第三話 貧富の格差
「19歳!? ……大学生だと!!?」
「……」
ケンジはタクヤに対して、返す言葉が無かった。
「じゃー、俺に向かって敬語使えよ。今から。今、この瞬間から!!」
「……やだ」
「あ?」
「……やだ」
「『やだ』じゃねーよ。『やだ』じゃあ。年下なんだろぃ?」
「……確かに、俺の方が年下だが、俺より弱いヤツに敬語使うのは……やだ」
「!!!!」
タクヤは、ガーンと雷に打たれた様な気持ちとなった。
「じ……、ジブンヨリヨワイヤツニ、ケイゴヲツカイタクナイトナ……?」
「……使いたくない」
ケンジはプイっと他所を向いていた。
「アア、ソウデスカ……」
「んなことよりも入るぞ、タクヤ。俺の実力をとことん見せてやる」
「ハイ……、ミセテクダサイ」
ケンジはタクヤの腕を掴み、離れの展示場へと足を急がせた。
展示場――、
ここに、現ホストであるプレイヤーの、ケンジが集めた装備アイテムが展示されてある。
「どーだタクヤ。これが、俺の集めた装備アイテムの数々だ!」
誇らし気に胸を張って声高らかに言い放つケンジ。
そこには、銀の剣、銀の槍などといった強力装備アイテムや、銀の弓矢、手斧などといった飛び道具の装備アイテムが、ぎっしりと壁一面に並べてあった。
「うおっ、すげっ!」
余りにも煌びやかな光景を前に、生気を取り戻したタクヤ、並べてある装備アイテムを舐め回すように目に焼き付けていった。タクヤの様子を見て、鼻でクスリと笑ったケンジは更に誇らし気に、自慢するようにタクヤに話し掛ける。
「どうだ? 凄いだろ。俺は装備アイテム全種類を集めて、ここに展示したんだ」
「くれ」
「は?」
「ここにある装備アイテム、全部くれ」
「ゑ?」
タクヤはケンジに近付き、悪そうな顔をして言うのだった。
「俺はこのゲーム、全クリしなきゃならねぇ理由があるんだよ。だからさぁ、ここにある装備アイテム、全部献上してくれねぇかなぁ、ケンジくぅん?」
「な……何だよその理由ってのは……」
「それはだなぁ」
「……?」
「このゲームの舞台となった実家は! 俺の実家だからなんだよぉぉおお!!!!」
「……ゑ?」
「そんでさぁ、うちの家族がこれまたひでぇーんだよ。実家の村とか、実家の母屋とかの風景をアイデア料にしてもらって贅沢三昧。ブランドもんのバッグ買う姉や、ギャンブルに走るオヤジ、かーさんは株に手を出して失敗するわで、俺にはこれっぽっちも、コレ、くれなかったんだぜ?」
タクヤは人差し指と親指で輪っかを作りながら話している。ケンジはポカンと口を開けたまま、言葉を発さずに思いを巡らせていた。
(げ……、ゲームの舞台になった実家に住む張本人が、目の前に……。しかもその実家の家族が総出でkz……。このゲームの舞台裏、こんなんだったのか……)
「だからよぉ、ここにある全部の装備アイテム、俺に譲ってくれねぇか?」
「無理だ」
「っはぁぁああっ!!」
タクヤは再び雷に打たれた様な気持ちになった。
「そ……、それは気持ち的に、無理と、言うのか? それとも――」
「そういう仕様なんだ」
「!」
「知っているかもしれないが、装備アイテムをプレイヤー同士で交換するコトはできる。しかし、ここに展示した、展示場に飾った装備アイテムは二度と装備するコトはできないし、ましてや、ほかのプレイヤーに渡すことはできない」
「ガーン……ガーン……ガーン……」
タクヤはショックのあまり、膝から崩れ落ちた。
「そんなショック受けずに自分で集めろよな……! そうだ! お前の……タクヤの展示場はどうなってるんだ? 見せろよ」
「そんな、人様に見せられる様なモノでは……」
「いいから! ココ一旦出るぞ」
「……」
タクヤは口を閉ざしていた。この後、ケンジに言われるコトが大体分かっていたからである。
『これだけかよ』
その一言を聞く、ただそれだけに終わると、予想が付いていた。
「外に出られたな。お前側をホストにして――と……よし! 行くぞ」
「わわっ! 待って!」
ケンジは再びタクヤの腕を掴み、離れの展示場へと足早に進んでいった。
「何だこれ? 銀のグローブに、盗賊系が使うナイフ――、これだけかよ? 10個もねぇじゃんか」
「ぐあっ! 予想より多くの罵声がっ!!」
タクヤは心臓を矢でぐさりと刺された気分だった。
「ふーん、こんなもんかよ……あ! 牧場! 牧場はどうなってる!?」
「? ボクジョー?」
ケンジの一声に、はてな顔のタクヤ、どうやらケンジの言う牧場については、ノーマークの様だ。
「何だ、知らないのか? 始まりの村の東には、牧場があるんだよ。まぁ、行ってみれば分かるか。よし! 着いてこい」
ケンジはまたしてもタクヤの腕を掴む。
(久しぶりにプレイしたら、何か見知らぬ大学生に振り回されっぱなしなんですが……)
何とも腑に落ちない、タクヤだった。