防御特化とイベント五日目。
「私達も行こうか」
「そうだね」
カスミが立ち去ってしばらくして二人も立ち上がった。
目標は今夜の寝床の確保である。
「まずは砂漠を抜けないと…」
身を守るものの無い砂漠で眠るのは危険極まりない。
二人は歩き出した。
「広いなぁ……」
「そうだね……」
砂丘を乗り越え乗り越え先へ進むも、同じような風景が続くばかりだ。
大きな砂丘があちこちにあるために見通しが悪くどちらに行けば砂漠を抜けられるのかが分からない。
それに、モンスターがいない訳ではないのだ。
正直なところ、二人は戦闘は避けたいところだった。
「この砂丘を越えたら一旦休憩にしない?」
「うん、そうしよう」
急斜面を手をついて登りきる。
すると、そこには今までとは少し違った風景が広がっていた。
「砂丘が無い?」
「真っ平らだね!」
目の前に広がっていたのは起伏の無い砂漠だった。
砂丘など一つもなく、夜で無ければ遠くまで見通せる状況だっただろう。
「こっちに行ってみる?」
「そうしよう!こっちのほうが歩きやすいしね」
意見が一致した二人は砂丘を滑り降りて再び歩き出す。
「昼間なら何か見えてたかもね」
「確かにそうかも。イベントって後何日だったっけ?」
「後三日。そのうちに後九枚メダルを集めるのが目標」
「うーん…結構厳しそう?」
「PKでもしないと厳しいかな」
「うーん……そっか」
どうしてもというならそれも選択肢に入ってくるだろうが、誰がメダルを持っているかも分からないためダンジョンを探すのと同じような難易度だろう。
「まあ、そういうのはプレイヤーと出会ってからでいいよ。相手が戦うつもりなら返り討ちにする」
「うん、そうだね」
二人はだだっ広い砂漠を歩き続けた。
暗くて先はよく見えていなかったが、次第に木の葉が風でガサガサと揺れる音が聞こえ始めたことで、砂漠の終わりを知ることが出来た。
「どんなモンスターがいるか分からないから注意して」
「おっけー!」
暗い森の中を進んでいくこと三十分。
二人は一つの洞窟を見つけた。
「入ってみよう。それで、浅そうなら拠点にしちゃおう」
「私が前を行くよ」
もしかしたらまた深い洞窟かもしれないと思った二人だったが、この洞窟は五メートル程奥に伸びているだけの何も無い洞窟だった。
二人はやっと休めると地面に寝転がる。
「あー…今日は疲れた」
「私も……」
二人はそれぞれのパートナーを呼び出す。
癒しという理由もあったが、中々呼び出してあげられる機会が無く放っておいたことを悪いように思っていたからでもあった。
「外に出してあげられなくてごめんね」
「イベントが終わったら本格的にレベルを上げてあげるからね」
二人がそう言って優しく撫でてやると二匹は嬉しそうだった。
「明日はこの森の探索からスタートするとして、今日はもう終わりでどう?」
「私もそれでいいよ」
交代で眠ることにして、二人は早々に眠りについた。この日は出来る限り休んでおきたかったのである。
二人はそれぞれシロップと朧を抱くようにして眠った。
翌朝六時。
疲れもある程度はとれて、二人の探索への意欲も戻った。
軽めの朝食を済ませると洞窟から出て森の探索を開始する。
「心機一転!気合い入れて行こう!」
「おー!」
今までも何度か森を探索したが、この森は何の変哲も無い森だった。
なぜなら二時間ほど探索した結果、何も見つからなかったからである。
「特殊条件とかは分からないし…」
「この森は、もう抜けちゃおうか?」
メイプルの提案に少しの間思案していたサリーだったが、肯定を示すように頷いた。
「どっちに行く?」
「引き返しても仕方ないし、このまま直進しよう。まだ探索の済んでない場所が無い訳じゃないしね」
二人の探索の方法は奥地の辺りを探索するというもののため、森の出口付近に何かがあるかどうかは分からない。
しかし、望みは薄いと言えるだろう。
ダンジョンにしろ、通常フィールドにしろ大切なものは奥に隠して、強力なモンスターに守らせるのがよくある手法だ。
わざわざ、出口付近にメダルの入った宝箱を設置するようなことはないだろう。
そして森の出口が近づいてきた時に、二人はあることを感じ取った。
「波の音?」
「うん、私にも聞こえる」
森の終わりが見えて、二人がその先に見たものは真っ白い砂浜と、雄大な海だった。透き通った海の底には色とりどりの魚達が楽しそうに泳ぎ、美しい珊瑚が花が咲いているかのように海の中を彩っていた。
遠くには一つの小島が見える。
海は太陽を反射してキラキラと輝いていた。
「おー…今度は海かぁ…本当このフィールドは広いなぁ」
「色々あって面白いね!」
この五日間で二人は草原、森、雪山、渓谷、砂漠、そして洞窟と多くの場所を探索してきた。
それでもまだ新たな地形に出会えているのだから探索のしがいもあるというものである。
二人がこれ程多くの光景に出会えているのは、何よりも二人が探索に熱心であるというのがあった。
毎日何時間も探索を続け、その結果としてようやく新たなダンジョンや地形に出会うことが出来ているのだ。
そのダンジョンがまだ攻略されていなかったのは二人が幸運の持ち主だったということだろう。
「でも…海は私は探索出来ないなぁ」
「取り敢えず、私が海中を探索してくるね」
「うん、お願い」
サリーはバシャバシャと海に入っていくと大きく息を吸い込んで潜っていった。
サリーの潜水可能時間は四十分である。
当分は上がってこないことだろう。
「何して待ってようかな…釣りはまともに出来ないしなぁ…森は探索したし…うーん、砂浜に何か埋まってないか探してみようかな?」
そう言ってメイプルは砂を掘り返し始めた。
ところ変わって海中のサリーはまるで宝石のような魚達に見とれていた。
それ程に綺麗な光景だったのだ。
先日、ヌメヌメしたカタツムリばかり見ていたせいもあってより綺麗に見えていたのである。
しかし、ずっと見とれている訳にもいかない。珊瑚の隙間や海底の砂の中を調べていく。
スキルが無ければかなりの時間がかかる作業だが、サリーのスキル構成ならば素早く、手際よくやる事が出来る。
「ぷはっ…!よっし、メダル一枚ゲット!【潜水】と【水泳】を持ってる人が少ないのかな?深い所は探索出来てなさそうだね」
限界ギリギリまで潜る必要も無いため一度息継ぎを挟んで潜り直す。
珊瑚の隙間が深くまで続いている場所がいくつかあり、先程のメダルもそこにあったのだ。
サリーはそこを重点的に探索する。
メダルや装備があるとすればそういう場所だからだ。
浅瀬は探索されてしまっているだろうから、深い部分を見つけて探る。
その結果、もう一枚メダルを見つける事が出来た。
「ふぅ……後は…あの島かな?」
サリーが島に向かって泳いでいく。
メイプルには到底来られない距離に位置するその島は小さく、中央に地下へと続く階段がある以外はヤシの木が一本生えているだけだ。
「取り敢えず…行ってみよう」
サリーは慎重に階段を下りていく。
百段ほど下った先にあったのは普通の木製の扉だった。
封印されているようでも無ければ、鍵もかかっていない。魔法陣が浮かんでいたりもしなかった。
サリーは慎重にそれを開ける。
そして、中の光景に驚いた。
中は綺麗な半円のドームだった。
そしてその中央には。
見覚えのある古い祠が魔法陣と共に静かに佇んでいた。