第二十八話 雪狐戦
白い狐は、口から如何にも凍えるほどに冷たそうな、白い吐息を吐き出していた。ここでタクヤとケンジは会話を交わす。
「! ケンジ!!」
「ああ、タクヤ! 恐らくアイツが湧き水を凍らせて、都に流れるはずの水を少なくさせているんだ……!」
「なら、あの狐を倒すしかありませんね!」
未だに積極的なシャナも、会話に入ってきた。
「では! 尋常に!!」
『勝負!!!』
『雪狐が現れた!』
『ケンジのターン:戦う――、光の剣』
「行くぜ!」
ケンジが装備していた光の剣は、カッと光り輝き、その光は雪狐を襲った。
『ヒット! 雪狐、HP:445/950』
「よし、効いてるな! ケンジ!!」
「……」
「ケンジ……?」
ケンジはタクヤの呼びかけに、渋い顔をしていた。そしてケンジはそれ以上、パーティに対して反応を見せなかった。
何故か――?
パーティのエース格として、周りに弱みを見せない為だ。
以前、タクヤの実家の母屋には、宿代だけ出して泊まらなかった。その慢心が今の状況を作り出したのだった。つまり、ケンジのMPが尽きてしまっていたのだ。この事態を悟られまいと、ケンジはだんまりを決め込んでいた。
「? 冬になったから、日の入りが早い! 日没までに確実にヤツを倒すぞ、ケンジ!」
『タクヤのターン:戦う――、槍で刺す』
『ヒット! 雪狐、HP:149/950』
「っしゃああ!! 次のターンには、倒せるな!」
タクヤは一人、意気揚々としていた。しかし、ケンジの不安は強まる一方だった。
(クソっ! 何であんなへまを……)
(……ケンジさん)
その様子を、シャナは見つめていた。
『雪狐のターン:戦う――、真冬の息吹!!』
雪狐は、口一杯に吸い込んだ空気を、凍えるほどに冷たい冷気に変えて吐き出した。
「!」
『タクヤにヒット! 効果は抜群!! タクヤ、HP:99/279』
「くっ! 飛行系の役職は、氷属性に弱いのか……? シャナ、気を付けろよ!」
「……」
『シャナのターン:アイテム――、ポーション』
「!」
「!?」
突然アイテムを使うシャナに、ケンジとタクヤは虚を突かれた。
『ケンジ、MP:30/30』
「しゃ……シャナ?」
「お前……!」
「ケンジさんが光の剣を使えれば、皆でこの戦いに勝てると、思いまして……」
(回想)
フーと、溜め息をついた後、タクヤはシャナに近付いて、ひそひそ声でアドバイスを送るのだった。
(シャナ、ケンジの使ってる、光の剣。アレ、MP少なくなったら遠隔攻撃できなくなるから、ケンジに対してはポーション渡した方が、良いハズだぜ?)
「え? あ……ハイ! ありがとうございます!」
(回想終了)
「ハッ!! あの時の!?」
タクヤは開いた口が塞がらない様子だった。
『ケンジのターン』
「……」
(頑張って! ……ケンジさん……!)
『戦う――、光の剣』
ケンジは無言で光の剣を掲げた。ケンジが装備していた光の剣から放たれた光は、再び雪狐を襲った。
『ヒット! 雪狐、HP:0/950、雪狐は倒れた! パーティは経験値とポーションを手に入れた! ケンジLvアップ50➝51、タクヤLvアップ46➝47、シャナLvアップ28➝31』
「よっしゃ!」
喜びに満ちたタクヤはまずケンジと、そしてその次にシャナとハイタッチを交わした。その後、ケンジは少しの時間シャナを見つめて、言う。
「お前……少しは役に立つんだな」
(褒めてもらったぁぁああ!!)
シャナは両目にハートマークを浮かべ、心の底から喜んでいた。
タクヤは、もうこの恋は終わったモノと自らに言い聞かせ、暖かく、少し切ない表情で穏やかに二人を見つめていた。
そして――、
「よーし、皆で勝てたな!! ケンジ、よくやった! シャナも、ナイス判断!」
タクヤはケンジとシャナに対して、肩を組む形で寄り添い、称賛の言葉を発した。
「よせよ、めんどくさい……」
「わわっ、タクヤさん!?」
ケンジとシャナはそれぞれ、嫌がったり驚いたりしてタクヤに答えた。
「ひとまず、一件落着。カノンのとこへ行こーぜ?」
パーティ一同は、手漕ぎの舟でカノンの館に向かうコトとなった。
――、
カノンの館にて――、
「人間、よくやってくれた。褒美をやろう……そこの者」
カノンの一声で、マリン族の一人が、何か布で包まれたモノを運んできた。