第二十三話 このままで
「なるほど。好きな女の子ができて、その子には別に好きな男の子がいる――、というコトなんだね?」
「ハイ……。俺、結構本気で……なのに、全く振り向いてくれそうになくて……」
タクヤは、恋の悩みを店長に打ち明かした。どうやって出会ったか等は、気恥ずかしくて言わずじまいだったが……。店長は顎に手をやり、首を傾げながら眼を瞑り言った。
「うーん、恋愛で悩むのは、まだタクヤ君も若いから大いに結構なんだが、こうも仕事に支障を来たすとは」
「すいません……」
「ちょっと休憩入れたら、表に出て仕事してもらうよ。それから――」
「?」
「後悔の無いようにね。あとは、本当にその人のコトが好きなら、相手にどうやってもらいたいだとか、自分に振り向いてもらいたいだとかじゃなくて、その人にとって何が一番幸せか、どうやったら幸せになれるかを考えてあげないとダメだよ」
「!」
「じゃ、5分後には仕事に戻ってね」
店長がそう言い残し、事務室から出て、仕事に戻って行った。店長の発言が、深く心に突き刺さったタクヤはハッとなり、思いを巡らせる。
(……シャナにとって何が一番幸せなのか……。どうやったらシャナが幸せになれるのか……)
――、
「いらっしゃいませ!(一生懸命、シャナが好きだ。だから……俺は……)」
その週末――、
予めチャット機能を使って日程調整し、集まるコトを決めていた、タクヤ、ケンジ、シャナはゲーム『The battle begins on the farm』にログインしていた。鉢合わせて即座に、シャナは深々と頭を下げ、言葉を発した。
「あ……あのっ! 今回も、なるべく足手まといにならない様、薬草配る係でもいいので頑張ります!」
腕を組んでいたケンジは、不満そうに言う。
「フン! 今言ったコト、覚えとけよ?」
「まぁまぁケンジ、『頑張るって』言ってくれてんだから、いいじゃねーか」
フーと、溜め息をついた後、タクヤはシャナに近付いて、ひそひそ声でアドバイスを送るのだった。
(シャナ、ケンジの使ってる、光の剣。アレ、MP少なくなったら遠隔攻撃できなくなるから、ケンジに対してはポーション渡した方が、良いハズだぜ?)
「え? あ……ハイ! ありがとうございます!」
シャナは意外な発言を聞き、咄嗟に少し声を張って答えた。遠くに居たケンジにも、それが聞こえた様だった。
「そこの女! 何でかい声出してんだ? 行くぞ!!」
「あっ、すいません!」
(一生懸命、シャナが好きだ。だから俺はこのままでいい……)
走り出すシャナを、タクヤは朗らかに見つめていた。
「タクヤも! ボーっとしてんな!」
「ははっ、わりぃ。ケンジ」
タクヤも遅れて走り出した。
始まりの村にて――、
「で――、だ。コウモリン系統にゴブリン系、モンスターを倒していってモンスター図鑑が結構埋まってきた。そこで今日はこの村の隠し要素を拝んでみたいと思う」
「このパーティのリーダーは俺だっての!」
ケンジがパーティを仕切る様に言い、そこへタクヤが突っ込みを入れた。
「! そうだ。この村ってタクヤの実家をモチーフにした家があるよな!?」
「あるけど、どうした、ケンジ?」
「タクヤん家の中ってどうなってるんだ!? タクヤの部屋とか……10日でクリアしたから、細かいグラフィックとか無視してたからどんなんか分かんねぇ」
「っは!」
『麻衣―Mai』
タクヤは実家の自室にでかでかと貼ってあるグラビアアイドルのポスターのコトを思い出した。
(アレ見られたら!!)
タクヤを悪寒が襲う。
(このままですら居られなくなる……!!)
「ん? どうした、タクヤ? 顔色が変だぞ」
「い……いや、俺の部屋なんか大したことないから、他のグラフィックを見に行こうぜ……? 水の都とか……」
「何か気になるな、よし! 行くぞ」
「ついて行きます!」
乗り気なケンジとシャナだったが……。
(お願いだから、やめてくれ……)
タクヤは一人、悶絶していた。