第三十七話 タコ入道(にゅうどう)
タクヤとケンジが会話を交わしている最中、浅瀬では――、
「キャッキャッ」
「ヒーン、ヒーン!」
シャナとペガちゃんが水をかけあっている。タクヤとケンジの会話が途切れ、タクヤはシャナ達の声がする方へと顔を向けた。
「キャッキャッ」
(良いもんだなぁ。女の子とビーチ! 最高だぜ!!)
「キャッキャッ」
「ふぁっふぁ」
「ん?」
「キャッキャッ」
「ふぁっふぁ」
「あ!!」
謎のうめき声と共に、沖から『タコ入道』が現れた! タクヤとケンジは戦闘態勢に入り、身構える。
「ケンジ!」
「ああ、タクヤ。タコのバケモンだ。海水に浸っている分、雷属性の攻撃に弱いハズだ……俺に任せろ」
「?」
タクヤはケンジの言葉を聞き、はてな顔になる。二人で攻撃しに行った方が早いのでは? と。そんなタクヤを後目に、ケンジはシャナに指示を出す。
「シャナとやら!! 今すぐ、海から上がれ!」
「あ、はい。ケンジさん! ペガちゃん、飛んで!」
「ヒーン!」
バサっと水着のままではあるが、ペガサスに乗り、シャナは海から上がった。
「行くぞ!! 雷の剣!! はぁぁああああああ!!!!」
ケンジは、海水に『雷の剣』を突き刺した!
「バリバリバリバリ」
海水一面に、雷が走った。
『タコ入道にヒット! 効果は抜群! タコ入道、HP:0/450。タコ入道は倒れた』
「ヒュー。一撃で倒すなんて、さっすが!」
タクヤはケンジの戦いっぷりに感服していた。一方で、ペガサスと一緒に飛んでいたシャナは、飛ばずに海水に浸っていたらどうなっていたかと、怯えていた。
(飛ばなかったら、電撃の餌食に……。でも、ケンジさん、ちゃんと声を掛けてくれた……。私が、感電しない様に……ぽっ)
またいつもの調子に、シャナは頭の中がお花畑になっていた。シャナが視線を送っていた、ケンジはと言うと――、
「はっはっ……MP、結構使ったぞ……さっさと倒せて、ラッキーだったな」
意外と疲れていた。ここでタクヤは、怖いもの見たさに、海水をちょんちょんと、指で触ってみた。
「少しビリっとくるな。ケンジの電力、半端ないな。ん? アレは……」
ここでタクヤは、沖の方を目視した。そこには感電した魚が、何匹も浮いていたのだった。
「おーいケンジ、お前のお陰で魚が取れそうだぞ! 食ってMP回復しようぜ?」
「タクヤさん、お魚料理、作れるんですか?」
シャナも二人の近くまで飛んできて、会話に入ってきた。
「おうよ、シャナ。かーさん直伝の、焼き魚料理を、振る舞うぞ!」
タクヤ達一行は、ビーチの近くの、その辺にあった木々を集めて焚き木をする様だった。
「ケンジ、火」
「タクヤ、お前はただでさえMP不足の俺をまたこき使う気か……?」
ケンジは炎の剣を使い、焚き木に火を点けた。
――、
「パチ……パチ……」
砂浜に燃える焚き木が、静かに音を出していた。タクヤは獲ってきた魚をその火で焼いた。
「そろそろ良いぞ」
タクヤの一声、言った頃に焼き魚が出来上がった。
「……磯の匂いがして、美味しいです」
「……ん、意外といけるな」
シャナとケンジが旨そうに焼き魚を食しているのを見て、タクヤは満足気に、鼻で深く息をしていた。
「そうだろそうだろ? ここで一つ、提案がある!」
「?」
「!」
「あのタコを、一口大に切って、食そうと思う!!!!」
「!?」
「!!」
「どうだ? 良い提案だろう?」
「それは止めておいた方が……」
「お前は馬鹿か?」
タクヤの自信たっぷりの提案だったが、シャナとケンジには無謀なモノに聞こえた。
「絶対旨い! 絶対大丈夫!! じゃあ、お前ら食わないんだな!? 俺一人で全部食っちまうぞ!!」
「……」
「……馬鹿が」
――、
タクヤは、二人の意見も耳にせず、『タコ入道』の足の一部を槍で切り、浜へ運んだ。そして――、
「もう焼けたろ? 食っちまうぞー、俺一人でぇー」
「じゅる……」
ここで『タコ入道』を、もしかしたら美味しいかも知れないと思うものが、もう一人――。
シャナだった。
「あっ、あの! タクヤさん。やっぱり、よろしければ私にも……その……タコを」
「あーん? 仕方ねーな。食べさせてやるよ。ほれ」
「わっ! あ、ありがとうございます。ぱくっ」
モグモグと、タクヤとシャナの二人は『タコ入道』の足の一部を口の中に頬張る。そして、自慢気にケンジを見つめていた。ケンジはイラついて二人に声を飛ばす。
「俺は食わねぇぞ! そんなゲテモノ!!」
タクヤとシャナは『タコ入道』の足をしっかりと味わっていた。
「こーんな旨いモノを、ケンジったら勿体ない」
「程よい弾力性のある歯応え……。最高ですね」
しかし10分後――、
『タクヤとシャナは食中毒にかかった!! タクヤ、HP:0/291。シャナ、HP:0/181。二人は力尽きた!!』
「ぐえぇぇー」
「うえぇぇー」
「バカ共が!!」
ケンジは一人、吠えていた。