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二次試験 3

 さあ、これが最後の試験だ。


 これから淹れる紅茶は、王妃殿下と十二歳のユリア王女殿下のための紅茶だ。

 ユリア王女殿下は、ヘーゼルナッツ色の瞳に真っ直ぐな亜麻色の髪の大人しい雰囲気の女の子だった。


 ナラバス様はもう用意してほしいものを書き出して準備を整えている。

 さて、どんな紅茶がよいだろう。


 王妃殿下の好まれる紅茶はリラックス効果のある花の香りの紅茶、美容に関心が高い、揉め事はお嫌い、ユリア王女殿下は渋みのある紅茶は苦手、可愛らしい物がお好き……。私はメイド仕事で耳にした噂話を一つ一つ思い出していく。


 そうだ!

 思いついた紅茶に必要なものを書き出していく。

 先に準備が整ったナラバス様が、紅茶を淹れ始める。

 さすが伯爵令嬢だけあって、とても手際よく淹れていく。


 そして、お二人の前にスッと美しい所作で綺麗な花模様のティーカップを置いた。

 王妃殿下はその様子に感心したように微笑み、カップに口をつけた。


「とてもよい花の香りの紅茶ね。なぜこの紅茶を?」

「はい。王妃殿下は花の香りの紅茶を好まれるとお聞きいたしました。そのため、花の香りの芳しいキンリョク花の紅茶を選びました」


「香りもとてもよく出ているわ。ユリアはどうかしら?」

「はい、お母様。とても香りもよく飲みやすい紅茶だと思います」

「ありがとうございます」

 これは得点も高そうだ。


「次セシリア嬢」

「はい」

 私は選んだ紅茶をティーポットに入れ、お湯を勢いよく注ぎティーポットカバーを被せ砂時計をセットした。


 その様子を見ていたナラバス様がフッと笑った。

 私は、温めてもらったミルクを小鍋からボウルに移して茶筅で空気を含ませるように泡立てていく。

 砂時計が落ち切ったのを見て、カップの三分の一ほどに紅茶を注ぐと、きめ細かく泡立てたミルクをゆっくりと注ぎ白い土台を作った。


 ユリア王女殿下が目をキラキラさせて、私の手元を見つめた。

 私は竹串の先に溶かしたチョコをつけてちょんちょんと動かしていく。

 王妃殿下も興味津々で私の手元を見つめた。


「あ!」

 思わずと言った小さな声をあげたユリア王女殿下は、慌てて口を覆ったが、その口元は嬉しそうにムズムズ動いていた。

 私はニコリと微笑み、お二人の前にミルクの泡の上に描いた絵がよく見えるようにティーカップを置いた。


「お母様、猫ちゃんですわ。あ、お母様のは薔薇ですのね。素敵!」

 ユリア王女殿下はパァッと笑顔を浮かべた。


「ええ、ユリア。とても素敵ね。セシリア嬢、この紅茶を説明して」

「はい。こちらはアッサムルの紅茶のラテアートと申します。絵を楽しんだあとは、スプーンで混ぜてお召し上がりくださいませ」


 ユリア王女殿下はそうっとクルクルとかき混ぜ一口コクリと飲んだ。

「甘くて美味しいわ」


「このミルクには砂糖も混ぜてございます。ミルクには王女殿下の成長に必要な栄養もあり、又、このアッサムルには若さを保つ、疲労回復、集中力のアップなどの効果もあるそうです」

「まあ!若さを保つなんて素晴らしいわ」


「何と!妾にも!」

 王太后殿下まで食いついてきた。

 ハッと我に返り咳払いして誤魔化すのを、周りはそっと目を逸らして見ないふりをした。


「ゴホン。それだけではないわね?ユリアは猫舌なのに飲みやすい温度だったわ」

 王妃殿下が何事もなかったように続けた。


「はい。ミルクは六十度ほどの温度で、ミルクの上の絵を楽しんだあと紅茶と混ざるとちょうどよい温度になります」

「素晴らしいわ。見た目も楽しく、効能もよく、とても気に入りました」


「私もこの紅茶がとても気に入りました」

「ありがとうございます」

 私は、礼儀作法で教わった通りにお辞儀をした。


「では、点数をつけましょう」

 王妃殿下はユリア王女殿下と相談して紙にサラサラと点数を書いて進行の方に渡した。

 私は満点の五点を取らないと不合格だ。

 ドキドキとその点数の発表待った。


「発表いたします。ナラバス伯爵令嬢、四点。はじめの試験と合わせて八点です」

 高い得点だが、ナラバス様としては満点がほしかったのだろう。悔しげに顔を歪めた。


「次にセシリア嬢、五点。はじめの試験と合わせて八点です」

 八点……!

 よかった、まずは一安心だ、

 そう安堵した時、ナラバス様が手を挙げた。


「王妃殿下、発言よろしいでしょうか?」

 ナラバス様は一瞬私をきつく睨んだあと、微笑みを浮かべた。

「許します」

 王妃殿下が頷いた。


「ありがとうございます。アッサムルの茶葉の量が多かったように思います。適正の量でしたら、もっと美味しく淹れられたのではと愚考いたします。それで満点とは疑問に感じます」

 私が紅茶を淹れていた時、ナラバス様が笑っていたのは、私が失敗したと思ったからだろう。


「セシリア。ナラバス伯爵令嬢はこう言ってますが?」

「はい。確かにアッサムルを紅茶として楽しむのでしたら、ナラバス様がおっしゃる通りです。しかし、これはラテアートの紅茶です。わざと少し濃い目に淹れた方がミルクの味に負けずに美味しくなります」

 ユリア王女殿下が、ニコリと微笑んで頷いた。


「ええ。とても美味しかったわ。セシリアの紅茶は目でも楽しむことができ、私のことも考えてくれた紅茶だと思いました。ナラバス伯爵令嬢の紅茶は確かに香りよく美味しかったのですが、あまり私のことは考えられていないように感じました。この試験のテーマは、お母様と私が楽しめるお茶会です。それを踏まえて点数をつけました」


「……はい。失礼いたしました」

 悔しそうにナラバス様が唇を噛んだ。

 あとは、王太后殿下の礼儀作法の点数だ。


「では、王太后殿下。採点をお願いいたします」

 試験官が王太后殿下に声をかけた。

「うむ。ナラバス伯爵令嬢、十点満点だ」

「ありがとうございます」

 ナラバス様が嬉しそうに微笑んだ。


 そして、王太后殿下が意地悪く笑い、口を開きかけた時、エリザベート王太子妃殿下がにこやかに言った。

「王太后殿下は間違うことのないお方だ。はじめに平民であるセシリア嬢のことも、公平な目で見てお褒めくださったからな」

 王太后殿下が、開けかけた口を閉じた。


 もし、王太后殿下が私に低い点数をつければ、それははじめに私を褒めた王太后殿下が間違えたということになってしまう。

 王太后殿下はグヌグヌと唸り、押し黙った。

 しかし、王太后殿下の取り巻きのうちの一人が王太后殿下に耳打ちするとニンマリと笑った。


「セシリア嬢、八点じゃ」

 実に機嫌よく微笑まれた。

「ありがとうございます」

 私も微笑んだが、何かがありそうだ。


「これで侍女試験を終了――」

「お待ちください。私から申し上げたきことがございます」

 試験官の言葉を遮り、先程王太后殿下に耳打ちした男が声をあげた。


 小太りで、赤茶色の毛量の少なめの髪のその男はラウンドア様によく似た容姿をしていた。

誤字脱字のご報告、ありがとうございます!

ありがたく訂正させていただいております。

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