防御特化とボス撃破。
メイプル達四人は一層のギルドホームに入ると向かい合って座り話を始めた。
ギルドホームに来る前にサリーは早速掲示板の書き込みを消しに向かったので新たに募集することはなくなった。
こういう話し合いはメイプルではなくサリーが対応するので、サリーから質問をすることで簡単な情報を手に入れていく。
白髪のプレイヤーの名前がユイで黒髪のプレイヤーの名前がマイ。
レベルは二人共4でスキルは一つも持っていなかった。
二人の武器は大槌で、低身長の二人の1.5倍はあるハンマーである。
「えっと…二人は極振りなんだよね?」
メイプルが二人に確認する。
「はい、私もお姉ちゃんも【STR】極振りです」
二人が【STR】極振りにした理由は、現実では体力や筋力に乏しいために、ゲーム内では力一杯動き回りたかったからだった。
「んー……何かメイプルと似てるね?」
「あはは…確かに」
メイプルも二人と同じようにゲーム内の有利不利にこだわらなかった。
メイプルを知らなかったのもメイプルに憧れて極振りにしたプレイヤーではなかったからだった。
「メイプルさんも…極振りなんですか?」
「うん、そうだよ。【VIT】極振り!」
そう言うと二人は驚いていた。
極振りで成功しているプレイヤーを見たことがなかったからである。
「まあ……メイプルはちょっと…参考に出来ないかな……」
メイプルも思う所があったのか反論することはなかった。
「どう?サリー?入れてもいいよね」
「うん。いいと思う……【STR】極振りはメイプルが入ればデメリットがほとんどなくなるし……一ヶ月の内にレベルも上げれば何とかなるかな」
サリーの許可も得て、これでユイとマイの加入が決定した。
メイプルが二人を登録して二人は晴れて【楓の木】の一員となった。
となれば現在の【楓の木】の活動場所である三層まで二人の行動可能範囲を広げたいところだった。
「今日この後大丈夫?」
「え、あ、はい。大丈夫です。お姉ちゃんも大丈夫だよね?」
「はい、私も大丈夫です」
「じゃあ、私とメイプルと一緒に一気に三層まで行こう」
「「え、ええっ!?」」
驚く二人を連れてメイプルとサリーは町の外へと向かった。
町の外に出たサリーがメイプルの方を振り返って言う。
「メイプル。いつもの」
サリーの言うようにしてメイプルはシロップを呼び出すと驚く二人もシロップの背中に乗せて空へと舞い上がっていく。
「落ちないでね」
メイプルがそう言って二人に注意したものの二人は驚き続けて放心状態になっていた。
「まだまだ序の口なんだよね……慣れさせないと」
メイプルに適応する。これが【楓の木】の新人が真っ先にやらなければならないことだった。
四人はささっと二層に続くボス部屋に向かうと扉を開けて中に入った。
「ううっ……死んじゃったらごめんなさい」
マイが呟く。迷惑をかけたくないという意思が伝わってくる。
「あー…それはない」
「【身捧ぐ慈愛】!」
そう口にしたメイプルの髪の色が変わり天使の翼が生える。
当然二人の思考がフリーズする。
もう訳が分からないといった感じである。
「今回は私がやるから。座って待ってていいよ」
「りょーかい!頑張って」
メイプルがそう言って二人を連れて部屋の端までよる。
「…………っ!だ、大丈夫なんですか!?サリーさん一人で!ぼ、ボスですよっ?」
ユイがメイプルに近づいて訴える。
「大丈夫大丈夫。だって私サリーがダメージ受けてる所見たことないもん」
「「………え?」」
「始まるよ」
メイプルが指差した方向では朧を呼び出したサリーが鹿に向かって走っていっているところだった。
サリーに同じ攻撃など通用するはずがなく体を捻り、身を屈めて攻撃を躱して鹿に接近していく。
「朧!【影分身】!」
サリーがそう言うとサリーの姿が五つに増えてバラバラに鹿に向かっていく。
