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防御特化と秘密特訓。

ランキング8位⁉︎ふぁっ⁉︎

み、皆さんありがとうございます。

漆黒の装備に身を包んで、噴水の縁に腰掛けて楓は悩んでいた。

中々レベルが上げられないのだ。

現在の楓のレベルは18で、現在最高レベルは48らしい。楓は最初はこのゲームに全く興味が無かったため参戦が遅れたのだ。このままではレベル格差は開く一方である。

では、何故楓がレベルを上げられないのかというとAGIが足りないためレベルを上げられる程強力な敵がいる場所に気軽に行けない為である。


「うーん…」

情報掲示板とにらめっこして有用なスキルを手に入れられないか考える。

今までで一番真面目に考えている理由は昨日運営から届いたイベント通知のせいである。

そう、あと一週間すればイベントが始まってしまうのだ。イベント内容はポイント制のバトルロワイヤル。参加者全員が、他のプレイヤーを倒した数と死亡回数で争いあうのだ。

他にも与ダメージや被ダメージによってもポイントが入るらしい。

そして上位十名には限定の記念品が贈られるのだ。


「限定と言われると欲しくなっちゃう………っ!」

楓は地雷と分かっている商品でも期間限定と書いてあると買ってしまうタイプの人間だった。

だからこそ、このレベル差を覆す戦法を考えているのだ。


「うー……取り敢えずこれで行こう!」

楓は掲示板との睨めっこを止めると北へ向かって歩き出した。




そう、楓は知らなかったのだ。




自分の防御力がいかに異常なのか。






「明日は休みだし…泊まり込みでスキルを発掘してみせる!」

楓のインベントリには寝袋が入っている。素材を売ってちまちまと貯めたお金でやっと買うことが出来たのだ。

装備は豪華だが、金欠なのである。

そして、やって来たのは北の森。

ここで泊まり込みで狙う獲物のうち一匹は爆発テントウという自爆攻撃をしてくるテントウムシである。

そして、もう一種類は様々なゲームでお馴染みの、ゴブリンだ。


「よし…【挑発】!」

楓の身体から光が円形に放射されてモンスターが寄ってくる。楓はその内のゴブリンだけを相手取る。ゴブリンの数は五体。その他のモンスターは攻撃されようがノーダメージなので放置する。

ゴブリンはその粗悪な剣で楓に斬りかかってくる。しかし、いくら楓が【AGI 0】とはいえ、正面から斬りかかってくるだけの相手の攻撃を自分より大きい盾で防げないなどということはない。

ガッチリと受け止め、弾く。地味だがこれを繰り返すのだ。ゴブリンは五体。効率は五倍だ。


『スキル【大盾の心得Ⅰ】を取得しました』

これは情報掲示板に書いてあった通りの基本的なスキルなため、楓も予習済みだ。

大盾を装備している時に敵からのダメージを1%カットしてくれる。VITを上げるのでは無くダメージ軽減スキルを片っ端から身につけることで防御力を上げるつもりなのだ。


「【挑発】!」

さらにゴブリンを増員して十体に叩いてもらうことで、さらに効率を上げる。

【大盾の心得Ⅰ】は数時間のうちに【大盾の心得Ⅳ】まで成長し、ダメージを4%カットしてくれるようになった。

さらに【体捌き】と【攻撃逸らし】のスキルも手に入れた。効果は共に被ダメージ1%カットだ。


「これくらいでいいかな」

そうして今も頑張ってくれているゴブリンを【シールドアタック】で叩き潰す。


『スキル【極悪非道】を取得しました』

ここで、楓の予期していなかったスキルが手に入ってしまった。

楓のプレイスタイルが他のプレイヤーとは全く違い、耐えて耐えて時間を使うものなので他のプレイヤーがそう簡単には発現しないようなスキルばかり手に入ってしまうのだ。


【極悪非道】

相手の攻撃をわざと受ける度に【VIT +1】

ただし効果はスキル発動から一日の間。

上限は【VIT +25】

取得条件

倒すことの出来る相手の攻撃をわざと受け続ける時間が一定値を超えること。

かつ、それまでに一度もデスペナルティを受けていないこと。


「嬉しい誤算きたっ!」

小躍りしそうになるのを抑えて、楓は森の奥へ進む。

そう、今回楓はこのゲームを始めてから初めて。




未発見スキルを見つけ出しにいくのだ。





爆発テントウはその名の通り爆発するテントウムシでサイズは普通のテントウムシの二倍くらいだろうか。経験値もまずく、森の奥のため入るのが手間で、さらにサイズのせいで回避し辛く受けるダメージも大きい。故に狩場として使われることも無くここは楓が独占出来た。

楓はその生息地までくると【挑発】を使いテントウムシを呼び寄せる。殆ど狩られていないためか大量に飛んできたテントウムシに対し楓は新月の刀身を鞘からほんの少しだけ出した。


「【パラライズシャウト】」

シャウトと言うには静かな、しかし確かなキンッという音が響く。

新月に付与したスキルは元は毒竜のものなので技名は竜のものが殆どである。

つまり音を響かせれば良いわけだから楓は鞘に収める時の高いキンッという音をトリガーにしている。

理由は格好良いからである。

テントウムシがバラバラと地面に落ちていくのを満足気に見つめる楓。

そして、楓はしゃがみ込み、目を瞑ると。






テントウムシを片っ端から食べ始めた。


「あっ…あのパチパチ弾けるお菓子みたいな感じ!目を閉じればどってことないね。っていうか、もう毒竜食べてるし、今更これくらい……」

楓も何の考えも無しにこんなことをしている訳では無い。

楓の考えが正しかったことはテントウムシを五十匹程食べた時に証明された。


『スキル【悪食】を取得しました』


『スキル【爆弾喰ボムイーターらい】を取得しました』


「じゃあ…もう食べなくてもいいね」

楓は新しく手に入れたスキルを確認する。


【悪食】

あらゆる者を飲み込み糧に変える力。

魔法さえ喰い荒らし自分のMPに変換することが出来る。容量オーバーの魔力は魔力結晶として体内に蓄えられる。

取得条件

致死性の劇物を一定量経口摂取すること。



爆弾喰ボムイーターらい】

爆発系ダメージを50%カットする。

取得条件

爆弾テントウをHPドレインで倒すこと。


「いいスキルだっ!はぁ〜頑張って食べた甲斐があったよ〜」

楓は【悪食】を『闇夜ノ写』に付与する。

【悪食】は常時発動なので回数制限には関係が無い。さらにこれで魔法攻撃と直接受け止めた相手の武器を食べてしまうことで完全無力化が出来るのだ。


「そして魔力結晶に変えて『新月』で大魔法を撃つ!ふへへ…格好良い…」

バッ、と新月を抜き放ち前に突き出してポーズを取る。イメージトレーニングは完璧過ぎる程に完璧だ。


「本当は爆発系の魔法を探しに来たけど…結果オーライだね!」

後はレベルを期間ギリギリまで上げるだけである。


果たして楓の初イベントはどうなるのだろうか。


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