ニルス・ラウンドアの誤算
いよいよ始まる侍女の二次試験に、王城の広間には大勢の人が集まりざわめいていた。
ステージ上には、侍女試験を受けるメイド服を着た令嬢が、四人並んで美しい立ち姿で立っている。
そして、ステージの下の椅子には、試験を受けるメイド達の関係者や、見学に来た貴族達、その真ん中の最前列は、王太后殿下、王妃殿下、ユリア王女殿下、エリザベート王太子妃殿下が順に座っていた。
セシリアの護衛騎士であるニルスは、会場の後ろから確認するようにステージを見渡した。
セシリアが来ないことはわかっている。自分がこの目で攫われるところを確認した。
しかし、念には念を入れてだ。
(よし。眼鏡はいない)
ニルスは、満足げにニヤニヤと笑った。
無事に娼館に囚われているようだ。
上には、セシリアを家まで迎えに行ったがいなかったと報告してある。
ニルスは、こちらを窺う父親であるラウンドア子爵に自信を持って頷いた。
時間になり、進行の試験官がステージに上がった。
「ただ今より、侍女の二次試験を始めます」
ステージ上の侍女試験を受けるメイド服を着た四人の令嬢達が、揃って美しいカーテシーをとった。
ラウンドア子爵はニルスに頷くと、王太后殿下にそっと耳打ちした。
王太后殿下がニヤリと笑った。
「楽にせよ。みな、美しいカーテシーじゃの。さすがは貴族よの」
白髪の髪を複雑に編み込み結い上げ、その皺を隠すように厚化粧をしたふくよかな王太后殿下が、満足そうにステージ上の面々を見回し褒めた。
「分不相応にもこの試験を受けようとした平民は恐れをなして来なかったようじゃから、妾が代わりの貴族令嬢を推薦しておいてやったぞ?クックックッ」
王太后殿下が、エリザベート王太子妃殿下を見て意地悪く笑った。
「王太后殿下は、みなさんの緊張を解くのに冗談をおっしゃってくださったようだ」
しかし、エリザベート王太子妃殿下はにこやかに言った。
「エリザベート?何を言っているのじゃ?」
思った反応ではなかったので、王太后殿下は怪訝そうにエリザベート王太子妃殿下を見た。
「だって平民の受験者はあそこにいるではありませんか。セシリア嬢、よかったな。お前のカーテシーは貴族に劣らないとお褒めの言葉をいただいたぞ」
「もったいないお言葉でございます」
ステージ上の左端にいた一人の女性が、スッと美しいカーテシーをとり、堂々と背筋を伸ばして立った。
そして、メイド服のエプロンのポケットから眼鏡を出し、スチャッとかけた。
ニルスは驚愕に目を見開いた。
「なっ!?なんでお前がここにいるんだ!?」
セシリアは、ゆったりと微笑んだ。
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