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第三十九話 あと二話

「俺としたことが、かーさんの手料理食う夢見てたぜ。でも、あと少しで完食できるとこだったのになー……ん? シャナ、何か顔が赤いぞ。もしかして……」


「え!? なっ、何ですか!?」


「風邪気味なのか? 葛〇湯飲むといいぞ」


「あっ、はは……(良かったー。二人きりで話してたから、なんて気付かれないで……)」


ここで二人の間に、ケンジが割って入る。


「タクヤ、コイツの顔が赤かろうが、風邪気味だろうが、そんなコトは関係ない。問題はお前の行動にある。いくら『ぽっくりさん』が出て来ないからといって、いきなり寝るヤツが……」


(シー!! ケンジ、何か鳴き声が聞こえるぞ!!)


タクヤは顔の前で人差し指を立ててケンジに注意を促す。


「? ……」




『コーン』




(ほら、ケンジ。あっちだ!)


パーティ一行はタクヤの後を追っていった。タクヤが歩いて行ったその先、そこには青白い炎を纏った不気味なキツネがモソモソと蠢いていた。


(なっ!?)


(ぽっくりさん、居ますね)


(フーっはっはっは、俺のコトは『Mr.豪運』と呼んでくれぃ。行くぞ! ドラコ)


(キュウーン!)


タクヤがのっそりとドラゴンの『ドラコ』に乗って、槍を構えた、その瞬間――、




「光の剣……」




「!?」


ケンジが装備していた剣を掲げた。カッと、辺りは明るくなり、そこを明るくした光はぽっくりさんを襲った。


「コーン……」


『ぽっくりさんを倒した! 経験値をもらった!』


敵を倒したのだが、出番を奪われた様な気がしたタクヤは納得が行かず、ケンジに怒鳴り散らした。


「ケンジぃ!! なーんで俺の出番奪って敵を倒してんだ!?」


「フー、タクヤ。いいコトを教えてやる。ぽっくりさんは幽霊属性だから物理攻撃は効かない。そこで光の剣の光魔法を使い、倒してやったんだよ。一撃でな」


「『一撃で』って説明はいらねーだろ! 得意気になりやがって」




「『ステータス差における1ターンキル』……」




シャナが、ボソリと声を漏らした。それを聞いたタクヤは、虚を突かれる。


「あ……」


「シャナ、よく覚えてるじゃねーか。『ステータス差における1ターンキル』要は、自分から見て雑魚なら一瞬で倒せるんだよ」


「そ……そんな設定あった様な……でもケンジ! 次はせめて物理攻撃が効かないとか説明してからにしろよ!!」


「ハイハイ。でもその、『次』は無いかも知れねーぞ?」


「はっ!?」






『おめでとうございます!! モンスター図鑑、完成しました!!』






タクヤ達の目の前が、虹色に輝いて、祝福のファンファーレが鳴り響いた。


「あ……」


「なるほど、こんな演出なのか……。個人的には、装備アイテムをコンプした時の方が好みだな」


唖然としているタクヤに対比して、ケンジは冷静だった。




「やりましたね! 皆さん!!」


「ぬらぁっ!」




シャナとダイスライムは只々、無邪気に喜んでいた。ケンジは溜め息をつき、タクヤに問う。


「フー……。で、この後はどうするよ? り……、リーダー……」


「この後……?」




タクヤは考えもしていなかった。“この後”のコトを――。




「あ……」


そして思い出した。タカヒロやノノ、セルジュ達と一緒に居た、ストーリークリア前の際の、あの寂しさを――。




(回想)


(あ……。クリアしたら、皆もうゲームプレイしてくれないかもしれない……。皆ともう会えないかも知れない……)


(回想終了)




フルフルとタクヤは震えていた。しかし敢えて気丈に振る舞い、心中を悟られまいとしていた。


「け、ケンジ! 今、リーダーつったな? 遂にこの俺をリーダーと認めざるを得ない日が来たってコトか!?」


「なっ!? 調子に乗んな、タクヤ!(リーダーなんて言うんじゃなかった)」


口喧嘩が始まりそうな二人を止める様にシャナが口を開いた。




「あ、あの!!」




「!」


「?」


「ちょっと前に攻略サイトで調べたのですが、初詣イベントが、年明けにあるみたいなので、今度プレイする時は、それに行きませんか」


タクヤとケンジは顔を見合わせた。タクヤは笑顔に、そしてケンジは難しい顔になった。


「じゃあそれに決まりだな! リーダーの俺が決定したんだから、ケンジも行くよな?」


「仕方ねぇな……。行ってやるよ」


「えへへ。楽しみです」


シャナははにかんだ様子だった。




そして――、


年が明け、新しい一年が始まろうとしていた。


『The battle begins on the farm』に、年明け特別イベント用に新設されたステージ、『神社』にタクヤとケンジ、シャナは(ダイスライムはお留守番)集まっていた。



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