前へ次へ
17/547

防御特化とお友達。

誤字修正。

「それじゃあ…行ってきまーす!」

制服を着て学校へ向かう。

ここ数日で日差しも強くなってきてぽかぽかとした陽気が心地いい。ようやく春らしくなってきたと言える。

楓の席は窓際なので油断すると眠ってしまいそうだ。この調子では、二つ隣の理沙は午後の授業は居眠りコース確定だろう。

と、そんなことを考えながら通学路を歩いていく。楓の家は学校からかなり近いため歩いて登校しているのだ。その距離なんと徒歩五分である。

心地いい風が吹いていて歩くことが苦にならない。

花粉症を患っていないため、楓はこの季節が結構好きだった。


「よし!今日も一日頑張ろうっと」

校門をくぐって、教室に向かい自分の席に着く。この後今までは読書をしていたのだがNewWorld Onlineを始めてからはスキルのことを考える時間になっている。こんなスキルがもしあったならどうすれば取れるか、なんてことを考えているとそれだけで楽しいのである。



「なーにニヤニヤしてるのかなっ!」

すぱこーんと楓の頭に突っ込みが入る。

突っ込みの主は理沙だった。


「べ、別に何でもない!」


「本当に〜?っと、そうだ。今日はそんなことをしに来た訳じゃなくて、んっん……ふふふ…ときに、楓くん。今日は重大な発表があるのだよ」

そう言って理沙が腰を曲げてずいっと顔を近づけてくる。咳払いをしてわざわざ言い直して謎のキャラを作っている理沙に楓も乗っかってあげる。


「むむっ…何だい理沙くん。今日はテンション高いね」


「そう、何と、何と!ゲームをプレイする許可が下りたからなんですっ!」

楓がパチパチと小さく拍手をする。

相当勉強を頑張ったのだろう、とても嬉しそうにしているのが分かる。その表情を見るだけで楓も嬉しくなる。


「と言うわけで、楓にゲーム押し付けただけになってたけど今日からやっとプレイ出来るよ〜」


「じゃあ、パーティーが組めるね!」


「うん、そうそう。パーティーが……って楓もう始めてたの!?」

理沙は驚いたのか大きな声でそう言った。

因みに二人とも登校はかなり早いため教室には二人しかいない。周りのことは気にしなくていいのだ。


「え…えへへ…」


「あの楓が、私にゲームを押し付けられて嫌々ながら付き合ってくれてた楓が…」


「押し付けてた自覚あったの!?」


「いやー嬉しいなぁ…二人でプレイは無理かなと思ってたんだけどまさか楓が乗り気だなんて…」

それで、と理沙は話を続ける。


「何レベルまで上げたの?それともアカウント作っただけ?」


「え、えっとぉ…その…に、20レベル」

理沙は一瞬ポカンとしていたが、楓の言った意味を理解したのかニヤニヤし始めた。


「おーっとぉ…予想以上に楓さんはゲームにハマっているようですねぇ」


「むうぅ…」

楓が頬を赤らめながら理沙を睨む。理沙はまだ少し楽しそうに笑っていたが、悪気は無さそうなので楓も何も言わないでおいた。


「あはは、ごめんごめん冗談だって、でもそこまで育ってるならキャラの方針も決まってるんでしょ?」


「うん!防御特化の大盾使いだよ!それでねー…理沙になら話してもいいかなー」

楓は理沙に自分自身のスキルやステータスのことを全て話した。








「何その化物キャラ!さっすが楓、普通のプレイから脱線してるよ」


「えっ…そうなの!?」


「うん、っていうかもう脱線した先で手に入れたものが強過ぎ。あー…これは楓に追いつくの大変そうだなぁ…」


「で、でも私と同じようにすれば…」

楓がそう言うと理沙は手を胸の前で交差させてバツ印を作って首を振る。


「楓は楓。私は私。楓の見つけたスキルを友達権限で掠めとる気は無いの!まあ…異常なスキルを手に入れる糸口は貰っちゃったけどね。それは仕方なかったってことで」


「それで、理沙はどうするの?」


「楓が防御特化のタンクだし、魔法使いもいいかなと思ったんだけど…楓とパーティー組むのにそれは普通過ぎるよね。それに、それなら私いらないし」

むーっと唸りつつ考えごとをしていた理沙は何かを思いついたのかニヤリと笑った。


「よし!決めた!私は…『回避盾』になる」


「回避…盾?」


「うん!敵の攻撃を引きつけて回避することで攻撃を無力化するんだ」


「おおおお!格好良い!……でも、盾なら私がやるよ?」

楓が疑問に思ったことを口に出す。そう、盾職ばかり集まっても仕方が無い。


「楓と私のパーティーはどんな戦いに出てもノーダメージ!いつだって無傷!どう?格好良くない?」

その言葉を聞いて楓がその光景を想像したのか首をぶんぶんと縦に振った。興奮しすぎて手までぶんぶん振ってしまっている。


「そういうコンセプトでパーティーを組みたいと思ったから回避盾を目指す!」


「頑張って!私はもっと防御力上げるね!」

そして、今夜一緒にプレイする約束をして二人の話は終わった。理沙も自分の席に戻っていく。


「回避盾…難易度は最高クラス?でも、だからこそ燃えてくる…!」

小さな声で呟いたそれは楓の耳には届かなかった。

ゲーマーとしての性だろうか。

理沙は達成条件の難しいものを選択するのを好む傾向がある。

さっき理沙が言った、無傷の無敵パーティーのを実現するためには、まずは理沙が敵の攻撃を避け続けることが必須条件である。



何十発と打ち込まれる魔法。

高速の連続攻撃。

それを紙一重で避けて敵を倒す自分をイメージするだけで。


「ゾクゾクするっ…!」

理沙は今日の授業が早く終わって欲しくて欲しくて仕方なかった。









前へ次へ目次