デート!?
「セシリアさん〜!私が参りましたわ!オ〜ホッホッホ」
エリザベート様に呼ばれた王太子妃宮に行くと、侍女の格好をしたキャサリン様が、ババーンと高笑いした。
「これはどういうことでしょうか?」
私は目をパチクリさせて小首を傾げた。
「セシリア、キャサリン嬢は侍女試験に合格したんだよ」
ドュークリフ様の言葉に私は目を丸くした。
「それはおめでとうございます」
「これもセシリアさんのおかげですわ!ありがとうございますわ」
それにしても、つい数ヶ月前に侍女試験があったのに、侍女試験に合格したとは?
「セシリア達が受けた一次試験が、あまりに難しすぎだとクレームが殺到して、急遽臨時の試験が行われたんだよ」
ドュークリフ様が教えてくれた。
「キャサリンは、私の宮の侍女になる予定だよ」
キャサリン様は、エリザベート様の侍女になるのが夢だとおっしゃっていた。
見事夢が叶ったようだ。
「キャサリン様、よかったですね」
「はいですわ!でも明日から、私はしばらく王女宮のお手伝いに入りますわ」
「ユリアがアルロニア帝国に輿入れするだろう?その準備もある。アルマもそれに合わせて退職予定だから、臨時で王妃宮と王太子妃宮から侍女を回すことになった。グラビスは専属侍女として、キャサリンは侍女として、ユリアが輿入れするまで配属だ。明日から二人は王女宮で働くことになる」
ユリア様は、来年春にアルロニア帝国ロイズアス皇太子殿下に輿入れされることになった。
ユリア様はまだ十二歳なので、本来なら婚約だけして学園を卒業してから輿入れするものだ。
しかし、ドルゴン王国がきな臭いらしく、より強固にアルロニア帝国とランガルドフ王国が結びつくために輿入れが早められた。同盟も結ばれるらしい。
「キャサリン様、よろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしくお願いしますわ。オ〜ホッホッホ」
ギラギラ太陽のような笑顔でキャサリン様は、また高らかに笑った。
今日もキャサリン様はお元気そうだ。
◆
シュリガンさんといつもの中庭でお弁当を食べながら、臨時の試験があった話をすると、ああと納得したように頷いた。
「そういえば、僕の方も新しく文官になった人が三人ほど入って来ましたね。なるほど、臨時の試験があったのですね」
「はい。一次試験の内容が難しすぎだとクレームが殺到したようです」
「そこまで難しくは感じませんでしたが……?」
シュリガンさんが不思議そうな顔をした。
「それ、落ちた人が聞いてたら刺されるよ〜?ニヒヒ」
急に後ろから声をかけられて振り返った。
そこには、グラビス様がニヤニヤと笑っていた。
「グラビス様!?」
「やあやあ、セシリアさん。明日から王女宮に配属だから挨拶でもと思ってね」
「先日はお世話になり、ありがとうございました」
グラビス様には、紅茶ラテの講師でお世話になった。
「いえいえ、どういたしまして。それにしてもセシリアさんてば、こんなイケメン彼氏がいたとは隅におけないね〜」
「彼氏!?」
声がひっくり返った声をあげたのは、私ではなくシュリガンさんだ。
「彼氏ではありません」
私はすかさず否定した。
シュリガンさんは女性問題で大変な思いをした人だ。私の彼氏だなんて誤解されては気の毒だ。
「あ、はい。まだ彼氏になれてません。友人です」
友人!
いつの間にか友人と思っていただけていたようだ。
「はい!シュリガンさんは、いいお友達です!」
私も嬉しくてニコニコ答えた。
「ふ〜ん、なるほどなるほど」
グラビス様は、私とシュリガンさんを交互に見るとフムフムと頷かれた。
「えっと?シュリガンさん?」
「はい。文官のシュリガンと申します」
「ああ、セシリアさんと一緒に合格した噂のシュリガンさんね。私は今度王女殿下の専属侍女になるグラビス・タイタンだよ〜。セシリアさん、鈍いから大変だと思うけど、応援するよ。ファイト!」
グラビス様が、ポンとシュリガンさんの肩を叩いた。
「ありがとうございます」
シュリガンさんが苦笑してお礼を言った。
よくわからない会話に、私は小首を傾げたが、そろそろ休憩時間も終わりだ。
「私はそろそろ戻りますね」
そう私が立ち上がった時、シュリガンさんも慌てて立ち上がった。
「セシリアさん!星祭りですが、僕と一緒に行きませんか?」
シュリガンさんは、九十度頭を下げて言った。
「おお〜!」
グラビス様が感嘆の声をあげて、目をキラキラさせて私を見た。
星祭りは一年に一度、星の日の夜に行われるお祭りである。
王都の大通りには出店が出て、広場では踊ったりと賑やかなお祭りだ。
それに私とシュリガンさんが?
私は驚いて目をパチクリさせたが、あ!と気づいた。
お弁当のお礼の仕切り直しをと言っていた件か!
私があの時あまりに謝っていたから、星祭りならちょうどよいと思ったのだろう。
恋人達の定番ではあるが、このお祭りにはもちろん友人同士や家族でもたくさんの人が参加する。
いろいろ気を遣わせてしまって、申し訳ない。
ここは気遣いを無碍にしてはいけない。
「はい」
私は誘いを受けることにした。
シュリガンさんはバッと顔を上げると、信じられないといった顔をした。
「本当に……?」
頬までつねっている。
「はい」
そうして、ジワジワと喜びを噛み締めるようにギュッと胸の前で拳を握った。
そんな嬉しそうなシュリガンさんに、私はあれ?と疑問が浮かんだ。
なんか気を遣って誘ってくれた方の反応じゃないような?
これでは、意中の人をデートに誘ってオッケーをもらった人のような反応に見える。
「ありがとうございます!嬉しいです!では、明後日噴水前に十九時に〜!」
喜びに顔をほんわり赤らめて、シュリガンさんはブンブンと手を振って走って行ってしまった。
「キャ〜、デートだ!セシリアさんてば星祭りデート!」
え?デート?
「グラビス様、これってデートですか?」
私はガシリとグラビス様の肩を握って、詰め寄った。
「まごうことないデートでしょう」
「だってデートしようって言われてませんよ!?」
尚も私が詰め寄ると、グラビス様は呆れた顔をした。
「何言ってるんだか〜。男女が二人でお出かけってデート以外の何物でもないでしょう」
デート?
私とシュリガンさんが?
デート!?
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