第三十一話 キョダイアオトンボ戦
「1000人……だと……?」
完全に虚を突かれたケンジに、ふっふっふーと腕を組み得意そうになったタクヤは続ける。
「そうだ、ケンジ。どうだ? 驚いたろう」
「そ……、そんなの迷信だ。農家は生産性だろ?」
「いーや、違うね。米一粒を笑うものは、お米一粒に泣くのさ! 農家は生産性だと? 知ったかぶってんじゃねーよ、この“知ったかヤロウ”」
「……」
「はっはっはー(笑)。どうした? 何も言えねーのか?」
声を失ったケンジに対し、タクヤは高笑いさえ浮かべそうになっていた。が――、
「それならお前は、残った稲を独りで鎌使って刈ってろ」
「ッハ!!」
ケンジの辛辣な言葉に、今度は逆にタクヤが声を失った。
「俺らは、栗拾いでもしてるからお前は独りでやってろな、行くぞ! シャナとやら」
「あっ……待ってくださいー、ケンジさぁーん!」
ケンジとシャナの二人はその場から去り、タクヤだけが残った。風がひどく冷たく感じた。
「……刈るか」
小一時間後――、
ケンジの刈りくさし(?)の分の稲をタクヤは全て刈り終えていた。
「フー、一通りできたか……」
「おーい、タクヤ!」
「!」
ふと声がする方へと顔を向けると、そこには珍妙な手つきでトゲのイガごと栗をつまんでいるケンジとシャナの姿があった。
「コレ、栗だろ。どうやって持つんだ?」
「トゲが痛いです……」
その様子に呆れたタクヤは、フーと溜め息をついて言った。
「何だ? 二人とも都会っ子か。地面に置いてそのトゲ、イガが付いている皮を、割れ目に沿って靴で踏むんだよ。長靴が良いんだけど……コレでもいけるか」
タクヤは栗のイガを踏んで、中にある栗を取り出した。
「ほら、こうやるんだよ」
おお! と、ケンジとシャナの二人は目から鱗といった感じだった。
「さっすが! いなかっぺ大将は違うな」
「タクヤさん、凄いです」
「ま……まーな。……ってケンジ、その呼び方はねーだろ!」
「ホントのコトだろ?」
「何をぉ!?」
「シャ――!!」
「ガルルルル!!」
「まあ、まあ二人とも……!」
一発触発のケンジとタクヤをなだめようとするシャナだったが、ここで何かに気付く。二人も、遅れて空中を浮遊するモノに気付いた。
「ケンジぃー! ……!」
「たぁくやぁー! ……!」
空中を浮遊するモノ――それはとんぼだった。
「とんぼだー、すっかり秋めいて来たなぁ……」
「……」
油断しているタクヤに対し、ケンジは警戒心を怠らなかった。
「とんぼー」
「……」
不意にタクヤの後方から――、
「ブーン」
「ブーン?」
「どーん!」
轟音と共に、巨大なとんぼが現れた。
「ギャ――――!!」
『キョダイアオトンボが現れた!! キョダイアオトンボの先制攻撃! 戦う、強風域!』
「ゴォッ!!」
『タクヤにヒット!』
「ぶわっ」
「ああああああああああ!」
タクヤは強風にあおられ、天高く吹き飛ばされた。そして――、
「ああああああああああ!」
――、
「ドシャァァアア!!」
タクヤは地面に落下した。
『タクヤHP:25/285』
「あうぁ……致命傷……」
「ドラコ使やあ良いのに、馬鹿タクヤ。略して馬クヤ。俺の立ち回りを、しっかり見てろ……!!」
ケンジは戦闘態勢に入る。
『ケンジのターン:戦う、剣の光!!』
「行くぞっ! 光魔法!! 遠隔攻撃で仕留めてやる!!」
ケンジの頭上の光の剣は、カッと光を放ちキョダイアオトンボを襲った。
「ブーン……!」
「カッ!!」
『ヒット!! キョダイアオトンボHP:34/347』
「チッ。こんな雑魚を一撃で倒せなかったか……。タクヤ、出番……」
「おうよ、ケンジ! 怒りのドラゴンバーン、お見舞いじゃ!!」
ケンジの声ですくっと立ち上がったタクヤは、今度はしっかりとドラコに乗り大技を繰り出す。
『タクヤのターン:スキル――、ドラゴンバーン!』
タクヤの乗っていたドラゴン、ドラコは羽をたなびかせ、舞い上がり――、
「ゴォォ……ゴォォォォオオオオオオオオ!!!!」
口からメラメラと燃え盛る炎でキョダイアオトンボを襲った。『ヒット! キョダイアオトンボ、HP:0/347、キョダイアオトンボを倒した!』