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防御特化と崖の下。

メイプルが街を見てまわる中で目に付いたものはやはり【二代目】が作り出したという機械達だった。

むしろそれくらいしか注目するところがなかったのだ。


「んー…私もフィールドの探索にいこうかな」

フィールドは高低差が大きく、崖になっている部分や雲まで伸びる山があちこちにある。

空飛ぶ力を持たないものに探索する権利は与えられない。


「シロップ!行こう!」

メイプルはいつも通りの手順で空を飛んでいく。

いつもと違うことは他にも空を飛ぶ者達がいることだった。


「お散歩なら二層だねー。うん」

既に意欲的に探索している者達がダンジョンを一つ見つけており、多くのプレイヤーがそこに向かっている。

メイプルはその後ろをついていっているだけで、ダンジョンが見つかったことは知らない。


「何かあるのかな?」

そう、メイプルは何も知らない。

霧の立ちこめる深い深い崖を越えたその先にそびえる山に向かう理由も。


その崖では横殴りの突風が吹くことも。


「うぇっ!?あっ!」

【STR 0】のメイプルがシロップにしがみつくことが出来るはずがなかった。

その他のプレイヤー達は体に密着させた機械を使っているのに対し、メイプルはシロップに乗っているだけ。

風で体勢を崩した際に崖へと真っ逆さまに落ちていくのはメイプルだけだった。


「ううぅううあああぁぁっ!?し、シロップ!シロップ!!」

地面は見えない。いや、そもそも地面があるのかさえメイプルには分からない。

流石にこの高さから落ちればメイプルでも無事では済まない。

シロップを必死に呼ぶものの追い付いてくるはずがなかった。


「【暴虐】!」

メイプルにとっての唯一の幸運はその濃霧がどんな奇行をも隠し切ってくれることだろう。

例えどんな大ダメージを受けようとも本体のメイプルには響かない。







遥か下、濃霧の中でメイプルが動き出す。その姿は化物のままである。


「あ、あれ?ダメージを受けてない」

メイプルの防御力が高かったからダメージを受けなかったのではない。

そもそもここに落ちることでダメージを受ける設定にはなっていなかったのだ。

メイプルは元の姿に戻ると一メートル先も見えない濃霧の中を歩く。


「ん?これ…」

メイプルの足先にコツンと当たった何かを拾い上げる。

それは壊れた機械だった。

様々なパーツによって組み上げられていたであろうものの残骸である。

メイプルが現在いるエリアの名前を青いパネルで確認する。


「ここは…【夢の墓場】?おじいさんのお話に関係がある?」

発見難度の高いヒントの数々。

二層にある発見難度の高いパーツ。

ここに来るために必要な特殊条件。


全ての過程を偶然ですっ飛ばしてメイプルはここにたどり着いた。


「よし……慎重に進もう」

メイプルが積み上がった残骸の山の隙間を縫うようにまともに歩ける場所をじりじりと進む。


「霧が…薄れてきてる?」

メイプルは霧が薄い方へと歩いていき、ついに最奥にたどり着いた。

青い光が蛍のように舞う残骸の山に囲まれた場所。

そして奥に一人の男が残骸にもたれるようにして座っている。


その体は機械で出来ていた。

しかし機械にしては人に近すぎる。

また人にしては機械に近すぎる。

目に光はなく、片腕は半ばからなくなっており、胸には大きな穴が開いていた。


「うわっ!?」

メイプルのインベントリから勝手に飛び出したのは偶然見つけたあの歯車。

それはふわふわと男の元に飛んでいきその空洞の胸に吸い込まれた。

それからしばらくしても何も起こらなかったためメイプルが恐る恐る男に近づいていく。


「だ、大丈夫かな?」


「グ、ガ…」

メイプルが気を抜いた瞬間に男が話し始めたためにビクッとリアクションをしてメイプルが大盾に身を隠す。


「我ハ王……機械の王…偉大ナル知恵ト遥カナル夢ノ結晶……」


「…………」


「我ハ……王…カツテノ王……淘汰サレタ者……」

メイプルは男の言葉を静かに聞く。


「我ハ…………何ダ…我ハ……」

男の言葉はどんどんと小さく途切れたものになり、ついに話さなくなってしまった。


「こ、壊れちゃったのかな……?」

心配するメイプルの目の前で舞っていた青い光が男を包んでいく。

それは胸に空いた穴に吸い込まれていき穴を光で満たした。


「グ……」


「よ、よかったー……壊れてなかったんだね!」

喜ぶメイプルだったが、男の様子がおかしいことに気づく。


「我ハ…ガラクタノ王……ゴミノ中デ眠ル王……夢モ奇跡モ……ガラクタニ」

そう言うと男の体が変形する。

周りの残骸を胸の穴に吸収し、兵器を生み出し体に纏う。


銃が、剣が、武装が次々と展開される。


「オマエモ……ガラクタニシテヤロウ」


「………正気に、戻すよっ!」

メイプルは大盾を構え、短刀を抜く。

メイプルはおかしくなった原因に心当たりがあった。

あの青い光、【二代目】の機械の光。


「あの部分だけを攻撃するっ!」

メイプルが決意したその次の瞬間。

視界を青白い弾丸が覆い尽くした。






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