可能になる。


【魔法工房】

あらゆる場所で工房を使用可能になる。


【新境地】

新アイテムの製造が可能になる。


イズは早速それらを装備すると今度こそ魔法陣に乗った。

これによりイズは際限なく貯めることが出来るゴールドから火薬や薬草を生産することが出来るようになった。

また、高難度の生産も可能になった。


つまり、次々に爆弾を生産し【投擲】でぶん投げることで生産職らしからぬ貢献が可能になってしまったのである。

【ユニークシリーズ】にうっかり書き忘れていた一つのダンジョンに一つきりという設定を初回登場時に書いておきました。

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