第三十三話 『銀世界の結晶』探し
「――で、今度はまた季節を冬にしたのな?」
フーと、溜め息をつきながらケンジはタクヤに話し掛ける。ローテンションのケンジとシャナとは打って変わって、タクヤはウッキウキで目を輝かせていた。
「だってよー、ケンジぃ。『The battle begins on the farm』のパッチ当てが最近おこなわれて、冬限定の新ステージが追加されたってウワサじゃん(悦)」
「タクヤさん、だからってこのめちゃくちゃ広いステージを……」
タクヤに語り掛けるシャナは、目の前の光景に唖然を通り越して絶句していると、いった様子だった。
タクヤ達の前方には一面の銀世界が広がっていた。
ケンジは更にタクヤに問う。
「タクヤ、本当にこのギルドをプレイするつもりか……?」
「あたぼーよ!!」
「はうわぁぁ……」
「ぬらぁ……」
タクヤの答えにシャナも(ついでに連れてこられた)ダイスライムも、不安しかないと、いった様子を醸し出していた。
「やるんだな、このステージで『銀世界の結晶』を見つけ出すというギルドを――!!」
「確認が過ぎるぞ、ケンジ」
「しかしタクヤ。このギルドは、無限に広がる砂漠から一粒のダイヤを探すコトよりも難しい内容だぞ?」
ケンジの念押しに、ふっふっふーと、不敵な笑みを浮かべるタクヤは、自信満々に言い切った。
「俺は!! 問題やチャレンジの難易度が高ければ高いほど! 燃える男なんだよぉぉおお!!!!」
ハイハイと、ケンジは両手を上げ、手のひらを見せた。シャナとダイスライムは顔を見合わせて溜め息をついていた。
「シャンシャン!」
「!」
「!!」
「!?」
「?」
不意に、鈴の音が聞こえた。それに対し、タクヤ、ケンジ、シャナそしてダイスライムは音のする方へと視線を向けた。すると――、
「あっ――!!」
「アレは……!」
「えっ?」
「ぬらっ! ……ぬらっ!」
サンタクロースの様な姿をした老人が、トナカイが運ぶソリに乗り、空を駆けていた。
(アレは子供からしたら好かれる……好意を抱く身なりをしているが、コレは『The battle begins on the farm』のゲーム内。姿で油断をさせて攻撃してくるモンスターかも知れないぞ……!)
ケンジは思いを巡らせる。
が、しかし――
「おーいサンタさぁーん! プレゼントくれよーう!」
タクヤは一切の疑問を抱くことなく、サンタクロース姿の老人の方へと走って行った。そしてずでっと、ケンジは腰を抜かす形でズッコケた。
「あー、待ってくださーい!」
シャナもケンジに続いて走り出した。
「お前もか! 女!! 用心しろ! モンスターかも知れんそ!!」
「プレゼントー!!」
「プレゼントー!!」
タクヤとシャナは、キラキラと輝く曇りなき眼でサンタクロース姿の老人に、プレゼントをせがんでいた。すると――、
「ふぉっふぉっふぉ」
老人は笑いながら白い袋を空から投げてきた。
「あっ! プレゼントぉー!!」
「やったー!」
タクヤとシャナが白い袋に近付き、喜びを顕にした瞬間――、
「ボッガァァアアン!!!!」
袋は大爆発を起こした。
『サンダクロウズの先制攻撃! 戦う、爆発袋!』
「ふぉっふぉっふぉ(笑)」
『タクヤ、シャナにヒット!』
「ぎゃ――――!!」
「あう――!!」
『タクヤHP:0/285、シャナHP:0/181、タクヤ、シャナは倒れた』
「……コイツら」
「ぬらぁ……」
ケンジとダイスライムは顔を見合わせた。
そして――、
「まんまと敵の攻撃、食らってんじゃ、ねー!!」
ケンジは銀世界の中心で愚痴を叫んだ。
――、
「あのなぁ? このゲームは、序盤から初見殺しして来たりそれなりに謎解き要素もある……」
「ハイ……」
「ハイ、すいません……」
辛辣な様子のケンジに、タクヤとシャナは返す言葉が無い。
「ふー、そんなゲーム内で無条件にサンタがソリに乗ってきて、プレゼントをハイ上げますとかするわけねーだろーが!」
「ハイ……」
「ハイ、すいません……」
「ただでさえ時間食うギルドで、不用意に勝手なコト、するんじゃねーぞ?」
「ハイ……」
「ハイ、すいません……」
「分かったら『銀世界の結晶』探し、始めるぞ。タクヤとそこの女は、ドラゴンやペガサスに乗れるから、空から結晶を探せ。俺とダイスライムは地上で技を使いながら結晶を探す」
「お……、おう!」
「は……ハイ!!」
「そうだな……。タクヤはここから北東に向かって進め。そこの女は北西。俺とダイスライムは真北に向かって進む。敵と遭遇して、ヤバそうになったら俺とダイスライムの方へ戻って来い」
「ガッテンでい!」
「ガッテンです!」
仕切り直して、『銀世界の結晶』探しが再開した。