防御特化と対話。
今日の所は新たなスキルを試すのを止めておこうと一度は心に決めたカナデだったが、好奇心には勝てなかった。
図書館を出ると人気のない方向に歩く。
「ちょうど【破壊砲】も持ってるし……【魔導書庫】!」
カナデがそう叫ぶと空中に光が集まり正六面体の本棚が五つ現れる。
それらはふわふわと浮かび、また物体をすり抜けるようだった。
同時に目の前に青色のパネルが現れて、カナデが現在使用可能なMPを使うスキルがリストアップされる。
「【火魔法】みたいな複数の魔法が入っているのは魔法ごとに選べて、入ってないものはそのスキルが選べるのか…」
カナデは取り敢えず【破壊砲】を選択してみると、三十分のタイマーがパネル内に現れて【魔導書】の作成が始まった。
アイテムでMPを回復させ、続けて【ファイアボール】を【魔導書】にする。
これも同じく三十分かかるようだった。
そして、これらの能力は一時的にカナデから失われた。
「どんなものでも三十分か…事前に準備しておかないと駄目だね」
カナデは三十分の間本を読んで時間を過ごした。
三十分経過した時、糸状の光がパネルの上に集まり二冊の本を形作る。
それらは、カナデが触れるとふわりと浮き上がり本棚に収まった。
「んー…【ファイアボール】!」
カナデがそう唱えると同時、本棚から飛び出してきた赤い魔導書が開き【ファイアボール】が打ち出された。
そして、【魔導書】は消えてしまった。
「事前にコストを支払っておくことで、戦闘中にノーコストでの攻撃が可能になる…か。後は【神界書庫】のスキルが保管出来るかどうか……一応保管出来る数も限られてるのかな?」
カナデは現状試したいことを試し終えログアウトした。
翌日、フィールドで【魔導書庫】を見てみるとそこには一冊の本が入ったままだったため、【神界書庫】のスキルを保管出来ることが確定した。
これにより、カナデはありとあらゆるMP使用スキルを保管出来るようになったのである。
「ふぅ……コツコツ貯めておこうかな。きっと、誰も予想出来ない大魔法を」
カナデはそう言ってこの日も【神界書庫】を発動させた。
「僕は引きが強いなぁ…ふふふ」
三十分後、本棚に一冊の真っ黒い本が追加された。
その頃メイプルは一人で三層の町の探索を始めようとしていた。
クロムとカスミは【スイカ】を集めていて、ユイとマイとサリーは特訓中。
イズは装備を作っており、カナデはギルドに姿が見えない。
こうなっては一人で町を見て回るしかなかった。
「あの機械見にいってみよっと!」
メイプルがNPCの店に向かい、多くのプレイヤーが空を飛ぶために使っている機械を見る。
複数人が乗れる車型のものもあれば背中に背負うだけの一人用のものもある。
ただ、それらは結構高かった。
「むぅ…必須アイテムの割には高いなぁ…ちょっと……いや、かなーりきついなぁ」
メイプルは積極的にお金を稼がないため常に金欠である。
そのため一つの結論を出した。
「うん、止めとこ。私にはシロップがいるし!」
そう、メイプルは機械なしでも空を飛ぶことが出来る。
絶対に必要なわけではないのだ。
ただ、それでも新しいものには興味があるためじっくりと機械を見る。
そうしていると、メイプルはあることに気づいた。
「これ、ネジとか使ってないんだ。近未来って感じだね!」
メイプルの言うように、ネジなどはどこにも見当たらずそしてとても軽かった。
メイプルの軽いというのは相当である。
メイプルはしばらく眺めると別の場所へと向かっていく。
目的地もなく歩いている途中でメイプルは路地の入り口で倒れているNPCの老人を見つけた。
「えっと…だ、大丈夫ですかー!」
メイプルがポンポンと老人を叩くと老人はボソボソと話し始めた。
「水を分けてくれんか…出来れば食料も……」
弱々しい声での老人の頼みをメイプルが断る理由もなく、メイプルは言われた通りにインベントリからアイテムを差し出す。
老人はそれらを受け取ると見る間に食べ終え飲み切った。
「ふぅ…ありがとう。どれ、お礼に一つ話をしてやろう」
「えっ?あ、はい」
メイプルが老人の前に座ると老人は話し始めた。
「この町の中心に立派な建物があるじゃろう?あそこには【機械神】がおってのう、空飛ぶ機械もその【機械神】が生み出しておるんじゃ」
「【機械神】…ですか。ふむふむ」
「奴の作り出す機械は製造方法が全く分からん、叩き割って調べた者もおったが…中にはなーんにもなかったんだと。それこそ【ネジ】も【歯車】も【バネ】もじゃ」
「え!?な、何だか怖いですね…」
「まあ、この辺りは皆が知っていることじゃ。ここからじゃよ」
メイプルが興味津々で続く言葉を待つ。
「実はな、あの機械神は【二代目】なんじゃよ」
「【二代目】…ですか?」
「ああ、以前はこの町にも普通の機械といったものが溢れておった。【一代目】は機械を知らぬわしらに夢と希望を与えてくれたんじゃ」
老人の言うように、機械の概念がない所に与えられた機械は全て夢と希望と奇跡の塊だっただろうことは間違いない。
「そして……ある日、わしが町から離れていた時のことじゃ。町の方で青白い光
が弾けた!」
「そ、それで!?」
メイプルが早く続きをと急かす。
「わしは慌てて戻った。何かあったと思っての。すると…町は新たな機械に溢れ皆から【一代目】の記憶は消えておったんじゃ。それに、町から以前の機械は無くなってしもうた」
「その光を浴びたから記憶が?だから離れていたおじいさんは無事だった…?」
「これで話は終わりじゃ。わしら二人しか【一代目】のことは知らんのじゃよ」
「貴重なお話ありがとうございました!」
メイプルがお礼を言う。老人は入り組んだ路地の奥へとゆっくり歩いていき、やがて見えなくなった。
「【二代目】は【一代目】のことが嫌いだったのかな?…クエストでもないし、いつか使う話かな?」
メイプルは老人の話を頭の隅にとどめておいて再び町を歩き始めた。