防御特化と古ノ心臓。
第二回イベントももうすぐ終わりとなります。
そこで、第二回イベント終了を一区切りとして、本作を毎日更新から二日に一回の更新に変えたいと思います。
勝手で申し訳ありません。
もう一つの小説の方が更新出来ない状況が続いていたため、そちらと本作を交互に更新することに決めました。
そのための二日に一回更新です。
ご理解いただけると幸いです。
メイプルはメッセージ機能ですぐにサリーを呼んだ。
一分と経たないうちにサリーが大噴水まで駆けつけてくる。
「おー…光ってるねー」
「うん、何かあると思うんだ」
サリーが受け皿に入って【大海】を発動させる。
「光は強くなったけど…駄目みたい」
【大海】は全て吸い込まれてしまう。
また進展が無かったことに肩を落とすサリーだったが考え込んでいたメイプルが何か思いついたようで話し出した。
「同時…とかは?ほら!絵にも四つの噴水が書いてあったし!」
「確かに…でも、水を発生させるのが追いつかないよ。【超加速】を使っても間に合わない」
「このままじゃどうやっても無理だからさ…一回試してみない?」
「え?何を?」
「【液体】を作れるのはサリーだけじゃないんだよ」
そう言ってメイプルが思いついた方法をサリーに話す。
「えっ……そう、か。うん…そうだね。やるだけやってみよう」
サリーは再び受け皿で【大海】を発動させる。
その少し前にメイプルが叫ぶ。
「【毒竜】!」
そう、毒液も液体である。
そしてこの毒竜の頭は三つ。
それぞれが別の小さな噴水に向かっていき受け皿ごとどっぷりと飲み込んだ。
水でないと駄目なのかは二人には分からなかった上に、同時かどうかにも確信は無かった。
しかし、それでも試さなければならなかったのである。
その理由は恐らくこのイベントが発生するのに時間が関係しているからだった。
時間はもうすぐ夜の十二時だ。
いつこの発光現象が終わるかどうか分からない上に、これを逃せば次は六日目の夜である。
流石にそこまで待ってなどいられない。
粗の多いメイプルの作戦だったが、神は二人に味方したようだ。
「うわっ!?」
「眩しいっ…!」
三つの噴水から眩い光が大噴水に向かって伸びてくる。
大噴水の光はどんどんと強くなり、赤い結晶の部分が宙に舞い上がる。
その結晶は月明かりを集めて光を増すと赤い光を振りまいて砕けた。
「ん…?」
「ど、どうなった?」
恐る恐る周りを確認する二人の背後で突然轟音が響いた。
無音の廃墟に響き渡った音に二人が驚きつつバッと後ろを振り返る。
「な、何!?」
「あれ…!」
大噴水のある広場から伸びているのはかつてのメインストリートだ。
それは突き出た崖まで続いている。
そこには台座と突き立った石があった。
しかし、今遠くに見えているのは白く輝く何かだ。
先程の音には台座と石の崩壊の音も含まれていた。
二人が近づいてその白い輝きを確かめると、それはこのイベントで何度も見てきた魔法陣だった。
その魔法陣を踏まないように避けつつ突き立った石のあった場所を確認していた二人はあることに気が付いた。
「うわ……」
「こ、こわ……」
先程の轟音には確かに石の崩壊音も含まれていた。
しかし、それは含まれていただけだ。
轟音の正体とは。
海が裂けて海面にぽっかりと空いている底の見えない深く暗い穴が出来る時の音だったのだ。
「あの下に何かあるよね……」
「まあ、多分あるだろうね。メイプル、飛び降りてみる?」
「む、無理無理!怖いよ!」
今は真夜中である。
ただでさえ不気味な夜の海、その中でもさらに不気味な場所に飛び込む勇気はダメージに耐えられるかもしれないメイプルにもなかった。
「なら…魔法陣に乗ってみるか…恐らくあの穴の下に繋がると思うし」
