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お茶会

 そうして、なんとか飾りつけも満足のいくものとなり、お茶会当日を迎えた。


「わあ!可愛い!」

「すごい!くまさんだぁ!」

「あ、ここにうさぎさん!」

 続々とお茶会に参加する子供達が来るたびに、歓声があがった。


「セシリア、ばっちりですね」

 マーバリー様も満足そうだ。

「はい!」

 私はこの反応にホッと胸を撫で下ろした。


 普通は王城の会場でお茶会をするものだが、私はユリア様に頼んで王女宮の庭園に変更してもらった。

 幸い、今の季節は滅多に雨は降らない。

 元々、花が咲き乱れ、木陰を作る木も程よく植えられている庭園ならテーマにも合っている。


 私は、今日のお土産用のぬいぐるみを青い薔薇で飾り付け、あちこちにかくれんぼのように置いて飾った。各テーブルにも花瓶に青い薔薇を生けてもらった。

 花々が咲き乱れる庭園なら、本来必要な青い薔薇の数の四分の三の薔薇でも充分華やかだ。

 子供達は、普段の澄ました貴族の顔に子供らしい満面の笑みを浮かべて、隠れているぬいぐるみを見つけては大喜びだった。


「今日は六歳のお祝いのお茶会にようこそ。みなさまの健やかな成長を祈っております。今、見つけたぬいぐるみ達は今日のプレゼントです」

「やったぁ!」

「嬉しい!」

 思わずと言った声をあげてしまった子達が、慌てて口を手で覆った。

 ユリア様が鷹揚に頷いて微笑む。


「今日は素敵なお茶も用意いたしました。どうぞ、楽しんでくださいね」

 子供達は目をキラキラ輝かせた。


 いよいよ、ラテアートだ。

 今日まで、ウルブシュア様を筆頭にキャサリン様、グラビス様がビッシビシに指導くださった。

 私はその様子を見守りながら、ひたすらミルクを泡立て、どうしてもできない方にはコツを教えていった。


 そして二週間、どうにか動物のラテアートは描けるようになったのだった。

 ユリア様がアルマ様に目配せをなさった。

 アルマ様が頷き、それを合図に私達はラテアートの準備に取りかかった。


 二人一組になって、ミルクを泡立てるのとラテアートを交互に行う。

 みんな裏方のミルクの泡立てより、ラテアートをやりたがったので、公平にどちらもできるようにしたのだ。


 私はロザリー様と組んでいた。

 みんな次々にラテアートで描かれる動物達に歓声をあげた。


「あら?セシリアさん、ずっとミルクの泡立てをしていませんか?」

 アルマ様が訝しげに私を見た。


「はい。でも、大丈夫ですので」

 別に私は裏方で構わない。

「ごめんなさい。私はあなたを随分誤解していたようね」

 アルマ様がキリッとした眉を八の字に下げ、心底申し訳なさそうに謝った。

「お気になさらず」

 私は作った笑顔ではなく、ニコリと笑った。


 アルマ様には、確かにネガティブキャンペーンに乗せられてしまったし、理不尽に叱られもした。

 しかし、アルマ様は自分の目で相手を判断しようとされていた。


 実は、マーバリー様からアルマ様に、私とロザリー様のことを伝えてあったのだそうだ。

 しかし、アルマ様は自分の目で見て判断したいとその情報を鵜呑みにはしなかった。

 結局、ロザリー様に騙されてしまったが、こうして自分の非を認め、平民である私に真摯に謝ってくれる貴族の方はなかなかいないだろう。

 私は、この真っ直ぐなアルマ様を嫌いにはなれなかった。


「セシリア、ユリア様がお呼びよ」

 私はマーバリー様に声をかけられた。

「はい」

「私が代わりにミルクの泡立てをやりましょう。いってらっしゃい」

「ありがとうございます」

 私が急いでユリア様のところに行くと、憎々しげに睨むロザリー様とすれ違った。


「セシリア、先日の侍女試験でお母様に描いた薔薇のラテアートをお願いしたいの」

「はい。かしこまりました」

 私は侍女試験で描いた薔薇をミルクの泡に描いていく。

 ユリア様の近くに座っている子供達が、身を乗り出して覗き込んでいた。


「そう、これよ。セシリア、素晴らしいわ。ロザリーに頼んだのだけど、ひどいものだったわ」

 ああ、なるほど。だから、ロザリー様は私を睨んでいたのか。

 ひと月あれば花の模様まで教えられたが、半月では動物で精一杯だった。


「私にもお願い」

 ユリア様の隣に座っていた、女の子が近くに立っていた侍女にお願いしていた。

「は、はい」

 お願いされた侍女は困ったように竹串を握って固まった。


「よろしければ私が」

「セシリアは、他のお花もとても上手なのよ」

 ユリア様が誇らしげにニコニコ笑った。


「もったいないお言葉です」

「じゃあ、ダリアの花も描ける?私の六歳の誕生日にお父様が贈ってくださったの」

 花びらの多いお花だ。


「はい。かしこまりました」

 私はミルクの泡にダリアと周りに模様を描いていく。

 うん。よく描けた。


「さあ、どうぞ」

「ありがとう。とても綺麗!」

 目をキラキラと輝かせた女の子に、私は微笑んだ。


 こうして、お茶会は大成功で幕を閉じたのだった。

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