第九話 ヒバゴン
『ヒバゴンが現れた』
「ケンジ、ヒバゴンって!?」
「ああ、タクヤ。日本のどっかの県北でまことしやかに居るとか居ないとか言われている、ツチノコ並みに実在しているか曖昧な存在の、UMAみたいな生き物だ!」
「(どこの県北なんだ……?)……空欄のモンスターはコイツの様だな……」
「……ああ、タクヤ。やるぞ……!」
タクヤとケンジは身構え、戦闘態勢に入る。
『ケンジのターン:戦う、剣の光!!』
「行くぞっ! 光魔法だ!! 様子見で、遠隔攻撃で削っていくぜ!!!!」
ケンジは光の剣をサッと自分の頭上に構える。すると剣は白い光でカッと輝き、その光はヒバゴンに向かっていった。
「ヒバ……? ……!!」
『ヒット! ヒバゴンHP:0/397、ヒバゴンを倒した!』
「え?」
「は?」
「ぬ?」
タクヤのパーティ一同は目が点になっていた。ケンジは顎に手をやり、考える。
「一撃……だったな。そもそもHPが低い……このマップで、だぞ……」
「け……ケンジ……」
「!」
そこでケンジを呼ぶ者が――。タクヤだった。
「思い出したんだ。昔、中学の修学旅行で、恐らくヒバゴンが出るとされている県に行ったのだが、新幹線を降りたら、同じ学校の生徒の中に紛れて190cmくらいの毛むくじゃらなオッサンが佇んでいたんだ」
「……」
「……?」
「ぬら……」
「タクヤ……」
「ああ、ケンジ……」
「そんなウソはいい」
すってーんとタクヤは豪快に頭からズッコケた。続けてケンジはずけずけと言ってくる。
「しかも、その情報知ったところで何になる?」
「ウソじゃねーよ! それと、現実世界でのヒバゴンは、意外と身近に居る何の変哲もないヤツかも知れねえってコトだよ!!」
「その説明の感想を言ってやろう。“どーでもいい”」
「何でお前は年下のくせに、そうずけずけと傷付く言葉をぶつけてくるんだー!?」
タクヤは涙目になって言うのだった。
――、
「じゃあ、スモールフットはまだ見つけてないが、この辺で解散しよう、タクヤ」
「そうだなケンジ。結構時間経ってるから、夜遅くなってるかもな。解散しよう」
「ぬらら……」
「……」
「……」
ダイスライムが鳴き声を上げ、タクヤとケンジの二人は無言で目を合わせた。次いで、口を開いたのはタクヤだった。
「なあケンジ、コイツはここ、雪山で解散したらどうなる?」
「ああ、そうすると、他のモンスターにやられる形で、牧場からも消えちまう」
「……」
「……」
二人はまた、無言になった。
「じゃあ、始まりの村に連れて帰ってから解散にするか……?」
「あ……、ああタクヤ。そうしよう」
二人と1匹は始まりの村に一旦帰ってから解散した。
――、
ゴトンと、装着していたVRゴーグルをタクヤは外した。ふと、時計を確認する。
「21時か……。4時間くらいやってたのか……」
「グギュー」
「!」
お腹が鳴り、タクヤは不意にお腹が空いていたことに気付いた。
「晩ご飯、まだだったな――」
ゆっくりと階段を降りる。すると、一階から母の呼び声が聞こえてきた。
「タクヤー! やっと終わったの!? ご飯冷めちゃってるわよー。早く食べなさーい!」
「はーい、かーさん。今すぐ行くー」
その言葉の割には、タクヤはゆっくりと食事を摂るスペースの和室へと足を運んだ。母はお米をよそいながら、タクヤに話し掛ける。
「まーた始めちゃったの? あのゲーム……。暫くバイトに集中してたから安心していたのに……」
「言ったろ、かーさん。全クリするまでプレイするって……いただきます! ほれい、あららひぃらあらあれひらうら」
「何言ってるか分かんないわよ。口に入れたものを食べてから話しなさい」
ゴクンと、タクヤは食べ物を飲み込んでから、口を開いた。
「続きな、それに、新しい仲間ができたんだ。ケンジって言って――」
タクヤは話した。
ケンジは年下の大学生であること、
結構暇人なこと、
口が悪くて少し生意気なこと――、
タクヤは食事を終え、風呂に入っていた。
「仲間……仲間ねぇ……。タケヒコ、ノノ、セルジュ……。あいつら、何やってるかな」
風呂から出たら、タクヤはすぐに眠りについた。