防御特化と海と砂浜。
「うっわ…まだあんなのがいるの……」
サリーが魔法陣と祠を確認して呟く。
あんなのとはもちろん怪鳥のことである。もう一度あのレベルの敵と戦うのは正直なところ避けたかった。
「取り敢えず、一回戻って…メイプルの意見を聞いてみよう」
サリーは階段を引き返していき、地上に出た。
今まで潜水しての探索に熱心になっていたサリーは砂浜の方を振り返ることが無かったためここで初めて砂浜の状況に気が付いた。
「メイプル…何してるの……」
小島からでも分かる。
そこにはサリーの背丈を優に超える砂の城が出来上がっていた。
「取り敢えず…戻るか…」
バシャンと海に飛び込んだサリーは急いで砂浜へと戻っていった。
「うわ……近くで見ると大きいなぁ」
サリーの二倍程の高さ。
その中からギャーギャー騒ぐ声がする。
入り口になっている所から中を覗き込むと、そこにはメイプルの他にもう一人の人がいた。
赤色の癖毛にスペードの形のイヤリング、色白の肌に髪と同じパッチリとした赤い瞳。身長はメイプルより少し高いくらいだった。
頭装備のイヤリング以外は、ぱっと見たところ初期装備だった。
特徴的なのは武器を装備しているように見えないことだ。
大盾でも無ければ剣でも杖でもない。
どうみても手ぶらである。
そんな、サリーの見たことのない人物はメイプルとオセロをして遊んでいた。
「あー!駄目だって!」
「はい、パーフェクトー」
盤面は白一色だ。
メイプルが選んだ色はその自慢の装備の色だった。
つまり黒。惨敗である。
悔しそうにしていたメイプルがサリーに気付いて立ち上がる。
「おかえりサリー!」
「え、ああ、うん。それはいいんだけど……誰?」
「僕はカナデ。さっきまではメイプルと一緒に砂の城を作って遊んでたんだ」
「楽しかったよねー」
「ねー」
サリーには何となくこの二人が似ているような気がした。
思考回路が似ているのだろう、二人は一瞬にして打ち解けたようだった。
「大丈夫なの?」
「大丈夫だと思うよ?ねーカナデ?」
「だって僕まだレベル五だよ?自慢じゃないけど弱いよ?」
そう言って、カナデはサリーにステータスを見せてくる。
確かにレベルは五だった。
「い、いいの?そんなに簡単に見せて?」
「いーよいーよ。メイプルのパーティーメンバーのサリーさんでしょ?なら別にいいよ!」
サリーが探索に行っている間に何があったのかは分からないが、メイプルはかなりの信頼を得ているようである。
その逆もまた然りだ。
サリーもメイプルに押し切られるようにしてカナデとフレンド登録をした。
メイプルとカナデは既に登録し合っているとのことだった。
「んー……サリーでいいよ。メイプルが大丈夫って言うなら、まあいいや。それに…」
「それに?」
「向かってきても、今なら簡単に倒せるしね」
そう言ってサリーがダガーを構える。
「そ、そんなことはしないと誓うね、うん」
カナデもいるが、サリーはメイプルに先程のダンジョンの話をした。
「えー……あんまり行きたくない…」
「それには同感。でも、中がどうなってるかは分からないし…入ってみる価値はある」
「うーん……そっか」
どうするかを静かに考え込んでいた二人だったが、その沈黙を破ったのはどちらでもなくカナデだった。
「なら、僕が見てきてあげる!スタート地点もここから百メートルくらいしか離れてないし」
死ぬことを前提とした提案である。
二人もそんなことはしなくても大丈夫だと言ったがカナデは飛び出して行ってしまった。
バシャバシャと泳いでいく姿が小さくなっていく。
「【水泳I】持ってたし…たどり着けるとは思うけど…」
「だ、大丈夫かな?」
「分からないなぁ…」
小島にたどり着くのを見届けると二人は中に何があるのかを考える。
「どう思う?」
「すっごいモンスターがいるんじゃないかなぁ…」
「あの怪鳥みたいなの?」
