防御特化と流砂の下。
「んー……外れそうにない」
サリーが鎖をガシャガシャと引っ張ってみるものの千切れそうになかった。
「私の手元にボタンがあるぞ?」
「私のところにもある」
「私のにもある……焦ってて気付かなかった」
三人で話し合った結果サリーのところのボタンから押すことに決めた。
ボタンを押すとステータスの画面ににた青いプレートが宙に浮かぶ。
【束縛の鎖】
対象三人を繋ぐ呪われた鎖。
繋がれている三人は運命共同体となり、誰か一人の死亡が全員の死に繋がる。
【破壊不能】
「うわっ…きっつ」
現状一番危険なのはサリーだ。まともに回避が出来る状況ではない上、HPも低いのだ。
他のボタンも押してみるが同じものが表示されるだけだった。
「私がきっちり守ってあげる」
メイプルが大盾を構えて言う。
「うん。頼りにしてるよ」
二人が頷きあう。
その信頼が目に見えるようだ。
「私が凄く場違いだな。うん」
「……一時休戦で」
「ああ、そうしよう。私としてはもう戦いたくもないが……」
和服の女性が一呼吸置いて自己紹介をする。
女性の名前はカスミ。
見ての通り刀を使っての戦闘が得意だ。
ギリギリの戦闘で注意を払っているのが無駄だからもういっそ敬語はいいとのことだ。
「じゃあ…取り敢えず探索する?」
「そうしよう!」
「ああ、それがいい。ここにいても何も始まらないしな。それに、ダンジョンを攻略すれば鎖も外せるかもしれない」
三人は目の前にある砂岩で出来た階段を下っていくことにした。
「ボス次第では詰んでるかも」
「範囲攻撃持ちでないことを祈ろう」
カスミとサリーが警戒しつつ階段を下りていく。メイプルはキョロキョロと周りを見回していた。
「じめじめしてきてない?」
「え?あー…そうかも」
「壁も洞窟の壁になっているな。さっきまでは綺麗に整えられていたが…でこぼこだ」
階段を下りきった先にあったのは広い空間だった。
鍾乳洞のような見た目の岩石が天井を覆い、そこから垂れてくる水滴が水たまりに落ちて音を響かせている。
青みがかった岩石で出来た地面と壁はぬるぬるとしていて気持ちのいいものではなかった。
地面までぬるぬるとしているため歩きにくいのもあり、探索は難航しそうに思える。
「見たところモンスターはいないか?」
「そう、だね。いなそうかな?」
だだっ広い空間には水の滴る音以外に何の音も聞こえない。
「進もう。ゴールがどこかは分からないけど…複雑そう」
現在いる空間からは何本も分かれ道が伸びている。
そのどれもが高い天井だ。今の空間と同様の高さがあり十メートル程だろうか。
「上からの奇襲に警戒だね」
「私もそう思う。その可能性が高いだろうな」
「じゃあ、私はかばう準備をしておくねっ」
分かれ道のうち一つを選んで奥へと進んでいく。しばらく進んだ所で三人は再び広い空間に出た。
「ここも…何もいない」
「警戒させるだけか?流石に遭遇率が低すぎる。ゼロっていうのはな……」
「探索系ダンジョンで、ボスしかいないかわりに時間がかかるとか?」
メイプルが考えたことを言ってみると二人は確かにその可能性もあると頷く。
「分かれ道も多いし……確かに時間はかかりそう」
三人は再び歩き出す。
右へ左へ、上へ下へと歩き回るが、一向にボス部屋は見つからない。
そして、モンスターとも一度も遭遇していない。
「あー……行き止まりだ……」
「ふぅ……引き返すか」
「………ん?待って二人とも!」
メイプルが二人を引き止める。
指差しているのは行き止まりの壁のすぐ手前にある小さな水たまりだ。
そこからはポコポコと泡が発生していた。注意して見ていなければ見逃してしまいそうなものだが、変化の無いこの洞窟内での僅かな違いをメイプルは感じ取ることが出来たのだ。
