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第三十話 実りの秋

「――で? 今度は何で『季節』を秋なんかにさせたんだ?」


『The battle begins on the farm』――、そのゲーム内の季節は、現実世界とは違い秋となっていた。ケンジは始まりの村にて、タクヤに疑問を呈する。対するタクヤは、ふっふっふーと鼻で息をしながら腕を組み、自信満々に言い放った。


「秋と言えば、だ――。つまり単刀直入に言おう」


「何が言いたい? さっさとしろ」




「食べ物がおいしい季節なんだよー!!」




「!?」


ケンジは完全に虚を突かれた。タクヤはそれをお構いなしに続ける。


「米の収穫に始まり、きのこ、栗、さつまいもといった秋の味覚に各種ご飯! 俺は個人的には栗ご飯がオススメかな。それに、クリア後の追加要素として、生体情報の認識? とか言ったっけ? それのお陰で五感がゲーム内と共有され、味覚がより一層感じ取られるようになってだな――」




「俺に感謝しろ」




「!?」


今度はタクヤが完全に虚を突かれる。


「この、『時を操るカギ』――、これによって時を遡ったり進めたりして季節を変えるコトさえできててしまう。このアイテムをたまたま捨てずに持っていた俺に、感謝するんだな」


「相変わらず辛辣だな……ケンジ」


「あの……!」




『!』




そこで口を開いたのはシャナだった。


「わっ……私もタクヤさんと、け……ケンジさんとも一緒に美味しいものを食べて、もっと仲良くなりたいです……」


「お前……! シャナ……」


「シャナとやら……」


「はい……」




「まだ居たのか……?」




ケンジの心無い一言に、タクヤはずでっと腰を抜かした。そしてケンジに釘を刺しておく。


「ケンジぃー! お前なあ!!」


「……まだ居ました……」


「!」


すると、シャナはシャナで堪えた様子もなく、少しだけ強気になっているような様子を見せたので、タクヤは意外に思った。


(シャナ……いつ頃からか、強くなったんだな)


一方でシャナの脳内では――、


(ケンジさんが、私が居るか確認してくれた……? 私の安否を気に掛けてくれているなんて……ケンジさん……)


そのお花畑なシャナの脳内音声は、タクヤの目から見てもダダ洩れだった。


「おーい……シャナ……さーん?」




「まぁ兎に角、だ」




「!」


「!?」




そこで口を開いたのはケンジだった。


「タクヤの目的は分かった。ここ、始まりの村の、田んぼ、畑、山、牧場の! 食べ物を採取できる全てのマップをくまなく探し、食材集めと行こうじゃねーか!?」




『おー!!』




二人はノリノリでケンジに続いた。




田んぼ――、


そこにはサラサラと言うべきか、はたまたキラキラと言うべきか、黄金色を帯びて風にたなびく稲穂が一面に広がっていた。ここでずいっとタクヤが身を乗り出して言う。


「稲刈りか……。ストーリー攻略時にも、ここから始まった様な気がするぜ! さて、ここに三つ、人数分の鎌があるわけだが――」




「ここは俺がやる」




「!」


タクヤを遮って、ケンジが名乗りを上げた。


「俺がやるったって……ケンジ、この広い田んぼの稲刈りを一人でやる気かぁ?」


「まあ見てろ」


「?」


ケンジはセレクト画面を開いた。


『装備:光の剣➝大長剣』


ケンジは装備を変え、タクヤ、シャナに声を掛ける。


「おい、二人とも。俺の後ろに寄れ。フー……、行くぞ」




「?」


「?」




二人はケンジの陰に隠れた。


そして――、






「! ! ! !」






「スパッ!!!!」


一振りだった――。ケンジは装備していた剣を振り抜き。田んぼの稲を全て刈り取った。




「わあっ!」


「スゲっ!」




その様子を見たシャナとタクヤは、思わず目を丸くした。




「ケンジさぁーん!」


「ケンジぃー!」




二人はケンジに近付き言う。




「すっごいです!」


「やるな―お前……ん?」




シャナは只々ケンジを崇拝していたが、タクヤはあるコトに気付く。田んぼの端っこに刈りくさしがあったのだ。それを見逃さない田舎出身のタクヤは、少々熱くなりケンジに檄を飛ばす。


「ケンジぃー! お前なぁ……田んぼの端まで全部刈って、稲刈りだろ!? 大技で派手にやるのが稲刈りじゃぁ――」




「稲刈り機使ってもこんなもんだろ?」




「!?」


容赦ないケンジに、タクヤは虚を突かれた。


(た……確かに稲刈り機で刈り取れなかったのは鎌で稲刈りするが……稲刈りってのは……米作りっていうのは……)




(回想)


何時しかの夏――、幼き頃のタクヤは、父の顔色がおかしいコトに疑問を持っていた。


「オヤジー、何か目ぇ腫れてね?」


「ああ、タクヤ。田んぼにまいた虫除けが目に入ってな」


「田んぼって、そんなアブねー薬使わないといけねーの?」


「ああ、タクヤ。広ければ広いほど、必要になってくるんだ」


「へー。大変だな」


秋、タクヤの食卓にて――、


「新米のご飯、うめー!!」


「はっは、そうだろ、タクヤ」


「美味しいお米作ってくれて、ありがと。とーさん」


(回想終了)




「ケンジ……」


「?」


タクヤの物々しさに、ケンジははてな顔で首をかしげる。




「お米の一粒には、1000人の神様が住んでいるんだ!!!!」





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