防御特化とスキル内容。
「サリーはどんなスキルを選んだの?」
メダルスキルを選び終えた二人は第二の町のベンチに座っていた。
「んー…結構迷ったんだけど【追刃】にした」
「【追刃】?」
メイプルは攻撃系スキルの内容を見てすらいないので、どんなスキルかが分からない。
「えっと…武器での攻撃が成功した時にその攻撃の三分の一の威力の追撃が発動するスキル…かな」
「えっと……?」
「手数が二倍になる。私は二刀流だから【ダブルスラッシュ】が八連撃になったりする」
「すごっ!」
「まあ、【器用貧乏】もあるし二刀流は一撃ごとのダメージが減るし、まだまだ本格的な運用は出来ないけどね」
サリーは手数の多い攻撃方法や高速の攻撃方法を好む傾向がある。
メイプルは耐久力を高めようとする傾向がある。
「メイプルはどんなスキルにしたの?」
「私もちゃんと使えるか分からないスキルだよ」
「え?」
サリーはメイプルの言っていることがよく分からなかった。
どんな理由があれば自分のよく分からないスキルを選ぶことが出来るというのだろうか。
「じゃあ砂漠にいこう?人目につかないところで試してみたいな」
「う、うん。分かった」
メイプルが何のスキルを選んだのかサリーには見当もつかなかった。
「よーし。シロップ出ておいでー」
メイプルはシロップを呼び出した。
「シロップ!【巨大化】!」
メイプルの声に反応してシロップの体が光に包まれ大きくなっていく。
高さ三メートル。
体長五メートル半といったところだ。
これはイベント六日目にシロップがレベルアップして手に入れたスキルだ。
【巨大化】
HPが二倍になる。
巨大化しHPを二倍にする代わりに的が大きくなりダメージを受けやすくなってしまうため、スピードの遅いシロップでは今の所は有効に使えないスキルであった。
「上手くいけー…上手くいけー…」
メイプルが目を閉じて手を合わせながら祈る。
しばらくそうしていたメイプルはカッと目を開くと叫んだ。
「【念力】!」
その声が響き渡ると、シロップの体がふわりと浮き上がった。
その巨体は重さを全く感じさせず、ふわふわと十メートル程浮き上がると止まった。
「えぇ…?」
「やった!やった!上手くいった!」
ぴょんぴょんと跳ねて喜ぶメイプル。
それに対して、怪鳥戦のギリギリの場面ですら冷静だったサリーは呆然としていた。
何があったかは見れば分かるが、この謎の状況に流石に思考が停止したのだ。
メイプルは直感に身を任せてスキルを選択した。
それはサリーには出来ないことだ。
だからこそ【よく分からない何か】が生まれる。
メイプルの選んだもう一つのスキルの性能はばっと見たところはメイプルが選ぶようなものではなかったのだ。
【念力】
モンスターを浮かせることが出来る。
モンスターごとに設定された抵抗確率によってスキルの成功率が変わる。
一度失敗すると一時間は対象となったモンスターに対して再使用出来ない。
モンスター以外には作用しない。
抵抗確率によりスキル使用時のMPの消費量は変わる。
メイプルにスキルを見せて貰ったサリーは困惑した。
このスキル説明からは、メイプルがこのスキルを取る理由が全く分からなかったのだ。
サリーの見たところではこれは敵モンスターを拘束するものだったが、確定で敵を拘束出来るわけでもなく消費も大きそうだった。
「そのスキルを取った理由は?」
「シロップと一緒に空を飛べると思ったから!」
「あっ、はい」
そこに深い理由など無かった。
メイプルはただ楽しいと思うこと。したいと思うことのためにスキルを取ったのである。
そして、先程述べたようにメイプルの直感は時に凶悪過ぎる現象を引き起こすのだ。
「ねぇメイプル?…シロップさ?いつまで飛んでるの?」
