第二十九話 ほこたて
「さあ、褒美じゃ」
はらりと、包んでいた布をマリン族の一人が取ると、そこには矛と盾がギラギラと強い輝きを放ち存在していた。
「こ……これは……?」
「何でも貫くコトができる矛と、どんな攻撃をも防ぎきれる盾じゃ」
思わず息をのむタクヤに、ニヤリと笑みを浮かべるカノンは、自慢気に言葉を発していた。
「! ――」
タクヤは喜びのあまり言葉を失い、バタバタと両腕を(なぜか)上下に動かしていた。そして、その動きをしながらケンジにひそひそ声で話し掛けた。
(報酬が割に合わないってセリフ、前言撤回しろよ!? ケンジ!)
(待てタクヤ、俺の時はこんなの貰えなかった。ランダムで報酬が決まるのか……? しかし、本当にそんなアイテムが貰えるのか……?)
ケンジはセレクト画面で矛と盾の『攻め』ステータスと『守り』ステータスを確認していた。
『マリン族の矛:攻め999、マリン族の盾:守り999』
「っは! 何だと……!?」
「ほらー、ケンジ。割に合う報酬、貰えたじゃねーか。ていうか、ケンジは装備品、全部集めたんじゃなかったのか?」
「集めたわ! マリン族の矛や盾は、他のマップで手に入れたんだよ!!」
いつになく防戦一方のケンジの様子だったが、ここでシャナが一つの疑問に辿り着く。
「あのー、何でも貫くコトができる矛で、どんな攻撃をも防ぎきれる盾に攻撃したらどうなるのでしょう……?」
「!!」
「!?」
タクヤは目を輝かせて、ケンジは何かを不安視する表情でシャナが居る方向に目をやった。
「よし、試そう!」
「待てタクヤ」
好奇心を存分にくすぐられたタクヤは、即断即決で矛を盾に貫かせようと構えていた。しかし、ケンジはそれを止める。
「なーんでだよ! ケンジ!!」
「嫌な予感がするんだよ。俺は即、お前の実家の離れの、展示場にそれらを飾ったから分からんが、何か、胸騒ぎがする……よーな気がする」
「曖昧だな……」
「タクヤさーん。盾、準備できましたー!」
タクヤとケンジが論議を交わしていると、シャナがマリン族の盾を構えてスタンバっていた。
「よっしゃ、流石シャナ。話が早いぜ! 矛で突いてみよう」
「はぁー、お前らときたら……もういい! 好きにしろ」
ノリノリの二人に反論できず、ケンジは頭を抱えて、諦めた様子だった。
「主ら、何をしておる?」
「カノンさん! 報酬の装備アイテムが、どんな性能か、確かめてるんスよ!」
「左様か……」
カノンも、これからおこなわれようとする事態に、興味を持っている様子だ。
――、
「じゃあ、行くぞ!」
「ハイ! タクヤさん!!」
タクヤはドラコに乗り矛を右腕で構える。次にドラコは低空飛行しながら盾を構えているシャナのもとへ近付いて行った。タクヤの攻撃の射程範囲内にシャナが構えている盾が到達する!
瞬間――、
「とりゃあああああああああ!!」
タクヤは盾を矛で貫こうとする! すると――、
「バキッ!!」
「グシャ!!」
矛は折れ、盾は穴が開いた。
『マリン族の矛は壊れた。マリン族の盾も壊れた』
「っはぁぁああ!」
「あぁ……」
タクヤとシャナは、意気消沈した。
「見ろ、言わんこっちゃない」
ケンジはほら見たコトかと、手を頭の後ろで組んで不貞腐れていた。
「主ら、何がしたいのじゃ?」
カノンも呆れ返っている。
「カノンさーん! 予備のヤツで良いんで、もう一つずつ! 貰えないでしょうか!?」
「主は阿呆か? 今ので最後じゃ。もう矛も盾も無い」
「ガーン……ガーン……ガーン……ガーン……」
タクヤを、衝撃が襲った。そこでシャナが深々と頭を下げながら割って入ってきた。
「すいません!! 私が言い出したからこんなコトに……」
「言い出しっぺは、お前だったな。シャナとやら。やっぱりお前は、ろくなもんじゃないな」
「ガーン……ガーン……ガーン……ガーン……」
シャナを、衝撃が襲った。
カノンの館――、
そこには石化した様に灰色になったプレイヤー二人と、ボロボロになった装備品の残骸が転がっていた。
「主ら、本当に何がしたいのじゃ?」
カノンは只々、呆気に取られていた。