「未探索のどこかには繋がるよね?」
「うん」
二人はせーのとタイミングを合わせて二人で魔法陣に乗った。
今までと同じように二人の姿が光の粒になって消えていく。
「ここは?」
「サリー?暗くて見えない…」
「ちょっと待ってね?」
サリーがインベントリからカンテラを取り出して辺りを照らす。
「海の中…かな?」
「…あっ!上見て!」
メイプルの声に従ってサリーが上を見上げる。そこには小さく星空が見えた。
「あの穴の下で間違いなさそう」
「道が続いてるよ」
綺麗にくりぬかれたように半円の通路が続いている。
壁は全て海水である。
何らかの力が海中を引き裂いて道を作っているのだ。
「ささっと抜けよう?元に戻ったら終わりだし」
「うん!そうだね」
早足で真っ暗な海中トンネルを進む。
これが昼ならば綺麗な光景なのかもしれないが、このイベントが起こるのは夜なのだからどうしようもない。
カンテラしか明かりのない暗闇で不安になったのか、二人は無意識のうちに互いの手を握っていた。
「あっ!光が見えるよ!」
「ほ、本当だ!」
二人はさらに足を早めて光の元に向かった。光はだんだんと大きくなり、そこにたどり着いた時には二人の背丈を越えていた。
光の原因は海だった。
そこだけは時が進んでいないかのように明るい真昼の海。
魚が楽しげに泳ぎポコポコという泡の音が聞こえる。
暗い深海を跳ね除けるように広がる海は暗闇で不安になった二人の気分を変えてくれた。
そして、その海の中を貫くように珊瑚で出来た階段が伸びている。
その先には珊瑚に彩られた大きな扉がある。何度も見てきたボス部屋の扉で間違いなかった。
「【魔ヲ払イテ】か……戦闘準備は出来てる?」
「うん!いつでもいいよ!」
メイプルは大盾を構えて準備万端だとアピールする。
サリーは一つ深呼吸して、扉を開いた。
先ずは部屋の中をチラッと確認する。
中に入ってしまえばその瞬間出ることが出来なくなってしまうためだ。
先に中の地形をある程度把握することが出来れば有利に戦闘をすることが出来るだろう。
特に回避に重きを置いているサリーにとっては部屋の状態は大事な項目である。
「メイプル、中は半円状のドームで明るい。っていうか、今の場所と同じ感じ」
「ほうほう」
「あとは…広い。直径……五十メートルはありそう。天井までも高い」
「なら…ボスは大きいのかな?」
部屋が大きいならボスも大きいと考えるのが妥当だろう。
「地面は今の所は乾燥した石の床で…特に罠は無さそう」
「おっけー…じゃあ、行こう」
「入るよ!」
「うん!」
二人が部屋に飛び込む。
メイプルは【悪食】を無駄遣いしてしまうことがないように大盾を構えないでおく。
サリーの言った通り罠は無く、【悪食】を消費するような物質のばら撒き攻撃も無かった。
「………!来るよ!」
「うん!」
バシャンと大きな音を立てて天井から何本かの触手が伸びてくる。
二人にはそれはイカの触手に見えた。
いや、実際そうだった。
水の天井を泳ぐ巨大イカが触手だけを伸ばして攻撃してきていたのだ。
「あのダンジョンの!?」
「でも、水中じゃないよ!?」
驚く二人を他所に巨大イカは攻撃してくる。
二人の身長ほどもある触手がメイプルに向かって振り抜かれた。
「効か…ないっ!」
大盾がバクンとイカの触手を飲み込んだが、遠くに見えるイカのHPバーは減っていない。
体力が多いのではない。
全く効いていないのである。
「本体に攻撃しないと駄目かも!」
「ええっ!?」
「これは……きっつい…」
二人の頭上で泳ぐイカの姿をチラッと確認して、サリーは呟いた。
イカの方はそんなことは気にも留めずに安全圏から二人に襲いかかろうとしていた。