「えっ?……あれ?本当だ」
メイプルがMPを見てみるが全く減っていない。
「………まさか!」
「何?何か分かったの?」
「シロップは普通のモンスターじゃないよね。【絆の架け橋】のお陰でメイプルと絆で結ばれている」
「うん!そうだよ」
メイプルは当然今も指輪を付けている。
「【絆の架け橋】だよ?絆で結ばれたモンスターなら……抵抗確率って…何%?」
サリーが言いたいのは【絆の架け橋】でメイプルと結ばれているシロップが【抵抗】するのだろうかということである。
抵抗確率が0%なら消費MPはいくつになるのか。
このスキルはその辺りの説明が無かったためサリーはスルーしたのだ。
サリーにはメダルを投げ捨てて賭けに出る必要などなかった。
「つまり、シロップと一緒に長い時間飛べそうなんだよね?」
「まあ、そうだね」
「なら細かいことはいいや。シロップ!戻っておいで!」
メイプルがシロップを呼び戻す。
「背中に乗せてー」
シロップはメイプルの頭をガッチリと咥えると反動を付けて上に放り投げた。
「よっ!」
メイプルがガシャンと甲羅の上に落ちる。広くなった甲羅は乗り心地もいい。
メイプルは七メートル程まで高度を上げて周りを見渡す。
「メイプルー!ダンゴムシの集団が来てるよー!」
メイプルには真下からサリーが叫んでいるのが聞こえた。
確認するとダンゴムシが周りを動き回った時に発生する砂埃が見える。
「サリー!離れててー!」
メイプルが何か始めることを悟ったサリーは【超加速】で逃げた。
何をやらかすのか見当もつかなかったからだ。
「【アシッドレイン】!」
メイプルが新月を天に向けて突き出す。
そこから広がる魔法陣から飛び出した直径十五センチほどの紫の水の塊はメイプルから五メートル程離れた位置にランダムに着弾していく。
「雨よ降れー!降れー!」
メイプルが降らせた雨はダンゴムシに当たる度にダンゴムシの動きを止めていく。
素早い動きが出来なくなれば後は駆逐されるだけだ。
そんな光景を遠くから二人の人物がみていた。
一人はサリー。
もう一人は弓を持った男だった。
「「うわぁ……」」
メイプルの謎行動を見たものは高確率で語彙が貧困になるようだった。
それから少し後のこと。
モニターに映るスキル選択中の数字がゼロになった瞬間に、彼らは背もたれに全体重を預けてもたれかかった。
ここは運営達の部屋。
全員の顔に疲労の色が色濃く出ている。
もう今にでも眠ってしまいそうだ。
「うし、全員のスキル選択終わったな」
「いやー…第二回イベントは疲れた…本当バグが起こらなくて良かったわ」
「はぁ…そうだ!あいつは?メイプルは何を選んだんだ?」
「メイプルなら【フォートレス】とかその辺だろ。そうだよな…?そうだと言ってくれ…」
「ああ、【フォートレス】を取ってる。問題ない。防御力とかもう既におかしいからここから増えてもな……えっ…サイコ…キネ、シス?」
「嫌な予感がする」
「俺もだ」
「メイプルを探せ!モニターに映せ!」
すぐにメイプルがモニターに映される。
メイプルは。
空飛ぶ巨大亀に乗って飛び回りながら毒の雨を降らせているところだった。
「「……あかん」」
「スキル確認しろって言ったよな!?俺言ったって!」
「し、しましたよ!でも、メイプルがあのスキルを取る訳ないからあの調整で大丈夫だと…」
スキルをチェックした内の一人が慌てて話す。
「「それを慢心って言うんだよ!!」」
「メイプルなら何だってやってくる!それが【普通】なんだ!」
「うわああああ!うわあああ!」
その映像のあまりの衝撃に耐え切れず、疲れも相まって数人がそのまま気絶して眠りに落ちていく。
その後諦めと共にモニターの映像が消される頃にはもう全員の気力が尽きていたとか。
慢心は良くないなぁ。