陰謀
この一連の出来事は、アルマ様がロザリー様に疑いの目を向けるきっかけになったようだ。
おかげで随分、仕事がしやすくなった。
実は、私の下についた三人の侍女達にことごとく指示を無視されていたのだ。
このジル様、ジュナ様、ジェシカ様はミッズリー男爵家の三姉妹で仲がよく、三人でいることが多かった。
三人揃うと気が大きくなるようで、私の指示はこれまで全て無視されていた。
しょうがなく、個別に指示を出していたので三度手間だったのだが、アルマ様が厳しく言い含めてくださり、やっと素直に指示を聞いてくれるようになった。
内心はどうであれ、随分楽になった。
と、思っていたのだが……。
◆
「シュリガンさん、お待たせしました」
私はいつもの場所でお弁当を渡した。
今日のお弁当もすこぶる美味しい。
しかし、この日のシュリガンさんはあまり冴えない表情をしていた。
「どうかしましたか?」
私はシュリガンさんに尋ねた。
「あの、僕の思い過ごしでしたらいいのですが、気になることがありまして……」
そう言うとシュリガンさんは一枚の書類の写しを私に渡した。
私はその書類を見てすぐ目を見開いた。
「まさか……」
その書類に書かれている数字に唖然とした。
こんな、こんなことまでするなんて……!?
「やっぱりその薔薇の数は少なすぎますよね?例年のお茶会と比べてこの注文はおかしいと思いまして……」
その書類に書かれていた数字は、ユリア様のお茶会で飾る予定の青い薔薇の数が実際の半分になっていた。
白い薔薇を青く染めるために、根から吸わせる青い染料は、このお茶会のためだけの特殊な物だ。
花屋がこの染料を注文をして、白い薔薇を青く染め上げ納品されるのだ。
青い薔薇は、六歳のお祝いのお茶会にのみ使われる薔薇なので予備などは作られない。
もうお茶会は明後日だ。明日には総出で飾り付けをしなくてはならない。
「教えてくださり、ありがとうございました」
私は急いでお弁当をしまい、シュリガンさんにお礼を言って、すぐさま三人を呼び出した。
「な、何のことかわからないわ」
「そうよ。私達はちゃんと言われた通りに青い薔薇の注文をしたわ」
「数が違うのはあなたが間違ったんじゃないの!?」
私が書類を見せると、三人は素知らぬ顔をしてしらばっくれた。
しかし、明らかに三人の顔色が悪い。
「ジル様、ジュナ様、ジェシカ様。正直におっしゃってください。このままでは責任を取らされてクビになりますよ」
「クビ!?だって、ロザリー様に確認したらこの数を言われたのよ?」
途端に三人はオロオロと慌てだした。
やっぱり、ロザリー様が絡んでいたようだ。
「私はちゃんと紙に書いた物を渡しましたよね?こちらに確認のサインももらってます」
私はその都度、間違い防止に紙に書いた物を渡し、確認のサインをもらっていた。
「だって、その紙をなくしてしまったのよ」
涙目になってジル様が言った。
そのなくしたというところも、怪しい。
疑いたくはないが、盗まれたのかもしれない。
「忙しくて、薔薇の注文する数をよく覚えていなくて……」
ジュナ様が泣きそうな顔で言った。
注文する数を書いた紙があるから大丈夫だと思ってしまっていたのだろう。
「それで、ロザリー様に確認したらその数を言われたのよ」
ジェシカ様が、途方に暮れたように言った。
私に確認するのは、プライド云々で嫌だったのだろう。きっとそれは、ロザリー様にその行動を読まれていたに違いない。
「とにかく、どうにかしなくてはなりません。今から足りない薔薇をかき集めましょう」
私はバッと地図を開いた。
もう、白い薔薇を集めてこちらで染めるしかない。
「みなさんには花屋を回って白い薔薇を集めていただきます。染料は私が買いに行きます」
「へ、平民の言うことを聞くなんて、私達のプライドが許さないわ」
虚勢を張るようにジル様がキッと私を見た瞬間、私はスンと表情をなくした。
「そんなくだらないプライドを守って、侍女をクビになるのですか?侍女をクビになったのちは、縁談は絶望的でしょう。ミッズリー男爵家としても、無能な娘達を育てたと誹りを受けますね。あなた方は責任を取らされて平民になるか修道院に入れられることでしょう」
私は淡々と未来予測を語った。
このままでは、せっかくの六歳のお祝いのお茶会が台無しだ。
ユリア様の面子も潰してしまう。
三人は、ここで少しでも挽回しておかないと、もっとひどい罰を受けなくてはならないかもしれない。だというのに、プライド云々を言っている場合ではない。
「そ、そんな」
やっと、今のまずい状況が理解できたのだろう。
とうとう、三人は泣き出してしまった。
「泣いている暇はありません。誠心誠意頼むなりなんなりして、さっさと白い薔薇を集めて来なさい!」
「は、はい!」
三人は転がるように駆け出した。
私も、マーバリー様とユリア様、アルマ様に報告に走った。
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