第三十四話 氷山岩(ひょうざんいわ)
「キューン」
「ヒーン」
元居た場所から、タクヤは北東へ、シャナは北西へと、それぞれドラゴンのドラコ、ペガサスのペガちゃんに乗り、『銀世界の結晶』を求めて空を進んで行った。
地平線は真っ白な雪と言うよりは、ギラギラと光る銀色の様に見えて、眩く映った。
「ザシュッ、ザシュッ」
「フン……」
「ぬらぁっ! ぬらぁっ! べっ!」
「ブシュー」
一方で地上では元居た場所から、真北へ進むケンジとダイスライムだったが、積もった雪道を、ケンジは光の剣で掘り起こしながら、ダイスライムは体液を吐いて溶かしながら進んで行った。
――、
数分ほど時間が過ぎただろうか……。ケンジとダイスライムが進む雪道に、異変が起きた。
「ピシ……! ゴゴゴゴゴ……」
「!」
「ぬらぁっ!」
地面にヒビが入り割れ目ができ、その割れ目がどんどん大きく広がって行ったのだ。ケンジに衝撃が走る!
「! 何だ!? ステージのギミック? いや……コレは……」
『氷山岩達が現れた!!』
「やはり敵か! くっ!」
『氷山岩の先制攻撃! 戦う、地滑り!』
できた割れ目にケンジとダイスライムをどんどん滑り落ちていく。
「くそっ!」
ザンッと、ケンジは地面に剣を刺し、やっとこさ地割れに巻き込まれない様に体を支えていた。
「ぬらぁっ!」
そこへダイスライムが割れ目に向かって滑り落ちていった。
「くそっ! 足手まといが!!」
ケンジは片手でダイスライムの身体を掴み、滑り落ちていくのを防いだ。しかし――、
「はぁっ! はぁっ! くそっ!」
どんどん角度がきつくなっていく地面に対し、自分を支えながら一方でダイスライムを片手で支えなければならないケンジは、体力の限界が訪れていた。
「パッチ当てで……、こんなに面倒くさい敵を……! 流石、『The battle begins on the farm』難易度が高い……な……(おっと、言ってる場合じゃない……か。俺の腕力で、どれだけ持ち堪えられえるか……?)」
ケンジは、プルプルと両腕が震えているのが分かった。
次の瞬間、地面に刺していた剣から、ケンジの握っていた手が放れてしまった。
(ここまで……か……?)
そこへ――、
「ヒーン!!」
「ケンジさん!!」
「キューン!!」
「ダイスライム!!」
「!?」
「ぬらぁっ!」
ペガサスに乗ったシャナと、ドラゴンに乗ったタクヤが現れた。シャナはケンジを、タクヤはダイスライムをそれぞれ担ぎ、安全な場所へと飛んで行った。
「お前ら……」
「大丈夫ですか? ケンジさん」
「ぬらぁっ! ぬらぁっ!」
「ダイスライム、重てぇー。俺、『外伝』になってからこんな役回り多くなった様な……?」
タクヤのメタ発言が目立ったが、ケンジはシャナと、ダイスライムはタクヤと会話を交わす形で、空を駆け、氷山岩から離れていった。
「ここなら安全ですね」
「ふいー、重たかったー」
飄々としているシャナとタクヤだったが、腑に落ちないケンジは彼女らに話し掛ける。
「お前ら……敵と遭遇して、危なくなった時だけ俺達の方へ戻って来いと、言ったハズだぞ……」
「はい! そうですけど」
「まー、そうだな」
(! ……この中で一番強い俺が、コイツらに助けられるなんて……)
ケンジは表情を曇らせていた。その様子に気付いた、タクヤやシャナは少し息を吐いてからケンジに話し掛けた。
「ケンジぃー、そんな顔するなって」
「困った時は、お互い様ですよ?」
「! ……」
俯くケンジだったが、お構いなしにタクヤとシャナは会話を交わす。
「いやーそれにしてもでっけぇ敵だったな。逃げるしかないのか……な?」
「空が飛べて良かったですね。タクヤさん」
と、そこで――、
「……ありがとう」
物音がするかしないかくらいの声で、ケンジがタクヤとシャナの二人に言った。
「はぁ? 何だって?」
「何ですか、ケンジさん?」
二人の耳にはその感謝の言葉は届いておらず……。
「『ありがとう』って言ったんだよ!! いっぺんで聞き取れ! お前ら!!」
「おーこわ……」
「でも、珍しいですね。ケンジさんから感謝されるなんて……」
「うるせぇ! 今度は俺がお前らを助ける番だからな! 大人しく俺に助けられやがれ!!」
「ははっ、どういう意味だよ」
「あはは(ケンジさん……?)」
ケンジの謎発言は置いておき、再び『銀世界の結晶』探しが始まろうとしていた。