「そうそう!」
ただ、これはあくまで予想でしかない。もしかすると、転移先は金銀財宝で溢れる部屋かもしれないのだ。
「財宝なら、カナデに持ってかれちゃうかな?」
「まあ、そうだろうね」
財宝を目の前にして持ち帰らないということは無いだろう。
その後の転移先も予測出来ないので追いかけることも出来ない。
「あー死んだ、死んだ」
その時、カナデが森から出てきた。
二人は報告を聞くまでもなく中にいるモンスターの能力を理解した。
怪鳥の時と状況が酷似していたためだ。
「報告します、メイプル殿」
「ほほう、何だね?」
謎のノリだが、たまにサリーもするので人のことは言えない。
「転移先は水中。さらにその水に浸かっていると動きが鈍り、なす術なく巨大イカに叩き潰されました」
「なるほど……無理!」
水中となればメイプルは参加出来ない上にサリーの【大海】のような水で埋め尽くされているのならサリーの回避も役に立たないだろう。
無理に挑んでも意味などない。
無謀と勇敢は別物である。
「今回は諦めよう」
「僕もそれがいいと思うよ」
「もうしばらく海の探索をしたら終わりにしようかな」
サリーが伸びをして海を見る。
まだ、探索の済んでいないところも少しは残っているだろう。
「僕も手伝おうか?メダルを見つけたらあげてもいいよ?」
ノーリスクハイリターンの提案だが、そんなうまい話など普通は無いだろう。
「カナデ?本気?」
「まあ、僕はこれがあればいいかな」
そう言ってカナデが取り出したのは一つのルービックキューブだった。
「それは?」
「これはね、僕のイベントでの戦利品だよ。後ろの森には周りに飛んでる浮遊島に繋がる魔法陣があって……僕が攻略したから今はもう消えちゃったけどね。ともかく、そこで手に入れた杖なんだ」
「そのルービックキューブが杖!?」
「そう。転移先は古びた図書館だったんだけど…そこの一室にジグソーパズルがあったんだ。それを完成させたら出てきたんだよ。四日かかったけどね」
ルービックキューブは薄く白い光を放ちながらカナデの手のひらの上に浮かんでいる。
「これにはスキルがついてるんだ」
「へー…私達の装備と同じ感じだね」
「スキル名は【神界書庫】面白いスキルだよ」
「どんなの?」
メイプルの問いにカナデは答えようとしたが考え直したのかこう口にした。
「パーティーメンバーになることがあったら、教えてあげる」
悪戯っぽい笑みにメイプルはこれ以上の追求が無意味だと悟った。
「んー…今すぐパーティーってのは無理かなぁ…」
「そっかぁ、残念」
カナデが楽しそうに笑う。
それは残念そうには見えなかった。
カナデは今までに出会ったどのプレイヤーとも違う、どこか摑みどころの無いような独特の雰囲気を持ったプレイヤーだった。
「イベントが終わったらまた会いたいなぁ」
「いいよ?その時はまたオセロしよう!」
「うん、そうしようか」
「話もまとまったし、私は探索に行くね」
「僕もいくよ、多少は足しになるとおもうよ?」
サリーとカナデが海へと歩いていく。
メイプルは今度こそ真面目に砂浜を探索することにした。
結果は何も無しというものだった。
海も砂浜も粗方探索を終えたが、これといって何も見つからなかったのだ。
となると、二人はこのエリアでの用事を全て済ませたということになる。
カナデと別れて、再び新たな探索場所を探すことになった。
「頑張ってねー!」
「またねー!」
別れの挨拶をして立ち去る。
「面白いけど、不思議な人だったねー」
「そう?私はメイプルで見慣れているからなぁ…」
「ど、どういう意味かなぁああ!?」
二人は取り敢えず海岸線に沿って、進むことにした。
変に迷うこともなく、それが最善と判断したからである。
今回限りのキャラではないです。
ちゃんとまた出てきますよ。
性能は、ご自由に推測してみて下さい。