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二次試験 2 

「開始!」

 合図に、私は缶の蓋を開けた。

 その拍子にツンとするきつい匂いが鼻を刺激した。

 これは茶葉の匂いではない……?


 私は、次の缶の蓋を開けて匂いを嗅いでいった。

 だが、おかしい。

 匂いが全くしないのだ。

 そして、ハッと気づいた。


 さっきの刺激臭のせいだ。薬か何かが塗られていたのだ。

 もしも今騒いだとしても、きっと私が何の茶葉かわからないから言いががりをつけたと言われるだけだろう


 王太后殿下とその取り巻きが、私の動きが止まっているのを見てニヤリと笑った。

 まだ、こんなことを仕掛けてくるとは……。

 私は動揺していることが伝わらないように、微笑みを作った。


 しかし、その内心は焦りと動揺でどうしようもなく揺れた。

 匂いがわからないで茶葉を当てるなんて、私にできるだろうか。

 みんなは、すぐに答えを紙に書き始めている。


「これほど香り高い茶葉なのに、わからないなんて信じられませんわ」

 隣の令嬢が馬鹿にしたように言った。


 こんなことで諦めたくない。

 ふと顔を上げると、バルドさんと目が合った。

 その青空のような瞳は真っ直ぐに私を見つめ、グッと拳を小さく握った。まるで、がんばれと言われたように感じた。


 私はホッと息を吐いて、目を閉じた。

 そして、目を開けた時には周りの音は何も聞こえなかった。

 私は茶葉を手のひらに出した。

 その茶葉の形と色をよく見て、指先でその感触を確かめる。

 私は、次々にその感触と形、色で茶葉を判断していく。

 大丈夫。私ならできる。


「そこまで!」

 試験官の終了の合図と同時に、解答を書き終える。

 途端に周りのざわめく音が聞こえた。

 私は、大きく息を吐いた。

 

「解答用紙に書いた答えを、言ってください」

「まず一番の茶葉」

 順番に答えていく中で、私だけ違う答えだった。


「セシリア嬢以外、正解」

 最後まで迷った、もう一つの方の茶葉だったようだ。

 そして、次の二番の茶葉は二人の方が正解し、私はまた外してしまった。


「ホホホ、平民にはちと難しかったようじゃの」

 王太后殿下と取り巻きの貴族達が、機嫌よさげに笑った。

 これでもうあとがない。


「次、三番の茶葉」

 今度は一番右端の令嬢以外、同じ答えだった。

 私は祈るような心地で答えを待った。


「ノルドー子爵令嬢以外、正解」

「な!?」

 また王太后殿下の取り巻き達がざわめいた。

 まさか匂いのわからない私が当てるとは思わなかったのだろう。


「次、四番の茶葉」

 次は私と先程嫌味を言った令嬢が同じで、他のお二人はそれぞれ違う茶葉を答えた。


「ナラバス伯爵令嬢とセシリア嬢、正解」

 私はホッと息を吐いた。

 そして最後の一つ。

「それでは最後の五番の茶葉」

 みんなは、ディルグルと答えた。

 私だけが解答用紙に書いた答えと違っていた。

 間違えてしまったのだろうか。 


「次、セシリア嬢」

「はい。アナンでございます」

 私は耳のそばで聞こえるような鼓動に、知らずに手を握り締めていた。


「セシリア嬢だけ、正解」

 試験官が静かに言った。

 私は、呆けたように試験官を見つめその言葉を反芻した。


 あ、当たった?

 三つちゃんと当たった?

 私はキャサリン様とマーバリー先生を見ると、二人は私に向け手が痛くなるほどの拍手をしていた。


「見事だね、セシリア。なぜアナンだとわかった?」

 エリザベート王太子妃殿下が、興味深げに尋ねた。


「畏れながら申し上げます。アナンとディルグルの茶葉は確か形、色、匂いがよく似ております」

 私は背筋をスッと伸ばした。


「しかし、触った感触が全く違います。ニツホルス国の茶葉は、独特の干し方をしているので少し柔らかいのです」

 エリザベート王太子妃殿下が、満足そうに頷いた。


「ケイシー・ナラバス伯爵令嬢四点、セシリア嬢三点で次の試験へ。他のみなさんは残念ながら三点未満なので退場となります」

 ギリギリだが、何とか残ることができた。

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