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王太后とガブリエル

 ユリア様はあのお茶会以来、すっかり沈んでしまっていた。

 主人として、専属侍女である私を守れなかったことを責めてしまっているようだ。


 アルマ様に聞いたところ、リビアル様は今までのお茶会ではユリア様に丁寧に接していたそうだ。

 私が話した内容に驚いていた。

 どうやらリビアル様は、王太后殿下の強力な後押しを受け、もう自分が婚約者に確定したと思っているようだ。そのため、本性を隠す必要がないと思ったのだろう。


 ユリア様は陛下に訴え、王女である自分の専属侍女に無礼を働いたのは不敬だとリビアル公爵家に抗議をお願いした。

 しかしそれを知った王太后殿下が、陛下に言ってなあなあに済ませ、内々に注意するに止まったのだそうだ。


 私は一人の夕食を食べながら、バルドさんに話を聞いてほしいと思った。いつもバルドさんに話すだけで、不思議なほど心強い気持ちになった。


 ここに、バルドさんがいたら何と言うだろう?

 きっと、リビアル様と王太后殿下のことを私以上に怒ってくれそうだ。

 そう想像するとクスリと笑ってしまった。

 早くバルドさんに会いたいと思った……。

 

   ◆

 

 朝の身支度を整えながら、どうしたものかとアルマ様と目を合わせた。

 やはり今日も、ユリア様に元気がない。

 心配そうな表情のアルマ様は、わざと明るい声でユリア様に話しかけた。


「ユリア様、セシリアさんが新しい髪型を覚えて来たそうですよ」

「新しい髪型?」

「はい、ユリア様。友人に教わりました。よろしければ、今日はその髪型にしてもよろしいでしょうか?」

 私はお休みの日のたびに、キャサリン様にお化粧の仕方に加えて、様々な髪の結い方も習いに行っていた。


 キャサリン様は博識で、様々な見たこともない髪型を知っていてとても勉強になっている。

 私はお礼に、キャサリン様にエリザベート様のお話をしている。

 キャサリン様は、体をクネクネとさせて大喜びだ。


「興味があるわ。セシリア、お願い」

 ユリア様が、やっと笑顔を見せた。

「はい。かしこまりました」

 私は張り切って返事をした。

 キャサリン様には、その髪質と色に合った髪型を教わってきた。


 私は思い切って、前髪を編み込んでいく。

 顔周りがすっきりして、クリクリとしたヘーゼルナッツの瞳が可愛らしい。

 そして、後ろの髪は二つにわけて結え、毛束をさらにわけて細かく編んでいく。


「こんなに細かな編み方は初めて見ました」

 アルマ様が、私に教わりながらもう片方を編んでいく。

 フィッシュボーンという編み方だそうだ。

 残った毛束を普通に編んでゴムを隠すように巻きつけた。

 仕上げに、ピンクの花のピンを挿して完成だ。


「ユリア様!とても可愛らしいです!お人形さんのようですよ」

 その仕上がりに、アルマ様が興奮気味にユリア様を褒めまくった。

 前髪をすっきり編み込み、形よい額を出すとそのヘーゼルナッツのパチリとした瞳が印象的に見え、亜麻色のサイドの細かく編まれた髪は快活で愛らしかった。

「セシリア、素敵だわ」

 ユリア様もとても嬉しそうだ。


  


 午後からは王妃殿下とお茶会だ。

 今日のお茶会には、アルマ様と私が専属侍女としてついていった。

「まあ、ユリア。とても可愛らしいわね」

 ユリア様は、王妃殿下に褒められ嬉しそうに微笑んだ。


「ありがとうございます。セシリアがこの髪型を結んでくれました」

「そう。セシリアは器用なのね」

 王妃殿下がおっとりと微笑んだ。

「もったいないお言葉です」


 そうして二人のお茶会は和やかに進んでいたのだが、突然王太后殿下の来訪が告げられた。

 しかし王妃殿下は知っていたようで、戸惑うユリア様に困ったように微笑んで、王太后殿下を迎え入れた。


「王妃よ、無理を言ってすまぬな」

 王太后殿下の後ろには、リビアル様がいた。

「いいえ。王太后殿下の頼みですもの」

 王妃殿下が微笑み、ユリア様を見た。


「ユリア。先日はガブリエル様と何か行き違いがあったようね?わざわざ、謝るために会いに来てくださったそうよ」

 ユリア様は、微笑みを貼りつけた。


「ガブリエル様、わざわざありがとうございます」

「いいえ。ユリアに会いたかったので」

 リビアル様がニコリと微笑んだ表情は、父さんの前で微笑むヘンリーの表情とよく似ていた。


「せっかくじゃから、二人で温室の花でも見て来たらどうじゃ?」

「まあ、素敵。ぜひいってらっしゃい」

 王太后殿下の言葉に、王妃殿下も賛成する。


「……はい。お祖母様、お母様」

 ユリア様は、微笑みを貼りつけてリビアル様の差し出したエスコートの腕に手を添えた。

 私とアルマ様は、何とも言えない気持ちを押し込め二人に続いた。

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