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第三十六話 報酬

「しっかしまぁ、タクヤ。お前運だけはいっちょ前だな」


「運だけヤロウみたいな言い方すんなよぉー。ケンジぃー」


始まりの村にて、ケンジとタクヤが会話を交わしている。二人はタクヤの実家(ゲーム内の)の離れに向かっている様だ。


ここで二人の後ろから声を掛けてくる者が――。シャナだった。


「それにしてもタクヤさんは凄いです! あんな一面の積雪地帯から、小さな小さな『銀世界の結晶』を見つけ出すなんて!!」


「ぬらぁっ! ぬらぁっ!」


三人の更に後ろ、最後尾に居たダイスライムもタクヤを称賛している様子だった。タクヤは長っ鼻を伸ばして、自信満々気に言う。


「そうだろ、二人共? 俺様は元来、最強にして最高の豪運を持つプレイヤーとして、この『The battle begins on the farm』を華麗にクリアしてきたんだぜ?」


「それ聞いた限りじゃ運だけヤロウだろ……」


ボソリとケンジが言ったが、その言葉は悦に浸っているタクヤの耳には入らなかった。ここで三人と一匹は進めていた足を止める。




「おっ!」


「ん」


「着きましたね」


「ぬらぁっ!」




一行が辿り着いたのは、タクヤの実家(ゲーム内の)の離れだった。タクヤは、気分良く離れのドアをバァーンと、叩いて中に入っていった。


「じゃあさっそくクエストの報酬、貰おうぜ!!」


一行はクエストの受付嬢に話しかける。


「クエストクリア、おめでとうございます! 今回の報酬はこちらです!」




『タクヤ達は、氷の魔導書を手に入れた!!』




「は?」


「……」


「えっ?」


「ぬらぁ……」




一同、絶句。




まず口を開いたのはタクヤだった。


「あっ、あのー。うちの今のパーティ、魔法使い系居ないんですけど……」


それに対して、受付嬢は笑顔で答える。


「はい! 次のクエストも、頑張ってくださいね!!」




「あのー、今回のクエスト、俺結構頑張ったんですけど……」


「はい! 次のクエストも、頑張ってくださいね!!」


「あのー、使えるレアな武器とかくれませんか?」


「はい! 次のクエストも、頑張ってくださいね!!」




「……皆、こっち来い」


タクヤは一行を離れの隅に呼び込んだ。そして声を大にして言う。






「あの!! ちゃんねー!!!! 同じことしか言わねぇじゃねーか!! どーなってんだ!!? そしてこの報酬!!! 全然うれしくねぇ!!!!」






ケンジはフーと、溜め息をついた。そして両手を軽く上げ、手のひらを見せて言う。


「まあ、RPGのNPCなんて大抵同じことしか言わない。そして、『銀世界』の報酬に、『氷の魔導書』が来たんだから、相場と言えば相場だろ?」


「ガッテ――ム!!!! シャナ、こうなったらお前がジョブチェンジだ!」


「えぇ!? そんな、タクヤさん。私、ペガちゃんと離れ離れになりたくないですぅ」


「! ……。じゃ、じゃあケンジ、お前がジョブチェンジだ!!!!」


「却下」


「何だとぉぉおお!!? 450コインを! そんなにせびっているのかぁ!!!?」


「違う。タクヤ、よく聞け。俺はもう、クラスチェンジ後の魔剣士になっている。知っているかもしれないが、ジョブチェンジは、クラスチェンジ後の役職にはなれない仕組みになっているんだ。だから――、」


「だから!?」


「わざわざ弱くなる、ジョブチェンジはしない」




「ガーン……ガーン……ガーン……」




タクヤの中で何かが砕け散る音が聞こえた。ケンジとシャナは顔を見合わせて、離れの武器・装備屋の方へと向かっていった。そして、『氷の魔導書』を掲げて、言った。




『すいませーん、この魔導書、買ってくれますかー?』




「あいよ。300コインで、な」




「安いなオイ!!」




タクヤは盛大にツッコんだ。




――、


「――で、今度は何で季節を夏に変えさせたんだ?」


ザザーンと、潮の香りが漂う波打ち際でケンジはタクヤに問いただす。どこから持ってきたのか分からない、ビーチパラソルにイス、更にはグラスに入ったスパークリングを片手に、タクヤは言うのだった。


「いやー、現実世界ではもうとっくに冬だろう? だから寒くって寒くて」


「だから何だ?」


「プロ野球選手達みたいに、冬はワイハーでバカンス? みたいな」


「下らん、『カギ』使って冬に戻すぞ?」


「待て! ケンジ……」


「?」


タクヤは声を大にしてケンジを呼び止める。そして右手で浅瀬を指し示した。


「アレを見ても、冬に戻りたいと思うのか……?」


「?」


ケンジは、タクヤが指し示した方向を見る。すると――、


「キャッ! ペガちゃん、冷たいよぉ」


「ヒーン、ヒーン!」


そこには淡い水色のオフショルダービキニを着たシャナと、ペガサスのペガちゃんが水をかけあっている姿があった。


「コレを見ても、下らんと言えるのかね?」


「ああ、下らんな」


ずでっとタクヤはズッコケた。


「お前は、絶食系男子かぁ!?」


「? よく分からんが?」


ケンジは至って冷静だった。

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