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防御特化と周回。

メイプルは三層のギルドに着くとユイとマイを全員に紹介した。

挨拶を交わした後にイズはユイとマイの装備を作るために工房にこもった。

ユイとマイはとりあえず今日のところはこれでログアウトするとのことだ。


「二人のレベルは多少上がったけど、まだまだ足りないから……んー…メイプルと二人は次はいつ一緒にログイン出来そう?」

三人は次にログイン出来る日を話し合って予定を合わせた。


「メイプル。ちょっと耳かして」


「んーなになに?」

メイプルの耳元でサリーが何かを話す。


「………おっけー!」


「じゃあ、用意しておくね」


「うん、分かった」

メイプルとサリーのやり取りに疑問符を浮かべながらその日は解散することになった。




日を改めて予定通りに集まった三人。

その中のユイとマイにサリーはアイテムを手渡す。


「はい、二人にはこれ」

そう言ったサリーからユイとマイに顔全体を覆い見えなくする頭装備が渡される。


「メイプルの指示に従って使ってね」

二人は頷いて答える。


「それじゃあ、ついてきて?」


「「は、はい!」」

メイプルと二人がギルドホームから出ていく。残されたサリーはサリーでやることがあるため即ログアウトという訳にもいかない。


「クロムさんも行くんですか?」

メイプルとは別目的だろう目的でギルドから出て行こうとするクロムにサリーが声をかける。


「まあな。カスミはもう行ってるぞ」

現在の季節は夏だ。そして、夏のある期間中は全モンスターがアイテム【スイカ】を低確率でドロップする。

これを集めることでギルドのサポート性能を上げることが出来る。

つまりステータスアップだ。


「メイプルには二人のレベル上げに行ってもらったので、私達はギルドの強化ですね」


「あの二人がどうなって帰ってくるか…【ユニークシリーズ】を取りに行く訳でもないんだろ?」


「まあ、取り敢えずはレベル上げです。人目につかないように一層に向かって貰いましたが…」

サリーが言う人目につかないようにというのにはもちろん理由がある。

それをクロムに言うとクロムも確かにそうだと苦笑いをしていた。





メイプルは一層の中でもプレイヤーがほとんどいないエリアにやってきていた。

それはかつてメイプルが毒竜と戦ったダンジョンの前である。


「このダンジョンを攻略するんですか?」


「うん、そうだよ。二人ともあれ装備して?」

二人はメイプルに言われた通りに装備する。

これで顔は覆われて人相は分からない状態になった。


「【身捧ぐ慈愛】!」

メイプルの体から天使の羽が生え、神々しい光とともに髪の色も変わっていく。

一度見たことのある二人は今度は驚くことなく綺麗だと感じることが出来た。


「【暴虐】」

しかし、その感動もつかの間。

メイプルは醜悪な化物に変わってしまった。残っているのは【身捧ぐ慈愛】の効果だけである。羽も消えてしまった。


「乗って!あ、ボスには一撃入れてね」

メイプルと違い力の強い二人はメイプルだったものの背中にしがみつく。


「あ、あと、人に見られた時のために私は化物に徹するからよろしくー」

二人の人相を隠したのは二人からギルドを、ギルドからメイプルを特定されないためであり、全てはメイプルの変身後がモンスターとして認識されメイプルに繋がらないようにするためである。

切り札はギルド対抗イベントまで隠しておかなければならない。


「「えっ?」」


「グガ、ゲゲガ!」

そう言うとメイプルは洞窟内に飛び込んだ。

決してそこまで徹する必要はなかったがそれは気分というものだろう。

道中のモンスターを轢き殺してボス部屋の扉を開けると毒竜向かって一直線に進んでいく。



あわれな毒竜の結末は一度目の勝負と同じく喰い千切られての敗北となった。

倒される前にユイとマイの一撃も入っているためユイとマイのレベルも上がる。


そして、ここからが大事なところだ。

メイプルの視界には以前とは違い二つの魔法陣が見えている。

一つは町へ、一つはダンジョンの入り口へ。

サリーから教えられたことに二回目の攻略からはダンジョン入り口への魔法陣が追加されるというものがあった。

メイプルはダンジョン入り口に戻る方を選んだ。

攻略者がダンジョンから出た時にボスは復活する。


そう、今回の目的は毒竜ボスの周回である。


毒竜のダンジョンは一層にしては難易度が馬鹿げた高さなのだ。

さらに、極振りが増えた今は町からも遠いためにプレイヤーがいっそう寄り付かなくなっていた。

さらにさらに、毒竜のダンジョンは道中が短かった。

これらがメイプルには好都合だった。

誰もいないダンジョンを爆走しては毒竜を喰らい、引き裂く。

ユイとマイのレベルがぐんぐんと上がっていく。

ルートを覚えているメイプルが迷うことはなく、その歩みを止められる同レベルの理不尽など存在しなかった。


メイプルは一周三分と少しという驚異的スピードでダンジョンを周回し続けた。

そうやって周回していたメイプルが時間を確認したある時、一つの感情が芽生えた。


そう。

何となく二分台に乗せたいというものである。

そこに深い理由はなかった。しかし、もうあとほんの数秒縮められれば二分台である。

メイプルは同じことを繰り返すうちに別の部分に楽しみを見出し始めていた。

カーブで膨らみ過ぎず、モンスターとの接触は全て炎で先に倒すことで防ぎ、減速をなくす。

ボス部屋の扉は最速で開け、ボスを全力で倒す。



これを意識した上でトライすること数回メイプルは二分台に辿り着いた。

それでもまだ縮められる部分があると感じていた。

それは毒竜を倒す部分である。

そこでユイとマイにも目いっぱい攻撃させることで短縮出来ると考えたのだ。


そして、それを実行すること数回。

ユイとマイのレベルアップで攻撃力が伸びたある時、メイプル達は二分三十秒を切ることに成功した。


「よおおおおっし!!」

メイプルがノイズの混じった声で叫ぶ。

そこに何の報酬もなかったがメイプルは達成感に満たされていた。


「「メイプルさん!メイプルさん!」」


「ん?何?」


「「これ……」」

二人がステータスを見せてくるためメイプルがそのステータスを見る。

顔の部分に目は無いが、何故か見えるのである。


「えっと……【破壊王】?と【侵略者】?」


「えっと…【侵略者】は一定時間以内にボスを規定体数倒すことで出ます。ステータスの【STR】がかなり必要です。【破壊王】はダンジョンのクリアタイムが原因です。これも【STR】がかなり必要です」

メイプルは【暴虐】でステータスを上げているもののそれは本来のステータスではないため取得出来る可能性はゼロだった。

ユイとマイがその後も詳しく話してくれたためにメイプルにはあることが分かった。

【侵略者】は【絶対防御】の【STR】置き換え版だということである。


「んー…カスミはいらなそうだし、クロムさんもいらないし、サリーもデメリットを嫌がりそうだなぁ」

攻撃に振っているメンバーは他のステータスも大事にしているため成長に制限のかかるスキルは歓迎されないだろう。


「【破壊王】は……何か凄いね」

【破壊王】の能力は本来一つしか装備出来ない武器を二つ装備出来るようになるというものだった。

つまり、双剣のように二本の大槌を装備することが出来るのである。


「もうちょっと周回したら帰ろうか」


「「はい!」」



メイプルの訓練により数倍にたくましくなって帰ってきた二人にギルドのメンバーは最早当然という風に頷くのだった。


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