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第三十五話 一石二鳥

タクヤは北東へ、


ケンジとダイスライムは真北へ、


そしてシャナは北西へと、


それぞれが『銀世界の結晶』を探して進んでいる。一面の銀世界に、眼を開き切れないシャナは、片手で目前に光る太陽を隠していた。そこへ――、




「シャンシャン!」




不意に、いつしか聞いた、鈴の音が聞こえた。


「まさか……! さっきの……!?」


シャナは思わずゾッとした。




(回想)


「ふぉっふぉっふぉ」


老人は笑いながら白い袋を空から投げてきた。


「あっ! プレゼントぉー!!」


「やったー!」


タクヤとシャナが白い袋に近付き、喜びを顕にした瞬間――、




「ボッガァァアアン!!!!」




袋は大爆発を起こした。


(回想終了)




悪い予感は的中。上空に、サンダクロウズが居り、トナカイの引くソリに乗っていた。サーっと血の気が引いていくシャナ。涙目で思いを巡らせる。


(さっきの、悪魔の様な所業を繰り返すのですかぁ!?)


シャナはピューと急ぎ足でペガサスを走らせ、ケンジとダイスライムが居る場所へ向かった。




――、


「ん?」


ケンジがふと、顔を上げると上空にはシャナがこちらへ向かって来ていた。


「どうした、シャナとやらぁー?」


「サッ、ササササンタさんが!! サンタさんがぁ!!」


シャナは不安のあまり、正気を保てずにいた。必死にサンダクロウズのいる方向を指差すのがやっとだったが、ケンジにとってはそれだけで十分対策をとる材料になった。


「ふぉっふぉっふぉ」


「なっ? アイツ……シャナとやら、こっちだ!」


ケンジはシャナに、サンダクロウズからできるだけ離れる様、指示を出した。シャナはそのまま、ケンジと合流した。


「ケンジさーん(泣)」


「安心しろ、ヤツは近付かない限り、攻撃してこない様だ……北東へ向かったな……北東!?」


「あ……」




(タクヤが居る!!)


(タクヤさんが居る!!)




二人に不安がよぎったのも束の間、サンダクロウズはもうタクヤと目と鼻の先まで近付いていた。


「『銀世界の結晶』、ねーなぁ、ドラコぉ」


「キューン……」




「ふぉっふぉっふぉ」




『結晶』を探していたタクヤだったが、遂にサンダクロウズが彼の前に現れた!


「!! てめぇは!?」


「キューン、キューン!!」


サンダクロウズの顔を見るや否や、タクヤは怒りを露にした。


「さっきはよくもやってくれたなー!! クソサンタぁぁああ!!」


「キューン、キューン!!」


と、そこへ――、


「あっ、アレは!!」


「タクヤさん!!」


サンダクロウズを追ってきたケンジとシャナ(とダイスライム)は、サンダクロウズと一発触発の状態のタクヤを目にして、大声で叫ぶ。




「タクヤぁぁああ!! そのサンタから離れろぉぉおお!!」


「タクヤさぁーん!! 逃げてぇぇえええええ!!!!」




「ふぉっふぉっふぉ」


サンダクロウズは再び笑いながら白い袋を上空から投げてきた。


「クソサンタぁぁああ!! コレでも食らえぇぇえええええ!!!!!!!」




『タクヤ:戦う、手槍!!』


タクヤはたまたま持ち合わせていた『手槍』を、白い袋目掛けてぶん投げた。




「ザクッ」




「ふぉ!?」






「ボッガァァアアン!!!!」






「ふぉぉおおおお!!!!」




袋は槍に貫かれ、サンダクロウズの近くで大爆発を起こした。




『サンダクロウズ、HP:0/310、サンダクロウズは力尽きた』


「よっしゃー! やりぃ!!」


『タクヤは経験値をもらった! タクヤLvアップ47→48』


「はっはっはぁー、どんなもんよ? はぁーっはっはっは、はぁーっはっ……」


遠くで高笑いしているタクヤを見つめていたケンジとシャナは、少し冷めた様子で、会話を交わしていた。


「おい……シャナとやら」


「は、はい……ケンジさん」


「次……あのサンタが現れたら、お前もああやって倒せ」


「私が投げられる装備は、短剣ぐらいですよぉ……(泣)」




一方でタクヤはというと――、


「はぁーっはっっはっは……ん?」


サンダクロウズが爆死して落下していくのが目に入った。居ても立っても居られないタクヤは、それを追っていく。


「待ていー!! その泣きっ面を拝んでやらぁー!!」


サンダクロウズは雪の敷き詰められた地面に落ちた。


「ぼふっ」


「ふぉ……」




瞬間――、


「キラッ」


タクヤは、サンダクロウズが落下した衝撃で雪の中から飛び出した輝くモノを見逃さなかった。


「アレは……もしや……!? 行くぞドラコ!!」


「キューン」


「まさか……アイツ」


「ええ……」


ドラゴンのドラコと一緒に高度を低くして滑空するタクヤの姿から、ケンジとシャナは“まさか”のとんでも展開を微かに想像する。


「パシッ」


飛び出した光り輝くモノを手にするタクヤ。その表情は満面の笑みで満ちていた。


「うおおおおおおお!! 『銀世界の結晶』、ゲットだぜ!」

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