これにはメイプルも驚いた。
「朧はそんなことが出来るようになったんだ……」
「さ、サリーさん凄すぎです!な、何ですかあの避け方!?しかも分身しましたよ!」
ユイが興奮した様子でメイプルに話しかける。
「さあ……?それはちょっと私にも分からないや……」
そうしている内にサリーを覆う攻撃力上昇のオーラも大きくなっていく。
魔法とダガーでの攻撃、さらに朧の炎の攻撃も相まって十分と少しで鹿は倒れてしまった。
戦闘を終えたサリーに三人が走って近づいていく。
「朧も成長してるねー」
「まあね。ささっと二層のボスもやっちゃおう」
四人はささっと二層に入るとそのままダンジョンへと直行した。
「今回は私は戦わないから」
「ん、おっけー」
二層のボスはメイプルが一人で倒すこととなった。
サリーのその言葉にユイとマイは不安げである。
それも無理のないことで、メイプルは大盾装備のうえ、本人から【VIT】極振りだと聞かされている。
【身捧ぐ慈愛】による防御能力は理解した二人だったが、道中も一度も戦闘に参加していないメイプルを強いと思える点は少なかった。
そんな二人の気持ちをよそに、メイプルは扉を開けるとボスの方へと歩いていってしまった。
「やっぱり、サリーさんが手助けした方がいいんじゃ…」
「わ、私もそう思います」
「うーん。新鮮なリアクションだなぁ」
サリーはメイプルを心配するプレイヤーなど初めて見たかもしれなかった。
それ程までにメイプルは広く認知されていた。主に脅威として。
「私の戦闘を凄いと思う?」
「「えっ……は、はい」」
人外じみた回避能力。強力なスキル。
鹿との戦いは百人中百人が凄いというような戦闘だった。
「今から二人はこの世ならざる理不尽な何かの戦闘を見るんだよ」
二人によく集中して見るように言ってサリー自身も歩くメイプルを見つめた。
二人はよく分かっていなかったが、数十秒後には全てを理解することになる。
「サリーに全部見せるように言われてるし…シロップ!」
メイプルはシロップを出すと巨大化させて宙に浮かせる。
その間にボスからの攻撃が直撃するがダメージにはならない。
「【毒竜】【滲み出る混沌】シロップ【精霊砲】!」
樹木のボスに三つ首の毒竜と化物の口と光り輝くビームがぶち当たる。
ボスが怯んでいる内に接近したメイプルがダメージを無効化しつつ大盾を振り抜く。
【悪食】が幹を抉る。ボスのHPが大技のラッシュでどんどんと減っていく。
それでもメイプルの攻撃は終わらない。
「【捕食者】!【身捧ぐ慈愛】!」
メイプルの両脇から化物が姿を現しボスに喰らいつく。
メイプルから天使の羽が生え、化物達を守り抜く。
ボスは叫び声を上げてメイプルと化物を枝と魔法で攻撃するが全てが無意味に終わる。
「【暴虐】!」
メイプルから立ち上る黒い光が実態を持ち巨大な化物の姿になる。
炎を吐き、噛み砕き、引き裂いて遂にボスをボロボロにした。
一方的な蹂躙。最早ボスがどちらか分からない状況だった。
「ふー…終わった終わった」
「メイプル。取り敢えず元の姿に戻って」
「ああ、ごめんごめん」
メイプルが化物の腹部から落ちてくると化物は消えてなくなった。
「じゃあ、三層に行こう!」
「そうだね」
サリーが返事をするとメイプルは真っ先に歩き出した。
サリーはユイとマイの方を見て話し出した。
「うちの最高戦力。ね?私が普通に見えるでしょ?」
「「…………」」
処理能力をオーバーした二人はその場で間の抜けた顔で立ち竦むばかりである。
「でも、メイプルと二人には共通点があるし。もしかしたら…二人もああなるかもしれないね」
サリーは呟くとユイとマイの手をとり、三層に向かって歩き出した。
ユイとマイは現実で双子なため名前が紛らわしくなったことをご理解いただきたいです。はい。