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二次試験 4

「ラウンドア子爵、申してみよ」

 王太后殿下が、ニヤリと笑って先を促した。

 やはり、ラウンドア様のお父様のようだ。


「平民であるその女が、最初の試験で茶葉を当てたのは不正があったからです」

「ほう?どんな?」

 ラウンドア子爵は、片方の口角をニヤリと上げた。


「その平民の父親は、この王城と取り引きのあるルパート商会の会長です。その男は、そこの平民が侍女試験を受けることになってから、王城に来るたびにコソコソと怪しい動きをしていたそうです。きっと、試験問題を探り、娘に話したのでしょう。息子のニルスからも、頻繁に父親と会っていたと報告がございました」


 でっちあげだ。

 私は父さんに会ったりしていない。

 でも、父さんが王城と取り引きしているのは本当のことだ。

 私が不正していないと証明することは難しい。


「ドュークリフ」

 エリザベート王太子妃殿下が、ドュークリフ様に目配せした。

「はい、エリザベート王太子妃殿下。では、私から。第二騎士団副団長バルド・ガルオス。説明を」

「はっ。証人を前へ」

 バルドさんの命令に、騎士が一人の男性を前に連れて来た。


 私は、その男性を見て目を丸くした。

 何で!?

「バルド。その男は?」

「この男は、今話に出たセシリア嬢の父、ルパート商会の会長ゴードスです」

 そこには、きちんと髪を整え、上質なスーツを着た父さんがいた。


「ご紹介に与りましたルパート商会、会長ゴードスです。そこの娘の父親でございます」

 父さんが、商人モードで愛想良く丁寧にお辞儀した。


「ゴードス殿は王城と取り引きしているか?」

 ラウンドア子爵が、ニヤリと笑って尋ねた。

「いいえ。取り引きしておりません」

 父さん!?なんで嘘を?


「嘘をつくな!」

 ラウンドア子爵が、声を荒げた。

「では、お調べになってください」

 貴族に怒鳴られても、父さんは笑みを崩さない。

 まさに大商人の貫禄だ。

 貴族であるはずのラウンドア子爵の方が小さく見えた。


「私は、娘が侍女試験を受けると知って、すぐに王城との一切の取り引きを辞退しております。このように、娘が疑われるのは本意ではございませんので」

 私は目を丸くして父さんを見た。


 それはここにいるみんなも一緒だった。

 だって商会にとって王城と取り引きがあることは、何よりの名誉だ。

 どの商会だって、その地位を狙っている。

 王城と取り引きがあるのとないのとでは信頼度も違い、取り引きできる数も相手も変わってくる。


「う、嘘だ……。わざわざ名誉ある王城との取り引きを辞退するなど……」

「本当でございます。ですので、私の娘は、不正などしておりません」

 にこやかな笑みを貼り付け、父さんはその目をギラリと強めた。

「ヒッ」

 ラウンドア子爵が、父さんの圧に小さく悲鳴をあげた。


 そんなラウンドア子爵を尻目に、今度はバルドさんが声をあげた。

「私からも申したきことがあります」

「許す」

 エリザベート王太子妃殿下が、ニヤリと頷いた。


「お恥ずかしいことに、我が隊からつけたニルス・ラウンドアですが、セシリア嬢の護衛を全くしていないことが、調査で判明しました」

 バルドさんが、王妃殿下達に報告書を渡した。


「これをお読みになってわかるように、先程のラウンドア子爵の発言にあった、ご子息からの報告は全く信頼性はございません」


「なんと、ニルス・ラウンドアは護衛対象をおいてさっさと帰っていたのか?しかも、理由は早く帰りたいから?なんの冗談だ?」

 エリザベート王太子妃殿下が、そんなに大きな声を出している風ではないのに、腹からの発声でその声は会場の隅々までよく響いた。


 会場中の貴族達の、ラウンドア子爵を見る目が冷たい。

 さらにドュークリフが続く。


「先刻、王城の侍女試験を受けるセシリア嬢を誘拐するという事件が発生いたしました。幸い、第二騎士団副団長を中心とした騎士達により、すぐにセシリア嬢は救出され、実行犯達も捕えております。しかし、確保した男の供述により、セシリア嬢の護衛騎士であるニルス・ラウンドア子爵令息に犯罪幇助罪及び、主犯格の嫌疑もかかっております」

 ドュークリフ様の言葉に、貴族至上主義の貴族達の顔色が揃って青くなった。


「なんと!この試験会場に来る前に、そんな目に遭っていたのか!?護衛騎士であるニルス・ラウンドアが!?なんてことだ!ニルス・ラウンドア!」


 エリザベート王太子妃殿下は、一応まだ嫌疑のはずのラウンドア様をうまくあいつが悪い!という風に嘆き、しかも、二回も名前を出して印象を強くした。


「はい。第二騎士団副団長ガルオス様をはじめ、第二騎士団のみなさまのお陰で助かることができました。私もまさか、ニルス・ラウンドア様が……」

 私もまたラウンドア様の名前を出しておく。名前のあとには、思わせぶりに悲痛な沈黙をつける。


 ラウンドア子爵は「い、いや、それは何かの間違い……」と言い訳をしようとするが何も言葉が続かず、王太后殿下に助けを求めるように見た。

「…………」

 王太后殿下は黙りこみ、ドマネス様の時と同様にラウンドア子爵の視線も扇子で遮った。


「王太后殿下。ドマネス伯爵夫人といいラウンドア子爵令息といい、セシリア嬢にあまりにも不利な者ばかりがつけられているようです。私はこの二人をセシリア嬢につけた第二騎士団団長レイモンド・カルサンスと侍女長ハヌス・ダフロネの資質を問うべきかと思いますが、いかがでしょう?」

 エリザベート王太子妃殿下が、有無をいわさない笑顔で王太后殿下に許可を求めた。


「……そうじゃの。好きにせよ」

 そして、この大勢の貴族の視線を前に王太后殿下が否と言えるわけもなく渋い顔で頷いた。


「改めて、侍女試験合格者。ケイシー・ナラバス伯爵令嬢。セシリア嬢。以上二名」

 やっと一連の騒動が一段落して、試験官が合格者を宣言した。


 こうして、侍女の二次試験は無事終了となったのだった。

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