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防御特化と生産素材。

メイプルはシロップの背中に乗ってフィールドを飛んでいた。

歩くよりも遥かに速いのだから仕方ないだろう。


「カナデ!今日はよろしくね」


「任せといて!」

カナデも乗っている理由は素材集めのためである。


ギルド結成の次の日、イズが新たにギルドに加わった。

今日は【ギルドホーム】内の工房に素材を溜め込むために鉱山へと向かっているのである。

サリー、クロム、カスミの三人は木材と布のドロップアイテムを集めに別の場所に向かっている。


イズは生産能力に全てを注ぎ込んでいるため戦闘はからっきしだ。

元々運動が苦手らしく、まともに戦闘が出来ないとのことだ。


その代わりに生産スキルのレベルは高い。

武器、布製品、アクセサリー、家具。

何だって出来るのだ。






「私が護衛するから、【採掘】は頼んだ!」

カナデは【採掘Ⅴ】を持っているため鉱山へと向かうことになった。

ピッケルで鉱石を掘るのである。

鉱山にはゴーレムも出るためその素材集めがメイプルの仕事である。


「今回は【神界書庫アカシックレコード】が役に立ったからね」

カナデはこのスキルの説明をギルドメンバー全員にしている。


神界書庫アカシックレコード

生産系スキル、戦闘系スキル、その他スキルからそれぞれ三つずつランダムで、合計九個のスキルを取得する。

スキルレベルは中またはⅤ固定。

使用後一日経過で取得スキルは消える。

既に取得済みのスキルは選ばれない。



「杖以外の武器スキルは無意味だから、戦闘が出来るようになるかは運次第だけどね」

カナデのレベルが上がり、このスキルなしでも戦えるほどの力をつけた時、このスキルは真価を発揮する。

新たな戦略を生み出す鍵になるのだ。


カナデは毎日違うスキルを使うことが出来る。

それは時に、奇跡的に噛み合って恐ろしい効力を発揮するだろう。


「見えてきたよ!」


「よーし!いこう!」

途中でレアモンスターと間違われて何度か魔法や矢が飛んできたものの、その度にメイプルがプレイヤーの目の前に飛び降りて注意することで何とかなった。


攻撃が止まったのはメイプルの注意が効いたからではなく、急に降ってきたメイプルに驚き戸惑っていたためだったが、そんなことはメイプルの知らないことだった。




「奥地まで行くから私の近くにいてね」


「了解!」

二人は鉱山の中へと続く洞窟を進んでいく。

カタツムリの洞窟のような綺麗な結晶はないものの、所々に鉱石が露出しているので、見つけ次第カナデがピッケルを使い【採掘】する。


「どんどんいこう!」


「うん、そうしよう!」

シロップは指輪の中に戻しているのでメイプルの守る対象はカナデだけだ。

ゴーレムは大盾や【毒竜ヒドラ】を使うまでもなく、弱い毒攻撃で倒すことが出来た。


ゴーレムのドロップアイテムもきっちりと回収する。


この鉱山には様々な種類の鉱石があるがレアリティの高い鉱石はそうそう出てこない。


「鉄鉱石、灰結晶、石ころ…」

カナデのピッケルの音が響く。

その度に鉱石が手に入るが、特筆すべき物はない。

二人は分かれ道をどんどんと奥に進んでいき、最奥にある採掘ポイントからも採掘を終えた。


「まあ…質より量だよ量!」

メイプルが言う。


「いや…流石にそれは…」

カナデも流石に賛同しかねるようだった。

鉱石ならば量より質だろう。


「あ、帰り道ってどうだっけ?…適当に歩いても出れるかな?」


「道くらいなら全部覚えてるから大丈夫だよ?」


「おー!やるなぁ、じゃあ…案内お願いするね」

カナデは分かれ道の多い洞窟内を迷いなく進んでいき、一度も道を間違うことなく外に出ることが出来た。






サリー達は森にいた。

こちらは戦闘がメインで、ドロップアイテムを集めている。


「サリーちゃんもやばかったか…」

クロムがボソッと呟く。

クロムの目の前には攻撃をヒラリヒラリと躱すサリーがいる。

今にも当たりそうなギリギリの回避に見えるが、たったの一度も当たらない。


「おー…凄い…オーラが」

そう呟くのはサリーだ。

サリーの体からは青白いオーラが溢れ出ている。

サリーはメイプルのためにモンスターを倒して、ドロップアイテムを売り払いゴールドを大量に用意した。

その時にレベルが上がったのだ。


そして、とあるスキルを手に入れた。


【剣ノ舞】

攻撃を躱す度にSTR1%上昇

最大100%

ダメージを受けると上昇値は消える。


取得条件はレベル25到達までノーダメージであることだった。

青白いオーラはこのスキルによるものである。


サリーを相手にする場合。


倒すためには攻撃しなければならないが、攻撃すればするだけ不利になっていくという訳だ。


「これでもメイプルは貫けないなぁ」


「え…メイプルのVIT値ってどれくらいなんだ?」


「メイプルに聞いてみたら?多分教えてくれると思うよ?」

そう言いつつサリーはクロムの方をチラッと見る。


クロムの戦闘は一言で表すならば堅実といったところだろう。

大盾できっちりと攻撃を受け止め、短刀で斬りつけることでダメージを与える。

大盾の使い方が上手く、的確に攻撃を弾く。

さらに、囲まれないように戦況を確認しつつ立ちまわっていた。


「あれが本来の大盾使いだぞ」


「そうだね…」

メイプルのような派手さはないが、PSは確実にメイプルを上回っていた。


メイプルはクロムのように攻撃を大盾で受け止める必要がないため、大盾の使い方は上手くない。


大盾よりも身体の方が硬いのだ。

むしろ悪食を残すために大盾を下ろしている時の方が多い。


「このギルドは【普通】の方が少数派だからな…」

メイプル、サリー、カナデが異常枠。

カスミ、クロムは普通枠だ。

イズは生産の面で言えば異常枠に片足を突っ込みつつある。

クロムも無事に戦闘を終えて三人で帰路につく。



「私も…このギルドにいる内に普通でなくなるのか?」


「俺も、そうなるかもな?」


「メイプル色に染まっていくかもね」

素直に喜んでいいのか微妙なところだ。

今度はそれぞれが持ち帰った素材を使ってイズが力を発揮する番である。




二組は町の外で合流して、町の中へと入っていった。

目立つ五人組である。

メイプルは言わずもがな。

クロムとカスミは第一回イベントの入賞者。装備も豪華で目を引く。

サリーを見て何人かが反射的に武器を抜こうとした。

カナデはルービックキューブを高速でガシャガシャと組んでは崩してを繰り返して暇を潰している。


町の端に向かう五人の後をつける者がいたのも仕方ないことだろう。


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