防御特化と近況。
現状のスキル習得や方向性の回。
ある日のこと、ギルドホーム内でイズとカナデが話し合っていた。
「私達は基本はあの四人の支援役になりそうね」
イズは戦闘以外のサポート。
カナデは貴重な後衛である。
「僕も攻撃魔法を覚えてみたけど…あの感じだといらなそうだったから、ちょっと方向性を変えてみた」
カナデが攻撃するよりも先に、前衛四人がモンスターを倒してしまうため、カナデは味方のステータスを上げるスキルや回復魔法にばかり手を伸ばした。
「杖は僕一人だし、皆が覚えられないようなスキルも手に入るからね」
サリーが覚えている魔法よりも、多くの種類の魔法をカナデは習得出来る。
それがこのギルド内でのカナデの個性である。
「あの四人を強化してあげれば勝手に倒してくれるから」
「そうね。本当頼もしいわ……ああ、それとカナデの装備も出来ているわよ」
今日はそのために呼んだとイズが言う。
カナデは初期装備から多少買い足したくらいで、第二回イベントから見た目がほとんど変わっていなかった。
イズが作成した装備品をカナデに渡す。
髪の色と同じ、赤のキャスケット。
残りも黒と赤を主とした装備で、装備というより普段着に近い見た目だ。
これらにはメイプルの羊毛も素材として使用している。
全ての装備が【INT】と【MP】上昇の効果を持っているため、カナデならこの装備にするだけでも大幅強化だ。
「鎧は僕には似合わないからね」
カナデは貰った装備を身につけるとギルドホームを出て行く。
カナデはこの日は【魔力障壁】を取得しに向かった。
現在、このギルド内ではカナデが一番次々とスキルを取得しているのだ。
カナデを倒さなくては支援、回復が止まらない。
ただ、場合によってはカナデを倒すためには大天使状態のメイプルを倒さなければならないのだ。
そして、そのメイプルの【VIT】はカナデにより強化される。
減ったメイプルのHPも回復させられる。
メイプル達との戦闘を避けることが常識になる日も近い。
いや、既に来ているのかもしれない。
所変わって二層の端。
サリーはそこにある森にいた。
「ふぅ…ここまではダメージを受けてないけど……ダメージを受けた時の準備もそろそろ始めないとね」
サリーはここ数日で既に幾つかのスキルを身につけた。
それでもサリーの理想に近づくためのスキルがまだまだ足りない。
「朧もレベル上げないとね」
森を歩いているとモンスターが続々と現れる。
サリーは、今回は回避に重点を置いてモンスターを少し傷つけては朧に倒させるというスタイルでレベルを上げていく。
そうしてしばらく戦っていると朧のレベルが上がっていく。
「ふぅ……確認っと。おお?」
朧のスキルを確認したサリーが嬉しそうに笑って朧を撫でる。
「これは……ダメージを受けた時の準備はいらないかもね」
サリーはそう言うと朧のレベル上げを切り上げて町へと戻っていった。
クロムは二層の砂漠にいた。
「これやべぇわ。死ぬ気がしねぇ」
モンスターの攻撃を大盾で受けて、鉈で斬りつける。
それだけでグングンとHPが回復する上に【バトルヒーリング】での回復もある。
さらに、HPが無くなりそうになれば【精霊の光】を使えばいい。
クロムは最後の一体となったモンスターを斬り伏せると武器をしまう。
「メイプルちゃんの装備は間違いなくユニークシリーズだな。大盾と、短刀は確定でスキルが付いてる。鎧だけ付いてない感じか」
クロムにとっては【破壊不能】も嬉しかった。
装備のメンテナンスがいらないためだ。
「メイプルちゃんの装備も【破壊不能】があるだろうな」
実際はそれよりも遥かに恐ろしいスキルが付いていることをクロムは知らない。
「もう少し、狩っていくか」
大盾でありながらソロで安全に戦えるようになったクロムは戦闘を続けた。
【楓の木】の大盾使いはどちらも一般的ではない。
大盾職は攻撃能力と防御力を兼ね備えた職という訳ではないのだ。
カスミもまた戦闘中だった。
カスミは【楓の木】内で最も安定して火力を出せるプレイヤーである。
サリーが短剣、クロムとメイプルが短刀なため、前衛の中で最もリーチと攻撃力があるのだ。
実際、【STR】がメンバー内で最も高く【AGI】も高めである。
防御力に不安が残るステータスだったが大天使メイプルによってその不安も解消された。
まさに、圧倒的安定感である。
「さてと…そろそろ帰るか」
カスミはそこでメッセージが届いていることに気がついた。
「メイプルから?ふむ……」
そこには端的にこう書かれていた。
二層の町から真西。
毛を刈りに来て下さい。
なるべく急いでくれると嬉しいです。
「ん?まあ行くか?」
カスミはメイプルのいる場所に向かって走りだした。
遡ること十分。
メイプルは羊毛を生やすスキルについて検証しようと西へ向かっていた。
「【発毛】!」
ちょうどいい場所でメイプルがそう言うと、もこもこの羊毛で視界が覆われた。
「やっぱり、生える量は調節出来ないかぁ……んー…んー!よっ!」
メイプルは中心から斜め下に体を動かして羊毛から頭を突き出す。
同様にして手足も出す。
「これなら動けるかな?」
動けたところで何の意味もない。
ただ、この状態のメイプルに向かって攻撃してきたモンスターをその目で見ることが出来たため、あることに気付いた。
「もしかして、この羊毛も私の防御力と同じ?」
その通りだった。
メイプルの体から生えている間はメイプルの体の一部なのでメイプルのステータスが反映される。
「羊毛の中に籠れば【毛刈り】されない限り強い?」
それからも色々と使い道を考えたもののこれといって思いつかなかったメイプルは、羊毛状態を解除しようと思って気がついた。
「あっ!?私一人じゃどうにもならないっ!?」
謎の毛玉に気づいたプレイヤー達が遠くから歩いてくるのが見えた。
このままでは四足歩行の状態で晒し者である。
メイプルは急いでカスミに連絡を取った。
「も、戻る戻る!」
メイプルは慌てて羊毛の中心に戻っていき、プレイヤーを近づかせないように中から毒を染み出させた。
「あっ!?カスミも近づけない!」
やってしまったものは仕方がなかった。
外から聞こえてくる声は多くなっていくが、毒のせいで誰も【毛刈り】が出来ない。
しばらくして、毒が消えてカスミに回収された時にメイプルだったことが知れ渡り、また訳のわからないことをしていたと掲示板で話題になった。