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舞踏会 1

 キャサリン様とサラさんの謎の熱い握手を脇目に、私は鏡に顔を近づけて化粧を施された自分の顔を見た。

 見慣れない自分に、何とも落ち着かない気分だ。


「お嬢様、ガルオス様がお見えです」

「今行きますわ」

 もう、バルドさんがお迎えに来てくれたようだ。

 バルドさんは、この姿をどう思うだろう。

 ドキドキした。

 私達は、玄関ホールに向かった。


「あ、そういえばセシリアさん、そのイヤリングとネックレスはガルオス様からですわ」

「え?」

 私は耳で揺れる青空を雫にしたようなイヤリングと真珠の散りばめられたネックレスを見た。

 こんな高価な物を!?


「多分、第二騎士団のやらかしのお詫びの品だと思いますわ。気にしないで受け取るとよいですわ」

 あ、なるほど。バルドさんも副団長だから大変だ。


 そうして着いた玄関ホールには、騎士団の正装をした見知らぬ男性が立っていた。

 夏の日差しのような濃い金色の前髪を後ろに流し、太く形良い眉に通った鼻筋、精悍な頬に厚めの唇。

 背は高く、広い肩幅に厚い胸板のよく鍛えられた体躯だ。


 普段王城で見かける貴族令息が人の手によって作られた美だとしたら、こちらの男性は大自然のような美だと思った。

 おおらかで雄大なイメージの、美しく整った顔の男性だった。

 青空のような綺麗な瞳に、私は目を惹かれた。

 その男性は私達に気づくと、目を見開いて私を見つめた。


「ああ。嬢ちゃん、すごく……すごく綺麗だな」

 その声はバルドさん!?

「バルドさんですか!?」

「ん?そうだが……ああ、髭がないからか」

 バルドさんは、つるりとした顎を撫でた。


「数年ぶりに剃ったから顎がスースーする」

 そう言ってニカリと青空のような瞳を細めて笑った時、いつものバルドさんと一致した。

 驚いた。あのお髭の下にはこんな美形が隠れていたとは。こう見ると、間違いなく二十代の青年だった。


「じゃあ、嬢ちゃん。行くか」

 バルドさんが、エスコートの腕を差し出した。

 私はおずおずとその腕に手を添えた。


「キャサリン様、ありがとうございました。行ってまいります」

「はうん、尊いですわ〜」

 キャサリン様はクネクネされていたが、彼女の通常なのでサラさんに会釈して私達は馬車に向かった。




 私はガルオス侯爵家の馬車に乗り込み、バルドさんの隣に座って固まっていた。

 だって、バルドさんがまさかこんな美形だなんて思いもしなかったのだ。

 心臓がドキドキ痛い。バルドさんにときめいてしまっているのだろうか。


「嬢ちゃん、ドキドキしてるだろ?」

「何でわかったんですか?」

 そんなに顔に出てしまっていたのだろうか。

 いや、確かに顔が赤いのは自覚している。


「これから舞踏会だもんな。俺もダンスを考えるとドキドキするよ。ほら」

 バルドさんが私の手を取ってその胸に当てた。

 私と同じくらい鼓動が速い。


「同じですね」

「馬車の中、少し暑いな。窓を開けるか」

 そうか。どうやら私は勘違いしていたようだ。

 このドキドキは、これから王城に行く緊張のドキドキだったようだ。


 そして、バルドさんに顔を赤らめているのではなくて暑さのせいだったのだ。

 私は、バルドさんに指摘されて納得した。

 そうだ、バルドさんは私の大事な友達じゃないか。


 思えば、バルドさんはちゃんと私を褒めてくれたのに、私はバルドさんを褒めることもしてない。

 これでは、友達失格だ。


「バルドさんのお髭を剃ったお顔、とても格好いいと思います」

 私はフワリと微笑んで伝えた。


「へ?」

 バルドさんの顔が、ジワジワと赤くなった。

 やはり、馬車の中は暑いようだ。


「こちらの窓も開けますね」

「いや、俺が開ける」

 窓に当てた私の手とバルドさんの手が重なった。

 間近でバチリと目が合う。


「すまん」

「あ、いえ」

 どうもいつもとお互い感じが違うせいか、いつもの調子が出ない。


「そのイヤリングとネックレスも嬢ちゃんにとても似合ってる」

 バルドさんが何気なくイヤリングに触れた。

 カッと顔が赤くなる。


「あの、第二騎士団のやらかしのお詫びの品だと伺いました。大変ですね」

「ん?ああ、そう、そうだ。もらってくれたら嬉しい。嬢ちゃんに似合うと思って選んだんだ」

「……ありがとうございます」

 バルドさんが選んでくれたのだと思うと、どこか心がソワソワと落ち着かない気持ちがした……。

お読みくださり、ありがとうございます。


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