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美味しい手料理

 目が覚めて、私は見慣れない部屋に目をパチクリさせた。

 ゆっくり体を起こすと、少しくらりとしたが大丈夫そうだ。

 カーテンの隙間から外を見ると、もう夕方のようだ。


「嬢ちゃん?目が覚めたか?」

「え?バルドさん?」

 バルドさんが私のおでこにおでこを当てた。


「うん。熱は大丈夫だな」

 眼鏡がなくても見えるくらい、バルドさんの綺麗な青い瞳が近い。

 スッと離れると、安心したようにバルドさんが息を吐いた。


「すみません。状況がよく理解できないのですが、ここはどこですか?」

「ここは俺の部屋だ」


 バルドさんの!?

 キョロキョロと部屋を見回すと、無駄なくきちんと片付けられたシンプルな部屋だった。


「嬢ちゃん、倒れたんだ」

「あ……」

 私はやっと、グルグルと眩暈がして意識を失ったことを思い出す。


「王城の医務官に見せたら、過労と栄養失調のせいだって言われた。嬢ちゃん、ちゃんと食ってなかったのか?」

「う……それが――」

 私は仕方なく事情を話した。

「はあ!?昼はダンスの自主練で、朝夜は料理する時間がもったいないからパンかバナナ!?」

「はい……」


 バルドさんは絶句し、ガクリと肩を落とした。

「嬢ちゃん、お願いだ。ちゃんと三食しっかり食べてくれ。俺の寿命が縮むから、本当に頼む」

 バルドさんが真剣な顔で言った。

 寿命が縮むなんて大変だ。


「わかりました。約束します」

 私も真剣な顔で返事をした。

 ダンスのことで焦り過ぎてしまった。

 本当に反省だ。

 体が丈夫だからと過信していた。


「じゃあ、嬢ちゃんの部屋に送るから。鍵いいか?」

 私はバルドさんから、私のカバンを渡された。

「すぐ隣なので、大丈夫ですよ」

「嬢ちゃん……。俺のためを思うなら、頼ってくれ」

 バルドさんが、少し見ない間にやつれた気がするのは気のせいだろうか。

 ここは素直に甘えるべきだろう。


「はい。お願いします」

「うん」

 やっと安心したようにバルドさんが笑った。

 そして、ヒョイッと私を抱き上げた。


「ヒャア!?バ、バルドさん!?歩けますよ、私」

 これは女子が憧れるお姫様抱っこというやつじゃないか?


「今日は安静な」

 バルドさんは、そのまま私をお姫様抱っこで運んだ。

 自分のベッドに寝かされると、私はまたうつらうつらと眠気が襲ってきた。

 しかし、ぼんやりした頭の中で、鍵を閉めなくてはと起き上がりかけたところを、バルドさんがそっとまた私を横にした。


「まだ、俺がいるから寝てろ」

 バルドさんがゆっくり頭を撫でた。

 その大きな手が気持ちよくて、私はそのまま目を閉じ眠っていた。



 

 どれくらい寝ただろう?外はすっかり暗く、カーテンの隙間から星が見える。

 美味しそうないい匂いがしていて、お腹が小さくクゥ〜と鳴った。


「お、嬢ちゃん。目が覚めたか」

 バルドさんが、キッチンからひょっこり顔を出した。

 ずっといてくれたようだ。


「はい。何やらとてもいい匂いがしますね」

「ちょうどできたところだ」

 そう言ってまたヒョイッと私を抱き上げて、テーブルまで運んだ。

 その間もいい匂いにお腹がなりっぱなしだ。


「……すみません」

 私は恥ずかしくて顔が熱い。

「気にするな」

 バルドさんが、ニカリと笑って私を椅子に下ろした。


 テーブルには温サラダに野菜たっぷりのミルクスープ、鶏肉のソテーやパンが載っていた。

 すごく美味しそうだ。よだれが垂れそうだ。


「じゃあ、食べるか。いただきます」

 バルドさんが、きちんと手を合わせて挨拶して食べ始めた。

「いただきます」

 私も手を合わせて挨拶して、まずはスープを食べた。


 カッと目を見開いた。

 私は無言でスープを食べる。

 ハッと気づいた時にはもうお皿は空っぽだった。


「おかわりするか?」

「はい。お願いします」

 私はあっという間に食べてしまったのが恥ずかしくて、おずおずとお皿を渡した。


「ほい、どうぞ」

「ありがとうございます。あの、バルドさん」

 ん?とバルドさんが私を見た。

 私は素直な気持ちをバルドさんに伝えたいと思った。


 バルドさんのその青い瞳を熱く見つめた。

 彼も私を見つめた。

 部屋に静かな時間が流れる。

 私は言った。


「バルドさん……お母さんみたいです」

「うん……ありがとう。うん、そっか、俺、お父さんに加えてお母さんかぁ……」

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