デートとは?
デート……それは、お付き合いしている男女、もしくはお付き合いしていなくても、男性からデートをしましょうと誘われて、二人で出かけることがデートだと思っていた。
しかし、どうやら世間一般では男女が二人で出かける行為をデートというらしい。
ヘンリーと出かけたあれは、すぐにどこからともなく女性が現れて、私からお金をもらったらいなくなるのでデートとは言わないだろう。というか、デートと認めたくもない。
では以前、私が侍女試験を受けるお祝いにとバルドさんと二人で夕食を食べに行ったあれはどうだろう?
男女二人でお出かけだ。
いや、でもバルドさんとは友人同士だからデートとは言わない?うん。きっとあれは、友人同士の食事でデートではない。
あれ?でも、シュリガンさんとも友人同士だからデートとは言わない?
でも、グラビス様はまごうことないデートだと言っていた。確かにシュリガンさんのあの様子は、デートに誘ってオッケーをもらって喜ぶ姿に見えた。
もしかして、シュリガンさんは私に好意がある?
いやいや、まさか?だって、もてる要素などない私だ。
「……嬢ちゃん?」
そんな、いやでも?やっぱり、デート?
だとしたら、これは初デートではないか!
「おーい、嬢ちゃん?」
私は、目の前でヒラヒラとバルドさんに手を振られて、ハッと目を瞬いた。
「大丈夫か?」
心配そうにバルドさんに聞いた。
「はい。大丈夫です。ちょっと、深い考え事をしていました」
私は、慌てて朝食を食べ始めた。
「そういえば、明日は星祭りだな」
星祭りの言葉に、私は飲んでいたスープを咽せた。
「ゲホッ、ゴホッ、ゴホッ……」
「嬢ちゃん、大丈夫か?」
バルドさんが、びっくりして私の後ろに回って背中をさすった。
私は、差し出された水を飲んで、やっと落ち着いた。
「ご心配おかけしました。もう、大丈夫です」
「おう。それで、嬢ちゃん。星祭り、一緒に行かないか?」
まさか、バルドさんにも誘っていただけるとは。
とはいっても、バルドさんの方は友人としてだろう。
「お誘いありがとうございます。でも、他の方と一緒に行く約束をしてしまいました。せっかくお誘いいただいたのに、申し訳ありません」
「そうか、残念。誰と行くんだ?」
誰と……。私はシュリガンさんに、初デートに誘われたのだ。
そう思った瞬間、私は顔が真っ赤になった。
バルドさんは、突然真っ赤になった私を見てびっくりしたように目を見開いた。
「その、シュ、シュリガンさんにお誘いいただきました」
「……そっか、残念。先を越されちゃったな。シュリガンさん、真面目でいい奴だよな」
バルドさんの表情がほんの一瞬翳ったような気がしたが、それは気のせいだったようですぐにカラリと笑った。
「せっかくお誘いくださったのに、申し訳ありません」
「いや。嬢ちゃんも来年はアルロニア帝国だから、星祭りが楽しめるのは今年だけだ。楽しんで来てくれ。おっと、嬢ちゃん。そろそろ時間じゃないか?」
時計を見ると、確かにもう出なければいけない時間だった。
「本当ですね。では、先に出ますね」
いつものように弁当を渡されて私は家を出たのだが、なぜかバルドさんの笑顔が寂しそうに見えた……。
◆
「オ〜ホッホッホ、私が来ましたわ〜」
王女宮に行くと、侍女服を着たキャサリン様が高らかに笑っていらっしゃった。
朝からとてもお元気だ。
グラビス様が、うんざりするようにキャサリン様を見ていた。
「キャサリン様、朝からうるさい……」
グラビス様は、昔から朝は弱い。
「申し訳ありませんですわ。嬉しくてつい」
キャサリン様とグラビス様は、お茶会のラテアートの一件ですでに顔見知りだ。
「キャサリン様、おはようございます」
「おはようございます。今日から、またセシリアさんと一緒で嬉しいですわ」
「はい。私も、キャサリン様と一緒に働けて嬉しいです」
その後もテンション高くしゃべるキャサリン様と、うるさいと呟きながら半眼で歩くグラビス様に心配したが、意外と仲がよさそうな二人に私はホッとした。
王女宮の侍女達と顔合わせをしたあとは、キャサリン様は私と組んで仕事をした。
ユリア様の専属侍女に加わるグラビス様は、今週はアルマ様と組んで仕事だ。
キャサリン様は、メイドの仕事は苦戦したが、礼儀作法はもちろん侍女の仕事は完璧だった。
特にユリア様のお化粧と髪を結う技術は、やはり素晴らしかった。私も勉強になった。ユリア様も、キャサリン様をお気に召したようだ。
ユリア様には、ロイズアス様からよくお手紙や折に触れてプレゼントが届く。ユリア様が嬉しそうにお返事を書くのを、キャサリン様はニヨニヨと楽しそうに見ていた。
どうやら、お二人の相性もよさそうだ。
◆
星祭りのある今日は、さすがに仕事が終わってすぐに帰った。
私にとって、人生初のデートだ。
いったいどんな格好が正解なのだろう?
母さんとリリアがプレゼントしてくれた明るいワンピースもあるが、いかにもがんばって着てきましたという感じがして変な気がする。
かと言って、いつもの暗い色合いのワンピースでは失礼かもしれない。
そうして、悩むこと一時間……。
私は、アーリヤさんに助けを求めた。
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