第三十二話 虹色のキノコ
「大した経験値も、戦利品のアイテムも貰えなかったな。見かけ倒しの雑魚か……」
「そうだな、ケンジ。(最初はちょっと強いかもと、思っちまったぜ……)」
ケンジとタクヤは会話を交わす。それの会話に入れない者が一人――、
シャナである。
(私はまた何もしていないのに経験値もらって、レベルアップまでして……(Lv31➝32)気まずい……)
ここでケンジは何の気なしに口を開いた。
「まあ、米と栗が手に入ったから、栗ご飯作れるな。離れの精米機を使って米、精米だ」
「うーん……」
この状況を是としない者が――。
タクヤだった。
「何だ、タクヤ? 何か不満でもあるのか。オススメの栗ご飯が食えるんだぞ? オススメの――、だ」
「るせっ! 俺のオススメを連呼するな。なーんかもう一品欲しいんだよなー。主食と……ほら、主菜じゃなくとも、副菜くらいは……って」
「じゃっ! じゃあ山に登りましょう! キノコとか! いいんじゃないでしょうか!?」
不意にシャナが一声、大きく発した。ケンジとタクヤはシャナの方へ振り向く。
「あ……(安易でしたか……?)」
「……」
「……」
二人は下を向き、フルフルと震えている。
(やっぱり安易だったんだー!?)
『良い!!』
「!?」
二人は目を輝かせながら、突如としてシャナの意見に同意した。
「キノコか……俺の地元じゃ、なかなかお目にかかれない食材。『The battle begins on the farm』内のはどんな味か、食してみる価値はありそうだ」
「キノコ狩りかぁー。何年ぶりだろ……? 採るだけでも楽しいんだよなー。山、登るぞ! ケンジ、シャナ!」
(褒められた……?)
ケンジとタクヤがノリノリになっていたので、胸をなでおろすシャナであった。
――、山にて。
「さっすが『The battle begins on the farm』! うちの実家の山々まで、再現度たけーなおい。実際の山でも椎茸がある場所に椎茸が生えてら!」
「だがタクヤ、椎茸だけじゃあ味っ気ないぞ。他のキノコも採って帰ろうぜ?」
「このキノコはどうでしょうか!?」
タクヤとケンジが会話を交わしていると、何か珍しいキノコを発見したシャナが、二人に割って入った。
「こ……!」
「これは……?」
二人は言葉を失った。そこにあったのは、虹色に輝く、世にも奇妙なキノコだった。
「に……、虹色だと……? タクヤ、これは……?」
「ああ、ケンジ。こんなキノコ、初めて見るぞ。ゲーム内のオリジナルキノコ(?)か……? こういう時、先ずは――」
「食べてみる」
「パクッ!」
ケンジが何気ない一言を言い、シャナは虹色のキノコを食べた。
「……ってちげーだろ、ケンジ!! 山菜に詳しい地元民に聞くか、図鑑とか〇oogleとか見て調べる、だろ!? シャナも! 食ってんじゃねぇぇええ!!」
「うぅ……」
シャナが目まいを起こし、その場に倒れ込んだ。
「ん!?」
「! シャナ!?」
タクヤがすかさずシャナを抱きかかえた。
しかし、シャナの様子はと言うと……。
「うへへへー。ケンジさんがいっぱいー。ケンジさんがいっぱいー(悦)」
((君の目の前にはどんな光景が広がっているんだ、シャナ!?))
ケンジもタクヤも、シャナの様子にドン引きしていた。
「ッハ!!」
「おっ?」
「シャナ! 気が付いたか!?」
シャナの表情が変わった様に見えたので、タクヤがシャナに声を掛けた。
しかし――、
「私のケンジさんは! 誰にも渡しません!!!!」
「!!」
「? おい、タクヤ……」
「あっ、何だ? ケンジ」
「たまに思ってたけど、コイツってキモくないか……?」
「……」
ともあれ、
『シャナが現れた!!』
「戦うことになるのかよ――!?」
「タクヤ、冷静になれ。俺達の中に、状態異常を回復できる魔法使い系役職が――」
『ケンジ:魔剣士』
『タクヤ:ドラゴンマスター』
『シャナ:ペガサスナイト(キノコ毒状態)』
「いねえぇぇ――――!!!!」
「なぁにギャグってんだ、ケンジ! どーするんだよ!? シャナがキノコ毒? 状態に……」
「やむを得ん。こうなったら……」
――、
『シャナ、HP:0/181、シャナは倒れた』
「ぅえー」
「こうなるんかい!?」
「この後、持っている復活の薬草を使って生き返らす、これが手っ取り早い!」
「ケンジ、お前……」『〇ズロットじゃねぇかぁああ!?』打開策が他に無さそうだったので、その言葉をタクヤは、ノドの奥にしまっておいた。
――、
「ケンジ、シャナ。椎茸が少しだけど手に入ったし、この山を下りよう!」
「まあ、面倒事は嫌いだからな」
「うぅ……キノコアレルギーになりそうです……」
三人は山を下り、タクヤの実家(ゲーム内の)に入手した食材を運んだ。離れにて、精米機を使い精米し、準備が整ったので栗の皮をむき、炊飯器で栗ご飯を作った。栗ご飯が炊ける頃、焼き椎茸も焼いて、一通りの秋の味覚がそろった。
「……ん。旨い」
三人で苦労して作った秋の味覚は、格別の味だった。