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キャサリンは原石を磨きたい

「セシリアさん!さあさあ、お入りになってですわ」

 キャサリンは、セシリアという原石を前に興奮が止まらなかった。


 あの侍女の二次試験の日、セシリアは娼館から脱出するのに素晴らしい化粧を施されて戻って来た。

 キャサリンは、セシリアの美しさにほらやっぱりと思った。


 前世のキャサリンは、とにかく人が多く、熱気溢れる場所に、コスプレなるものをして訪れていたようだ。なので、化粧の仕方も髪型も、ばっちり記憶に残っていた。

 だから、初めてセシリアを見た時から思っていた。


 この方は原石だと。

 セシリアを見ていると、あまり自分の容姿に自信がない様子に見えた。

 この世界は彫りが深くグラマラスな美形の女性が多い。

 あっさりめの顔立ちに、スレンダーな体つきのセシリアは、この世界の美人の枠からは外れる。


 しかしである!

 間違いなく彼女は、モデル並みのアジアンビューティーだ。

 あの切れ長の濃い紫の瞳はめっちゃいい。クールだ。


 鼻筋だって通っているし、肌が白くて透明感が半端ない。

 セシリアは、そばかすがあるのを気にしているが、そんなものはいくらでも化粧で隠せる。


 唇も薄いけど、形が綺麗だ。口紅をしっかりのせて強調したらドキドキの魅惑の唇になるに違いない。

 胸は小さめだけど、キャサリンは形よいことを着替えの時に盗み見て知っていた。

 腰なんか折れそうなほど細くて、そこから腰のラインが撫でてみたくなるほどいい。


 そんなクール系の見た目からの、マーバリー先生と作り上げたあの無垢な笑顔。このギャップ、素晴らしいの一言だ。


「キャサリン様、今日はお世話になります」

「はい!お任せですわ〜!」

 キャサリンは、舐めるようにセシリアの全身を上から下まで見た。


「サラ、セシリアさんをまず薔薇風呂に入れて、それからオイルマッサージ。しっかり下準備をするのですわ」

「かしこまりました」

 キャサリンは、小さな頃から仕えている侍女のサラに指示を出した。


 サラは、キャサリンが前世を思い出す前の、何にも考えずにいた頃からしっかり仕えてくれた三十代のベテランだ。

 任せておけば最高の状態で、キャサリンの元に届けてくれるだろう。


 キャサリンは、エリザベートから届けられたセシリアのドレスを見て目を輝かせた。

(さすがはリズ様ですわ!)


 白に近いクリーム色のドレスに、銀糸で繊細な刺繍がしてある。

 形もふんわり腰からふくらむものではなくマーメイドラインのドレスだ。

 これはセシリアのスレンダーな体型に間違いなく似合う。


 今度は、イヤリングとネックレスのケースを開ける。

 セシリアはアクセサリー類は持っていないと言っていたので、キャサリンの物を貸すつもりだったのだが、バルドからイヤリングとネックレスが届いた。


 第二騎士団は、レイモンドの阿呆のせいでニルスなんて使えないどころか迷惑千万の護衛をつけたので、多分そのお詫びの品だろう。


 透明度のある青空のようなサファイアのイヤリングに、真珠と金の鎖を組み合わせたネックレスだ。

 華やかな薔薇というより、淑やかな百合を思わせるセシリアによく合いそうな装飾品だった。


 そうして半日以上かけて磨き上げられ、若干ぐったりしたセシリアがキャサリンの前に連れて来られた。


 肌、よし。赤ちゃんの肌のようにきめ細かくて白い。そばかすも可愛らしいと思うのだが、気にされている様子だからそばかすは消してしまおう。

 オイルマッサージの効果で腰はなお細く、お尻は上向き。絞って絞ってこのラインの美しさを強調せねば。


 見れば見るほど原石だ。

 これからキャサリンの手によって磨き上げて、極上の宝石にするのだと思うと知らずと顔が緩む。


「お嬢様、お顔がやばいです」

 サラにこそっと耳打ちされて、キャサリンはハッと顔を引き締めた。

「あの、キャサリン様?」

 セシリアも、やや顔が引き攣って心配そうだ。


「大丈夫ですわ。私に全て、そう、全てを任せてくださいませ」

 キャサリンは手をワキワキさせた。

 セシリアは心配げにサラを見たが、彼女が頷いたのを見て、覚悟を決めたようにキャサリンに頭を下げた。


「よろしくお願いします」

「お任せですわ〜」

 そうして、キャサリンはセシリアの華奢な腰をさらにコルセットで締め上げた。


「キャ、キャサリン様。も、もうこれ以上は内臓が口から出てしまいます」

「あと二センチいけますわ。サラ、いきますわよ」

「はい!」

「ヒィ〜」

 哀れなセシリアの悲鳴が部屋に響くが、美のための試練だ。仕方がない。


 締め上げたあとは、苦しくないように調整していく。

「どうですか?セシリアさん」

「はい。大丈夫です。苦しくないです」

 よし。


 次にお化粧だ。

 キャサリンは、セシリアの眼鏡を外した。

 眼鏡がないとぼんやりとしか見えないらしいが、今日は眼鏡を外してもらおう。

 肌に触れると吸いつくようだった。


「あの、お化粧は教わりましたので自分でやります」

 セシリアが遠慮して言ったが、もちろん丁重に却下である。


 キャサリンは、そばかすだけ下地で消して、あとはごく薄く白粉をはたいた。

 それだけで、さらに透明感が増す。

 後ろでサラが髪を結い始める。

 この強いうねりのある癖毛を最大限活かすように言ってある。

 こちらはサラに任せておけば大丈夫だろう。


 眉の形を整えてから、眉を描き足していく。

 それから、アイメイク。

 これが肝心だ。

 アイラインは太めにきっちりと。


 おお、原石から宝石の片鱗が見え始めた。

 目尻にゴールド系のアイシャドウ差していく。

 単品で見ると派手なゴールド系のアイシャドウもセシリアの目尻に差すとスッと馴染む。


 いい!

 鼻筋をサッとブラシで撫でて、ワントーン明るい白粉をつけると顔立ちにメリハリが出た。


(やばいですわ!私は天才かもしれないですわ)

 そして最後に椿のような紅い口紅を塗る。

 髪を結い終わったサラが、宝石をセシリアにつけた。


 キャサリンとサラは、その出来栄えにプルプルと震えた。

 強いうねりを活かして、片側に髪を流してある。白く華奢な首に艶やかな焦茶色の後れ毛が何ともいえず艶かしい。

 キャサリンの渾身のお化粧は、余すことなくセシリアをアジアンビューティーに押し上げていた。

 切れ長の濃い紫の瞳は涼やかで凛として美しい。


 そして、そのプロポーション!

 細い!嫋やかで腰からお尻、太もものラインが絶品だ。

 エリザベートから贈られた白に近いクリーム色のドレスは、楚々として品がよく、セシリアにとても似合っていた。

 止めとばかりに恥ずかしそうに頬を赤らめるセシリアに、キャサリンとサラはハートを撃ち抜かれた。


「お嬢様……」

「サラ……」

 キャサリンとサラは、がっちりと握手をした!

ご感想をありがとうございます!

大切に読ませていただいています。

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