第七話 新マップ・雪山
「なー、ケンジぃ。大学って暇なんだろ? 俺行ってないから分かんないけど」
「だったらどうした? この大学も行けない能無しが」
ここは、始まりの村のとある居酒屋――、
タクヤとケンジの二人は、サラダなどの軽い食事を摂っていた。
「なっ、高校球児だったから、勉強する時間なかったんだよ」
「全国の高校球児、全員が全員、そんな言い訳なんか言ってないだろ?」
「ギクゥッ!(コイツ……年下なのに俺の心の一番弱いとこを突いてきやがる……)」
「で、暇だったらどうした?」
「あっ、そうそう。このゲーム始めて結構時間過ぎたけど、まだやれるかなーっと思って」
ケンジは頼んであった机に置いてある飲み物をぐっと飲みこんだ後、口を開いた。
「まあ確かに、時間はあるな。暇つぶし程度に付き合ってやる」
「さっすがケンジ! 愛してるぜぇー」
ケンジに抱き着こうとするタクヤを右手で押さえつけながら、ケンジは言った。
「キモチワルイわ。ただし、一つ条件。あと1マップか、1クエストな。それ以上はさすがに疲れる」
「いいぜ、何事もやり過ぎは良くないからな。じゃあ1マップ! 冬を感じられるマップがあれば行ってみたいぜ」
「じゃあ『雪山』かな?」
タクヤはケンジの一言に目を丸くし、食いついてきた。
「ゆきやまぁぁああ!? なんだそれ!? 確かマップは、
『草原』、
『深き緑の森』、
『底なしの沼地』、
『神殿』、
『サバサバ砂漠』、
『市街地』、
『水の都』、
『火山』、
『ゼトの城跡』
の、9つのハズだろ!?」
「ふっふっふ、聞いて驚け、タクヤ。最近、パッチ当てがおこなわれて、新たにマップが追加されたんだ。現実世界と並行して世界観を広げるために、『冬』関連のマップが主らしいぞ」
「ホントかぁ、ケンジ!? ナイス、ゲーム製作会社!! 暑苦しいマップが多かったからな、寒いくらいの体感のマップもプレイしてみたいと思っていたところだぜぇ!! 早速行こう!」
「……せっかちだな」
タクヤ達パーティは早速移動するコトとした。
雪山――、
始まりの村から見て北北西に位置しており、横殴りに降る吹雪が、山々を襲っている。体温を保つには山に点在する洞窟に入り、暖をとる事しかできないほど、気温は低く厳しい寒さがあたりを包んでいた。
「さっ……さっむ」
「……」
「ぬぬぬもぅ……」
タクヤは只々震え、ケンジはだんまり、ダイスライムは不安になる、そんなパーティだった。
「ここまでさみーとは聞いてないぞ、ケンジ!」
「タクヤ! お前が冬を感じられるって言ったからだろ!! 俺に当たるな!!」
「ガルルルル!」
「シャア――――!」
二人は口喧嘩でヒートアップする。一方でダイスライムはその様子を只々見守るしかなかった。
「ぬらぁ……!! ぬら! ぬら!!」
不意に、何かに気が付くダイスライム。タクヤとケンジに対し、必死に声をかける。
「何だ? うるさいぞダイス」
「変な略し方すんな、タクヤ」
「ぬらぁ!!」
『ん?』
あまりにもダイスライムがうるさいので、タクヤとケンジはその鳴き声のする方へ顔を向けた。
すると――、
「ごぉぉおおああぁぁ!!」
『ビッグフットが現れた!!』
「!」
「!!」
「ぬらぁ!!」
三人はビッグフットを確認し、戦闘態勢に入る。
「タクヤ!」
「ああ、ケンジ……」
「俺の足引っ張んなよ……」
ずでーんと、タクヤはズッコケた。
「ケンジぃ!! なんだその発言は!? 『やるぞ!』とか『3ターンで片を付けるぞ』とか『サポートは任せろ』とかねーのかよ!?」
涙目になりながら訴えかけるタクヤに対し、ケンジは勉めて冷静に、冷たく言い放つ。
「ねーよ。つーか何で俺が、お前なんかのサポートに回るんだ? お前よりも強い、この俺が!」
「そこはチームプレーだろーがぁ……同じパーティなんだから」
「知らん、俺は自分のペースで行かせてもらうぜ」
『ケンジのターン:戦う、剣の光!!』
「行くぞっ! 光魔法だ!! 遠隔攻撃で削らせてもらうぜ!!!!」
ケンジは光の剣を頭上に構える。すると剣はカッと輝き、その光はビッグフットを襲った。
「ご……!!」
『ヒット! ビッグフットHP:193/893』
「HP、7割くらい削れたか……おい、任せていいんだな?」
「おうよ! この俺ことタクヤ様に任せんしゃい!!」
『タクヤのターン!!』