それは偶然ではあるが大手柄だった。
三人が近寄って見てみるとそこにはメダルが一枚、銀色の輝きを放って沈んでいた。
メイプルがそれを拾い上げると泡も止まる。発見させるための仕掛けだったのだろう。
「うわ…全然気付かなかった」
「私もだ」
カスミはメイプルが見つけたのだからメイプルのものだし、此処からもそういうスタンスでいこうと言う。
つまり、発見したものがそのアイテムを手に入れるという訳だ。
「これで、このダンジョンにボスがいない可能性も出てきたわけだな」
「確かに、可能性は高くなったね」
「どういうこと?」
「だって、ボスがいるならそこにメダルを纏めて配置するでしょ?今までもそうだったし」
「そっか、確かにそうだね」
そのため、ここでメダルを見つけたことは、そのままこのダンジョンが探索メインであることを意味するのではないかという訳である。
「これからは地面や壁もじっくり見ないと駄目か…ふぅ……しんどいなぁ」
「私も頑張って探すとしよう。何か一つくらいは持ち帰りたいからな」
今度こそ三人が行き止まりから引き返していく。
この洞窟は行き止まりが中々に多く、その上景色も変わらないため迷いやすく、思ったように探索が進まない。
「戦闘だけでぱぱっと終わるダンジョンの方が得意かなぁ」
「私は特にそう!」
「ああ、私も戦闘の方が得意だな」
話しながら歩くうちに三人は再び大広間に出る。
まるで蟻の巣のような構造だ。
といっても蟻など一匹もいないのだが。
「あっ!何か光ってるよ!」
「お宝かな?」
「かもしれないな」
三人は広間の真ん中へと向かっていく。
そこにはまるで天の川のようにキラキラと輝く地面があった。今までの岩石とは訳が違う。三人は部屋を真っ二つに分断するように長く伸びるそれをしゃがみ込んで観察する。
「綺麗だけど…宝石ではないね。砂金とかに近いかも」
「ああ、確かに。だが、取れそうにないな」
カスミが刀で弄ってみるものの破壊不能なものを攻撃した時と同様のパキンという音が鳴って弾かれてしまう。
幅も広いこのキラキラとした地面を採取することが出来れば三人分の素材は確実に取れるだろう。
凄い量だからだ。
「うーん……時間によって取れるようになるとか?竹林の時みたいに」
「その可能性は高いね」
「竹林?」
カスミは竹林のことを知らないためメイプルが説明した。
「夜中限定か…私は夜は出歩かなかったから気付かなかったな」
「今何時?」
「ちょっと待って……五時半。洞窟を出れたとしても夜になってるかな」
「となると、ここで一晩過ごさなきゃ駄目そうだね」
「中々ハードだな」
現状脱出手段を見つけていないためどうしようもない。
三人は広間を抜けて再び探索に出た。
しばらく壁や床に注意して歩いてみたもののあのメダル以降はまだ何も見つかっていない。
「ん?」
「どうかしたの?サリー」
「何か見つけたか?」
「いや、今、小さな地震があったような気が……」
「そう?私は気付かなかったけど」
「私もだ。本当か?」
「うーん……私が疲れてるだけかも。今日は偽メイプルとも戦ったし」
「偽メイプル?何だそれは?」
「ああ、それはねー」
メイプルがドッペルゲンガーのボスについて話す。
カスミはそれを興味深そうに、楽しそうに聞いていた。
「それはまた…ハードなボス戦だな。私は探索ばかりしていたからなぁ」
「じゃあ、その探索の話が聞いてみたいなー!」
「ははは、いいぞ。そうだな…何から話すか……」
図らずも、鎖で繋がれたことが三人の絆を深めることとなった。
サリーも既にカスミを倒すのは止めようと思う程に仲良くなってしまった。
もう時間は六時を過ぎた。
五日目もすぐそこである。