防御特化と毒竜戦。
伸び過ぎて怖いぐらい。
凄く嬉しいです。
「うっ……あんまり美味しくない」
楓が顔を歪める。
しばらく観察していて分かったことは齧り取った部分は再生されることがないということだ。しかし、削るだけでは剥がれ落ちた肉がどういう原理か逆再生のように元の場所へと戻ってしまう。
「やっぱり食べないとダメかぁ…」
毒竜の肉は僅かに苦味があって楓の苦手なピーマンを思い起こさせるのだ。
それでも、食べなければこの部屋から出れないのだから鼻をつまんで涙目になりながら食べる。楓にとっての味方はこのゲーム内には満腹というものがないことである。味は感じてもお腹は満たされないのだ。
「もぐもぐ…あっ毒竜さん…ブレスかけてくれてありがとう。むぐむぐ…辛味があってピーマンっぽさが消えて助かるよぉ…」
そうやって胴体部分を食べ進めていく。そうして五時間程食べ続けた結果。胴体部分が骨だけになった。次は尻尾、と楓が尻尾の方に滑り降りようとした時、毒竜の骨がボロボロと崩れ落ちて、毒竜自体も動かなくなった。
それと共に毒竜の後ろに光輝く魔法陣と大きな宝箱が現れた。
『スキル【毒竜喰らい】を取得しました。これにより【毒無効】が【毒竜】に進化しました』
『レベルが18に上がりました』
楓はまずはステータスポイント20をいつものようにVITに振った。
これでVITの基礎値は150である。
「よし…また守りが堅くなった!」
続けてスキルを確認する。楓もまさか【毒竜喰らい】などというスキルがあるとは思わなかった。
【毒竜喰らい】
毒、麻痺を無効化する。
取得条件
毒竜をHPドレインで倒すこと。
どうやら食べるのはHPドレインという扱いらしい。こんなことをするプレイヤーが楓以外にいるのかはかなり怪しいところだ。
確かにHPは微量には回復していた。
正規の取り方では無いだろうことは明白だった。むしろ正規の取り方の方がよっぽど難易度が低いだろう。だれが好き好んで毒竜の腐肉を食べるというのか。
【毒竜】
毒竜の力を意のままに扱うことが出来る。
MPを消費して毒魔法を行使出来る。
取得条件
毒無効を取得した上で毒竜をHPドレインによって倒すこと。
これを見た楓は戦慄した。
「は、初めての私のまともな攻撃手段だ!しかも毒だなんて相性ぴったり!」
当ててしまえば後は耐えているだけでいい、楓のVITを最大限に活かせる。
「でも、MPが問題だなぁ…でもVITに振りたいしなぁ…」
うんうん唸っていた楓だったが、宝箱の存在を思い出して思考を中断する。
かなり大きい。横は三メートル、縦は一メートル、高さは二メートルほどの長方形だ。
初めての宝箱に楓はゴクリと唾を飲み込む。緊張と興奮で鼓動が高鳴る。
ゆっくりと蓋を持ち上げて中身を確認する。
「おおおおおおおおおおおおおおっ!」
楓が興奮のあまり大声で叫ぶ。
中に入っていたのは黒を基調として所々に鮮やかな赤の装飾が施された大盾。
重厚な輝きを放ち、薔薇のレリーフが目立ち過ぎずそれでいてしっかりとした存在感を持つ様に彫られたいかにも先程の大盾に合いそうな鎧。
そして、美しく輝くガーネットが埋められている鞘を持つ落ち着きのある漆黒の短刀。
「もうっ…さいっこう!格好良い!」
それらを手に取り一つずつ説明を見ていく。
【ユニークシリーズ】
単独でかつボスを初回戦闘で撃破しダンジョンを攻略した者に贈られる攻略者だけの為の唯一無二の装備。
一ダンジョンに一つきり。
取得した者はこの装備を譲渡出来ない。
『闇夜ノ写』
【VIT +20】
【破壊成長】
スキルスロット空欄
『黒薔薇ノ鎧』
【VIT +25】
【破壊成長】
スキルスロット空欄
『新月』
【VIT +15】
【破壊成長】
スキルスロット空欄
まさに楓専用装備。短刀までもがVIT強化という、他の人が使ってもその強力さを十分に発揮出来ない装備である。
「スキルスロットと【破壊成長】は戻ってから見ようっと!」
楓は三つの装備を大事にインベントリに仕舞い込むと魔方陣の光に包まれてダンジョンからいつもの町へと転送された。
楓は戻るなりそそくさとその場を退散して残った僅かなお金で一日だけ、宿を一部屋借りた。
このゲーム内でも睡眠をとることは出来るため宿という設備があるのだが、今回の楓の目的は泊まることなどではなかった。
「まずは確認かな」
【破壊成長】
この装備は壊れれば壊れるだけより強力になって元の形状に戻る。修復は瞬時に行われるため破損時の数値上の影響は無い。
スキルスロット
自分の持っているスキルを捨てて武器に付与することが出来る。こうして付与したスキルは二度と取り戻すことが出来ない。
付与したスキルは一日に五回だけMP消費0で発動出来る。
それ以降は通常通りMPを必要とする。
スロットは15レベル毎に一つ解放される。
「ふふっ…格好良くて!強い!」
スロットが追加されることを確認出来た楓は迷うことなく短刀『新月』に【毒竜】を付与する。これで懸念だったMP問題も解消である。
「そして、お待ちかねの〜装備!」
楓が全ての装備を身に付けて鏡でその姿を確認する。
「おおおおおおお!格好良いよ私!」
それから一時間程その装備に慣れる意味も含めて鏡の前でポーズをとり続けた。
「ふふふ…そして、いざ外出!」
勝負服を着て外へ出る様なものなのでかなり緊張している楓だった。
案の定、圧倒的存在感を放つその装備に注目している人が沢山いた。
もう夜も遅くなってきているが、もう一度狩りに行ってみようと町の外へ足を向けた。
重量系の装備している少女っていいよね。
ユニークシリーズについて修正。